今までと、これからと
つばめの性格がネガティブ思考に偏り続けたため、書き上がるのに時間がかかってしまいました。
「いや、もう本当に真面目に、心の底からお願いします!!!」
土下座せんばかりに頭を下げるザクさんの圧に、少し仰け反ってしまう。
ビックリした!
「えっと、頭を上げて貰えませんか?」
恐る恐る声をかけると、ガバッとバネ仕掛けの玩具の様に上体を起こしてザクさんが食いついてきた。
「ではレイ様の保護を受け入れてくださる、と!?」
「え、いや、違うんですが………」
何でこうなったんだろう………思わず遠い目になる。そして先程のやり取りが戸惑いと共に思い出す。
「保護システム、ですか?」
着替えが済み、応接室に案内される。和かに微笑むレイさんに出迎えられ、ソファに座った。
「そう。異世界から来た人、迷い人は、こちらに生活の基盤がないからね。
困らない様に、番が保護する事になってるんだ」
「番……ですか」
「ああ、人族には番がいないらしいね。でも獣人族には運命で結びついたペア……番が存在するんだよ。
つばめは、俺の番だから。保護を受け入れて欲しい」
眩しい物でも見るように優しく瞳を眇めるレイさんに、戸惑いしかない。
奴隷商の所に居た時は、もう死んでも良いとさえ思った。でも、今こうやって救出して貰って、私は自由になった。
ここには私の家族に纏わる過去を知る人は居ない。
異世界で常識も分からないけど、もしかしたら彼方側よりも生きていき易いかも………。
口元に手を当てて、考える。
全く知らない人であるレイさんに、これ以上お世話になるのは申し訳ないし………。
「あの番だからと、いつ迄もお世話になるのも申し訳有りませんし、ある程度の一般常識を教えて頂いたら街で暮らそうかな、と………」
言葉を選びつつ自分の考えを伝えると、ピシッとレイさんが氷ついた。
あ……あれ?これは……断ってはダメ……だった、の?
「あ、あの……?」
「何がダメか教えて貰えないだろうか?」
恐る恐る声をかけた私の言葉に被せるように、レイさんが質問してきた。
「ダメとかではなくて。助けて頂いただけでも有難いのに、これ以上知らない方にお世話になるのもご迷惑かなと思って」
「………知らない方………」
ポツリと呟き、再びレイさんはフリーズ状態に。
これは……言葉を選び間違えた感が満載……。
困惑している私に、冒頭のザクさんの発言となる。
「よく分からないのですが、そもそも番って何をすれば良いんですか?
それはレイさんの近くにいないと、ダメなものですか?」
ぴくり。
レイさんとザクさんの肩が揺れた。
「そ、そこからでしたか〜………」
ザクさんの、ちょっと安堵したようなため息とは別に、レイさんは真面目な表情で私をじっと見つめた。
「つばめは、俺の事嫌い?」
「?」
「番は、ちょっとニュアンスが違うけど、まぁ夫婦みたいな関係だ。
俺はつばめを、他のヤツに取られたくない。だから保護を受け入れ欲しいし、側に居て欲しい」
「……夫婦…」
「確かに俺達は出会って日にちも浅いし、何ならこうして会話するのは今が初めてだ。
でも、つばめが俺に嫌悪感がなければ、俺と言う獣人を知って欲しい」
翆の瞳が私だけを見つめる。その事がとても不思議で……そして。とても嬉しい。
今までそこに存在しないかの様に、誰の眼にも留まらなかったのに。
じんわり暖かくなる胸元を押さえる。
もしかしたら、この先レイさんも私を要らないと思う時が来るかも知れない、とネガティブな私が囁く。
でも、今こうして言葉を尽くして私を望んでくれるのなら。
頑張って前向きに頑張ってみようと思う。
生活環境も人間関係も、何もかも1から新しく作り上げるのなら、私のウジウジ暗い性格も少しはリセットしても良いかもしれない。
心を決めて、一歩踏み出す事にした。
「レイさんの事、嫌いじゃないです。知りたいと思っています。……あの、保護をお願いできますか?」
人にお願い事をするなんて初めてで、最後の言葉は小さくなってしまった。
レイさんに聴こえたかな?
不安になって、ちらりとレイさんに目を向けた瞬間。
「つばめ!!ありがとう!」
ギュッと広い胸に抱き締められた状態になっていた。
ビックリして瞬いた瞳に、ふわんふわんと揺れる尻尾が映る。
感情を反映させて揺れ動く尻尾に、言葉では表しようのない幸せを感じ、そっとレイさんの胸元に身を預けたのだった。
大変遅くなりました。
読んで頂きありがとうございました。