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異世界で見た悪夢sideレイ

意外にレイさんの愛は重い?

何が起きたか、自分でもよく分からない。


王都設立祭が近付き益々煩雑となる仕事は、忙しいがまぁ毎年の事だと割り切れた。


しかし日を追うごとに募る、この苛立ちはなんだろう?

在るべきモノがない、手に入れる事ができない‥‥そんな、焦燥感とも言える感覚を抱えて、その日も仕事を終えた。


普段なら、こんなストレス的なモノは可愛い女の子達と遊ぶ事で発散できるのに。

最近は遊ぶ事自体が面倒臭い。

仕事仲間からは、お前もとうとう枯れたのか!と揶揄われたが、そうじゃない。


可愛い子、美人な子と戯れても、何だか()()!と感じるのだ。

俺は一体誰と比べているんだろう‥‥。


だから花街には脚が向かず、その日も食堂街に立ち寄り一杯ひっかけて帰るつもりだった。


その路地に目が向いたのは、俺の獣人としてのカンが働いたのか。

建物と建物の間、人1人がやっと通れるくらいの幅しかない、その道。

そこから漂う気配が、俺の神経をザワつかせる。


()()()が、いる。


荒れ狂う感覚を抑え込み、その薄暗い路地に脚を踏み入れた。

建物2棟分の狭い道を進み、僅かな広さがある場所に出た。

四方を建物が囲い、それぞれの裏口となる扉が見える。

有事の際に避難経路となる、下町特有の建物配置だ。


と、その時。

男の怒鳴り声と共に、耳障りな音を立ててガラスが砕け散った。

「この役立たずがっ!!

マトモに見張りもできねぇのかよっ!!」


現状を把握する間もなく、身体が反応する。

反射的に跳躍し、吹き飛んできたモノを受け止めた。


それは、女の子だった。

ちらりと見ただけでも、痩せ細りアザだらけの痛々しい姿。

その瞬間、言いようの無い怒りが込み上げて来た。


なんだ。


()()だ。


()()を傷付けたのは、だれ、だ‥‥。


喉が灼けるように熱い。

ギリギリと奥歯を噛み締める。


裏口から飛び出して来た男は、さらに何かを喚きながら彼女に掴みかかる様子をみせた。


我慢の限界だった。


理性の箍が外れる音が、した。




そこまでは覚えている。

が、それ以降の記憶は曖昧で、気付けば俺の腕を上司であるライル団長が掴んでいる状態だった。


「その辺で止めておけ、レイ」

静かに声をかけられる。

足元には先程の男が、顔を腫れ上がらせ口から血を流し倒れていた。


息がしづらい。

フーっフーっと、唸るように荒く息を吐く俺に、ライル団長はふっと口の端で笑った。


「流石に百戦錬磨の遊び人でも、番は別か。

気持ちは分かるがな。

先ずは落ち着け。コレは俺が片付ける。

お前は、お前の番の世話だけをしろ」


つがい?


俺は息を止め、ライル団長を見つめた。


「番‥‥だと?」


「ふん、身体は正直に反応していたようだが、気付いていなかったのか。彼女はおそらく迷い人だ。

お前の、その反応から察するに番だろうな」


恐る恐る、意識のない彼女を振り返る。


今まで余程酷い扱いを受けてきたのか痩せ細り、薄汚れた格好をしている。


でも瞳を閉じていても分かる。

コレは番だ。

身の内から溢れてくる愛おしさに、苦しくなる。

だが、何らかの違和感も、ある。

何かが邪魔をする、遮っている、そんな違和感。


だが今はそんな事に拘るより、一刻も速く彼女の手当がしたい。

焦る気持ちを抑えて、ライル団長にこの場を離れる許可を取る。

「早く医師に診せたい。

悪いが、この場を任せていいか?」


「また暴れられても堪らん。さっさと行け」


その言葉を背に、俺は彼女を抱えて走り出した。

ここからだと、俺の家に運ぶより診療所に運ぶ方が早い。

幸い、まだ日暮れとはなっておらず、医師も在中しているだろう。


そうして運び込んだ診療所のベッドに彼女を横たえ、診察を願う。


複数の打撲、栄養失調。

そして、左腕の骨折。


くそっ、やっぱりあの男、あの場で殺しておけば良かった‥‥っ!

ギリギリと奥歯を噛み締め、ドス黒く湧き上がる感情を押し留める。


診療所に詰める女性達が、彼女の身体を清め清潔な服に着替えさせてくれた。


そうして改めて見る彼女は、瞳を閉じているせいかやや幼く、だからこそ余計に痛々しい。


だが、豊かな黒い髪、白い肌。

痩せていても、僅かにまろやかさを残す頬。

血の気が引いていてもなお、薄らと色づく唇。


匂い立つ何とも言えない色香を感じ、思わず食い入るように見つめ、その髪に手を伸ばす。

その時、彼女の身繕いを終えたとの報告を受けた医師が戻って来た。


「その子は君の番?」

羊の獣人である彼は、横に伸びる耳をぱたぱた動かしながら訪ねてきた。

「そうだ」

即答する。

そう、コレは俺のものだ。


「そっか」

俺の牽制を軽くいなすと、彼は頷く。

「じゃ、報告。

傷の手当は終わり。栄養状態が良くないから食べさせる必要があるけど。

その首輪がその子の魔力を抑えてるせいで、臓器の働きも影響受けてる。多分食事が取れないよ。

先ずは魔導師に外して貰いな」

「魔力を抑える‥‥?」

「知らない?奴隷が逃げ出さないように、魔力封じの物を身に付けさせるの。

その子、迷い人でしょ?向こうの人族って強い魔力を持つって言うしさ。

それに魔力を抑え込んでいれば、それが誰かなんて分からないし。

そしたら番に見付からずに拐えるでしょ」


事もなげに言う医師に、筋違いと分かっていながら腹が立つ。

しかし1番腹が立つヤツは、番が身近にいた事に全く気が付かなかった自分自身だ。


グッと拳に力が入る。

爪が刺さり血が流れるが、構ってなどいられない。


迷い人のシステムでは、保護する権利は番となる者にある。

そしてその者が保護する旨を伝え、迷い人がそれを受け入れたら、その時点で何人にも覆す事のできない番となるのだ。


なのに俺は彼女に気付かず、保護できなかった。

守ってやれなかった。

奴隷商への怒り、自分の不甲斐なさ。

そして、彼女への申し訳なさ。

そんな、負の感情が身を焦がす。


なのに。

それなのに。


番としての彼女を目の前にして、湧き上がる喜びといったら!

その魔力を封じるという首輪のせいか、何かに遮断された様なもどかしい感覚はあるが。

それでも。


今、彼女はここに、いる。


早く目覚めてくれ。

そして、きっと美しいだろう、その瞳に俺を映して欲しい。

俺の全身全霊が、彼女を求めているのが分かる。


じっと彼女を見つめ動けずにいる俺に、医師は告げた。

「何にせよ、今日はもう遅い。

ここで預かってあげようか?」


「いや、いい」

俺は、そっと宝物を持つ様に彼女を抱き上げた。

「連れて帰る」


彼女が目覚めた時、最初にその瞳に映る人物でありたい。

彼女の瞳に、俺以外を映したくない。

そんな独占欲を内に秘め、屋敷に戻るべく踵を返した。



読んで頂きありがとうございます。

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