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桃太郎

昔々、ある所におじいさんとおばあさんが暮らしていました。

2人には子供がおりませんでしたが、夫婦仲むつまじく時を重ねておりました。

そんなある日。

おじいさんは山に柴刈しばかりに、おばあさんは川に洗濯に行きました。


おばあさんが川で洗濯をしていると、川の上流から、


どんぶらこ、どんぶらこ、大きな桃が流れてきました。


「まあ!なんという大きな桃だろう。持って帰っておじいさんと食べましょう」


その大きさからして、数十キロを下らないはずの桃でしたが、おばあさんはひょいと持ち上げてしまいます。これは決しておばあさんが、無双の強者だからではなく。


「まあ、軽い。きっと神様がわたしたちに下さった桃ね」


そういうことです。


「帰ったよばあさんや」


おばあさんが待ち望んでいたおじいさんの帰宅です。


「お帰りなさいおじいさん。今日は、素晴らしいお土産がありますよ」


おばあさんがおじいさんに見せる桃は光り輝き、さぞかし美味しいだろうと思わせます。


「おおおお。なんと素晴らしい桃じゃあ」


「今、切りますね」


おばあさんは包丁を取り出します。もちろんおじいさんが帰ってくるまでに研いでおきました。


ザ、ン・・・


一刀でした。おばあさんの熟練の腕前と思い切りの良さで、桃は一刀にして真っ二つです。


そこには、しかし。あるはずのないものがありました。


おぎゃあ!おぎゃあ!


赤ん坊です。真っ二つにした桃から無傷の赤ん坊が出るなどありえません。いえ、そもそも桃から赤ん坊は生まれないはずです。


「まあ。赤ん坊ですよ、おじいさん」


「ああ。元気な赤ちゃんだ。きっと子供のいない我が家を憐れんで、神様が送ってくださったにちがいない」


「ええ。ええ。わたしもそう思っていましたよ」


けた違いの胆力の持ち主であるおじいさんとおばあさんによって、桃から生まれた子は愛情たっぷりに育てられました。


「桃太郎や。打ち込んでごらん」


「はい!」


あれから数年。桃から生まれた子供は桃太郎と名付けられました。今は剣術のお稽古です。ある日くわを振る桃太郎さんのスイングを見たおじいさんは、桃太郎さんの天賦てんぷの才に気付きました。


