夏祭り
ぴーひゃら どん!
お祭りである。時に西暦2013年。宇宙に進出した人類がりんご飴を買いに戻る時代。
そんな中開かれるお祭りはそりゃもう進歩的だった。
「わたあめ下さーい」
「300円ね」
「はーい」
こちら、何の変哲もない男子高校生。ちょっと甘味が好きなのが特徴であろうか。
青いわたあめを頬張りつつ、お祭りの喧騒に身を任せる。
ただ、人の流れに漂う。己は人。人は己。
別にわたあめが人に食べられるわけじゃない。
お祭りに溶けるだけだ。
「わたあめなんて食ってんのか」
話しかけてきたのは、同じクラスの女子。かき氷を貪りつつの登場である。
「君もかき氷食べてるだろ」
「女子が食うのとはちがうだろーが。よこせ」
「やだよ」
少年にはゆずれない、ゆずってはいけないものがある。
「ほう。あたしに逆らおうってのか」
「逆らうとかじゃないよ。これはぼくのだ」
「今から、あたしんだ」
女の子にも大事なものがある。
「なら」
「金魚すくいで」
「「勝負だ!」」
男と女の越えられない壁は、力づくで超えるものだ。
「かき氷、とけるよ多分」
「新しく買ってやるよ。お前も新しいの買えよ」
「なんだ。ぼくの食べかけがほしくて声かけてきたんだと思ってた」
「ねーよ」
少女の顔が赤くなったのを見て口元をゆがめるような少年にはならないでほしい。
「先攻は」
「あたしだ」
「どうぞ」
金魚すくい。そのルーツは古代ローマにまで遡るわけはない遊戯だ。適当に遊べ。
「・・・すくえんっ。むずっ」
少女の戦果、2匹。
「決めよう。そして全てを終わらせよう」
「なんだそのツラ」
「かっこいい顔さ」
少年は決めた。
「わたあめおいしい。ありがとな」
「レディーファーストというやつさ」
「あたしのやるの、見てから0匹てお前」
「これがかっこいいということさ」
「ちげえよ」
「?」
「マジに言ってたのか」
少年少女肩を並べる。花火までもうすぐ。
「2学期、また隣同士の席になるかな」
「知るかよ。ならなくても遊んでやるよ」
「うん」
「始まったぞ!」
どん! どん!
「きれいだね」
「ああ」
「でも、君のほうがもっときれいだ」
「はあ?」
「花火の時はこういうんだよ」
「おかしいのか、お前」
「確かに、君におかしくなってるね」
「話になんねーな」
「ごめんね」
「さっき遊んでやるって言っちまったからな。仕方ねーけど」
「そうだった」
「あたし以外には言うなよ」
「うん」
「ならいい」
夏祭りはもう少し続く。