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異世界で見た悪夢【前】

長くなったので、前後で分けました。

私を心配してくれて、あれこれ教えてくれた女性はエリアと名乗ってくれた。

彼女は兎族の亜人で、ミルクティー色のふわふわの髪と、やや黄色味が強い茶色の瞳が可愛い23歳とのこと。


何でも隣国の出身で拐かされたらしい。もう家族に会えるのは難しいかもと悲しげに項垂れる姿が可哀想だった。


あれから奴隷商達が、私たちの売値を付けるために様々なチェックをし始めた。

魔力持ちや容姿が整っている亜人は、売値が上がるらしい。

逆に魔力無し、怪我や病気を持つ亜人は二束三文の価値しかなく買い叩かれやすい。

だから、ここにいる間の扱いもとても悪くなる。


彼ら曰く私は元々の価値はあるらしいのだが、着けた首輪のせいで魔力の測定ができず、また体調も悪いままで正しく判別できず悪い扱いの方に回されてしまった。


「くそっ、魔力測定できりゃ高値が付けられるのによ!

下手に首輪外したら、番に見つかっちまうじゃねーか。迷い人は価値が高いってのに、こうも扱いに困るとは、いい迷惑だ!」

「まぁ、コイツの場合、この街に番がいる可能性が高いからな。どっちにしろ売るのは次の街になる。

こっから離れたら、魔力測定の間だけでも首輪は外せるだろうさ」

「せいぜい、この街に居る間は雑用こなしてもらおうぜ」


吐き捨てる様に言い、私はこの街で売られるだろう人達の世話を言いつけられた。

この世界に疎いこと、首輪のせいで体調が悪く逃げ出せないだろうってことからの判断みたいだ。


それからは、辛い日々となった。

奴隷となってしまった亜人達は自分の事で精一杯で、私に対して無関心か若しくは少し嫌味や愚痴を言ってくるくらい。


でも奴隷商達は、酷かった。

この街では売れない私は朝早くからこき使われ、ミスをすると直ぐに殴られた。

次の街で売り出すまでに傷が良くなっていればいいからと、容赦がない。


魔力封じの首輪のせいで目眩が治らず、食事も喉を通らず私はどんどん衰弱していった。


「大丈夫かい?酷い顔色じゃないか。

あんた、このままじゃ死んでしまうよ」

顔を合わせる度に、エリアさんが心配そうに私の背中を摩ってくれる。


「だ‥‥い、じょうぶ、です」

無理矢理笑ってみせる。

向こうの世界でも、こんな風に関わってくれる人は居なかったから、ただただエリアさんの気遣いが嬉しい。

今、ここにこうして存在していることは、醒めない悪夢のようで、いっそ死ねたら楽なのにと思うけど。

もしチャンスがあったら、せめてこの優しい人を逃してあげたいという気持ちだけで、その日その日の命を繋いでいた。



チャンスは、意外に早くやって来た。

それは、王都設立祭まであと2週間となった頃だった。

この国、タータニーチェ王国では亜人の売買は違法となっている。

だから奴隷商達は闇市で売り買いできるように、この国の裏組織の人達と契約を交わさねばならなかった。


慣れた様子で、ロイとクローは契約を結ぶために出かけて行った。

他にも奴隷商の仲間はいたけど、トップの2人がいなくなり仕事がサボりやすいのか、ここぞとばかりに街に消えていく。

どうせ奴隷達は閉じ込めてある、万に一つも逃げ出せないだろうと侮って‥‥。


彼らの姿が見えなくなると、私はフラつく身体を何とか支えエリアさんの所に向かった。


この場所には、見目がいい亜人がエリアさんを含め3人閉じ込められていた。

今日の契約が成立したら、裏組織へ感謝の印として渡すためだ。


「エリアさん、居ますか?」

「ああ、いるよ。どうしたんだい?」

エリアさんが居る事を確認して、私はその部屋の鍵をポケットから引っ張りだした。


今朝、彼らは強制的に身繕いをさせられて、ここに閉じ込められていた。

この扉の鍵は奴隷商の机に隠してあったが、私が盗んでいたのだ。


カチリ、と小さい音を立てて扉が開く。

中には驚いた顔をしたエリアさんがたっていた。

部屋を覗くと、脱走防止のためか窓は板で打ち付けてあり薄暗い。

「エリア、さん。

今あの人達、契約のために、居ないんです。

だから、逃げてください。裏組織の人達にエリアさん達を渡すのは、明日の朝って言ってました。

明日までは見つからない筈だから‥‥!」


一気に喋るには、もう体力が持たなくて。

切れ切れに訴える。


「チャンスだ!逃げるぞ、エリア!!」

同じく閉じ込められていた、犬科の亜人の男性がエリアさんを誘う。


でもエリアさんは動けずにいた。

「だって‥‥。

だって!今逃げたら、この子が酷い目にあうよ!

誰が逃したかなんて、考えなくても分かるだろ!!」

「だが、その子も分かった上での行動だろうさ!

こんな所で売られてみろ!死ぬのが分かりきってるじゃないか!」

「‥‥‥‥‥」


唇を噛み締めて項垂れたエリアさんに、私は精一杯笑ってみせた。

「大丈夫。私、知らなかったフリをする。

こんな身体だから、あの人達も私が何か行動出来るとは思ってないと思うし。

何より、私、高値で売れる予定なんでしょ?

きっと私を死なせないよ」


迷うように視線を彷徨わせた後、エリアさんは小さく頷いた。

「分かった。つばめ、ありがとう。

ただ、あんたのその首輪、私には外せないけど。

出来るだけ傷をつけていく。

刻まれた魔法陣が損なえば、もしかしたらあんたの番が気付いてくれるかもしれないから」


そう言うと、齧歯類特有の強い歯で首輪に噛みついた。

くぅぅぅっと、苦しそうな声が上がる。

「ばっか!何やってんだよっ!!

魔法陣に傷付けるなんて、自殺行為だっ!」

部屋に残っていた男性が叫ぶ。


「煩い!

私に出来るのは、この位だ。

本当につばめ、ごめん」


苦しそうな顔のまま、ぎゅっと私を抱きしめたあと、エリアさんは走り出した。


良かった‥‥‥。

ほっと息を吐きつつ。

私はそっと微笑むのだった。

読んで頂きありがとうございます。

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