「桃太郎はきっと偉いお侍になれるぞ」


「そうですか!きっと偉くなって立派な人になりたいです」


「うんうん。桃太郎ならなれるとも」


おじいさんは桃太郎の晴れ姿を思い浮かべては涙ぐんでしまいます。


「帰ったよ」


「おや、おばあさんが帰ったようだね。しかし、元気がないようだ」


「おばあさん。足を悪くしでも」


おばあさんは怪我をしているのではありません。ただ、不吉な噂を聞いたのです。


「町では鬼が暴れているようなんですよ。川に洗濯に行ったとき、妙に人が大勢いてね。それで聞けたんですけど。こわい話ですね」


おばあさんは不安そうです。


「なあに。鬼もこんな山奥までは来ないさ」


おじいさんがおばあさんを励まします。


「・・・・・おじいさん、おばあさん。僕が行きます。行って、鬼退治をします」


「まあ!桃太郎がそんなことをせずとも。都のお侍さんが来てくれますよ」


「そうだぞ、桃太郎。お前はまだ習いたてなんだ。鬼になんて敵うはずがない」


「いいえ。僕はきっと、この時のために、おじいさんおばあさんの元にやってきたのです」


桃太郎の瞳が燃えていました。


「桃太郎・・・」


「あくまで行くのかい?」


「はい!」


「そうか。それなら、ちゃんと準備をしなくちゃね」


「おじいさん・・・そうね、ちゃんと持っていくのよ」


「ありがとうございます。きっと鬼を退治し、平和な世の中を取り戻してみせます」


「ああ。頑張ってこい、桃太郎」


「元気でね。桃太郎」


おじいさんからは若い頃に使っていた刀、具足。おばあさんからは、キビ団子。


「行ってまいります」


桃太郎は振り返らず歩き始めました。振り返り、2人の顔を見てしまえば、旅立てなくなるからです。


「桃太郎さん!桃太郎さん!お腰に付けたキビ団子、1つ下さいな」


「おお。めしあがれ」


道の横から出てきた犬がキビ団子をほしがります。


「おいしい!こんなおいしいものをいただいては、お共になるしか!これからよろしく!」


「うむ。一緒に行こう」


お供が出来ました。キビ団子1つで命を預けてくれるクレイジーな野郎です。なんて頼りがいがあるのでしょう。


「桃太郎さん!桃太郎さん!お腰に付けたキビ団子、1つ下さいな」


「おお。めしあがれ」


道端の木の上から下りてきた猿がキビ団子をほしがります。


「おいしい!こんなおいしいものをいただいては、お共にならざるを!今後もよろしく!」


「うむ。一緒に行こう」


お供が増えました。またもキビ団子で主従の誓いをするイカレです。きっと力になってくれるでしょう。


「桃太郎さん!桃太郎さん!お腰に付けたキビ団子、1つ下さいな」


「おお。めしあがれ」


道のはしをしゃなりしゃなり歩いていたきじがキビ団子をほしがります。


「おいしい!こんなおいしいものをいただいては、お供以外になく!以後よろしく!」


お供がさらに増えました。またしてもキビ団子で命を張れるアレの登場です。何かを期待してしまいます。


「鬼はどこにいるのだろう」


町まで来ましたが、そこには襲撃の跡のみ。鬼が今、暴れている様子ではありません。


「鬼?それなら鬼ヶ島さ。やつらそこから来やがるんだ」


通りすがりの町人が教えてくれます。


「なるほど。ならば鬼ヶ島に行こう」


桃太郎さんは船に乗り込みました。鬼退治のためと言えば船を貸してくれました。


「あれが鬼ヶ島か」


波の荒い海ですが、雉が風を読んでくれるため、なんとかなりました。


上陸です。きっと鬼どもがわんさかいるのでしょう。でもこちらはたった1人と3匹で充分な精鋭です。勝機はあります。


「鬼よ!町人への乱暴はやめよ!」


桃太郎さんの大声が鬼ヶ島中に響きます。


なんだなんだ


鬼たちがやってきました。


「なんだお前。おれたちの邪魔をしようってのか」


「そうだ!町人から奪ったもの、返してもらうぞ!」


大見得を切りました。これで後には引けません。


「なんて生意気な子供だ!許さん!」


鬼は怒り、桃太郎を襲いました。


そしてその場はてんやわんやの大騒ぎ。桃太郎は何人の鬼をやっつけたか覚えていません。犬がかき回し、猿が囮になり、雉が戦況分析。あふれんばかりのチームワークです。桃太郎さんも含め、命知らずのものしかおりませんでした。


「参った!許してくれ!奪ったものは返す!」


「うむ!二度と襲ってはならんぞ」


桃太郎さんの見事なお裁きです。鬼どもを皆殺しにしては、おごった人間どもが我こそはと覇を競い合う羽目になるのです。ある程度安全な敵は健在でいてもらったほうが良いでしょう。


「ただいま帰りました!」


桃太郎さんは荒れる海に再びこぎだし、町人に宝物を返して、やっとのことで、おじいさんおばあさんの待つ家に帰ってきました。


「まあ、桃太郎や、怪我はないかい?」


「おお、桃太郎。お前は立派なことを成し遂げたぞ!」


おばあさんが心配してくれて、おじいさんが褒めてくれます。桃太郎さんは涙ぐんでしまいます。


「はい。そんなことより、僕には新しい仲間が出来ました」

「わん!」

「きっきっ!」

「けーん!」


桃太郎さんは、おじいさんおばあさんと、お供の3匹と、ずっと仲良く暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。

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