表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/79

豪華客船殺人事件

ブオー!(汽笛)


(ナレーション。若い男性のエネルギッシュさと落ち着きのなさ)

さあ皆さん!今夜も、わくわくナイトドラマにようこそ!ご案内いたしますは、毎度お馴染み、ミッドナイト・朝焼けです!今夜もドキドキの一夜を・・・。


(不安をあおるBGM。だがどこかに滑稽こっけいさを)


今夜の舞台は豪華客船。そして登場人物はある新婚の夫婦。幸せいっぱいで新婚旅行に出立する2人が出会う、恐ろしい物語とは・・・。

(重々しい雰囲気だが、口調の滑稽さで台無しに。頑張れ)


「ねえ、この船、沈没しないかしら」

(若く美しい貴婦人。ただ頭のネジは10本ほど足りない。その代わりにダイヤモンドがはめこまれている)


「ははは。映画の見すぎだよ。現代で船が沈没するのは、自動車がスクラップになるより有り得ないさ」

(若くたくましく頼りがいのある男性。だがブ男。ひと目で人間とは見てもらえない。周りに悪気がなくても)


「そう?不安だわ。だって私達あまりにも幸せすぎるのだもの。もしも神様が人生に帳尻合わせをするのなら、きっとこの船を沈めてしまうわ。だって私達」

(妻、不安そう)


「ああ。ああ。分かっている。僕らは幸せな新婚夫婦だものね。でも大丈夫。僕がきっと君を守るよ。神様だって怖くないさ!」

(夫の勇気ある一言。周りの乗客の笑い声に包まれる)


船に乗り込む2人。新婦が荷物を持っています。新郎は・・・おや。あれは・・・。


「ねえあなた。やっぱりベッドを持ってきて良かったわね。私、寝屋が変わると眠れないの」

(妻は夫に優しく声をかける。夫の言葉にすっかり安心している)


「はは・・は。そう・・だね」

(頼りがいのある夫、ベッドを船に積み込む。そして部屋まで自力で運ぶ。呼吸荒く)


これは、ははは、なんということでしょうか。ベッドを船室に運び込んでおります。これは、すさまじいカップルであります!

(ナレーター驚愕。驚きゆえ、声が重い。先ほどの作った重々しさより遥かに)


「ふうううう。これでゆっくり寝られるね」

(夫、深いため息)


「ええ!あなたってやっぱり素敵!私達のためにこんなに汗を」

(妻、素直な喜び、上品な感激を)


甲斐甲斐しく汗を拭くご婦人。愛あふれる光景であります。

(つまらなさそうに。ナレーターの私生活が上手くいってないことを匂わせて)


「まだ出発までには時間があるね。どうだい船を見て回るのは」

(大仕事を終えて安堵。人生の重荷を下ろしたように)


「ええ。喜んで。あなたと一緒ならどこにだってついて行きますわ」

(妻、素直)


「ははは。大げさだよ」

(夫、妻と上手くいっていて、ご機嫌)


船内は搭乗する客、観光する客でごった返しであります!その中に一際目立つ風体の男が。

(ここは素直に)


「やあ。とうとうこの船に乗ったね」

(軽い声。その頭の容量が推し量れるような)


「やあ。とうとう、さ。この新婚夫婦御用達船にね」

(夫、感慨深く)


「あなた。この方が」

(妻、疑問とまではいかないが、いぶかしげな声色)


「そう。僕の友人で、この豪華客船の船長だ。こっちが僕の愛妻さ」

(夫、2人を紹介する)


「まあ!いつも主人がお世話になってますわ。これからは、夫婦共々お世話になりますわね」

(妻、素直)


「ええ、奥さん。とにかく、今回はこの船の旅を存分にお楽しみください」

(意味ありげに)


さあさあ、夜も更けて参りました。ここからがこの豪華客船の真骨頂しんこっちょうであります!カジノ!オーケストラ!大人の夜を彩る全てがここに!

(やけっぱち。自分の惨めな今を忘れ去るような声)


「君は、カジノは初めてかい?」

(わざとらしく。知っていて言うアレ)


「ええ。こんなにまばゆいのね!」

(妻、素直)


「ふふふ。きっと楽しい夜になる」

(意味ありげ。自分の策が決して見破れないと思ってる小物の声)


「まあ!ナインセブン!・・・コインが止まらないわ。故障かしら・・・?」

(妻、純粋な驚き。のち不審に)


「お、うお・・すすすごい!」

(夫、驚天動地。純粋に驚く一方、計画の変更を考える。ここで手を下すと、目立ちすぎると思い始める)


なんと素晴しい夜でしょう!愛する相手がすぐ側に居る長期休暇に、お金の心配もき消えました!これこそバラ色の人生!

(少し涙声。おれは一体何をやっているのか。人の祝福なんてしてる場合か・・・?)


「ねえあなた。少し、人に酔ったみたい。お部屋で休みたいわ」

(確かに声に疲れが)


「そうか。それは、もう、休まないとね」

(夫、決意する。ここで終わらせると)


夫人を部屋に。自ら運び込んだベッドに乗せます。そして・・・

(無表情な声。全てから関心の失せた声)


「ねえ。君。僕らが出会った日を覚えているかい」

(夫、深い優しさ)


「当たり前ですわ。あの日のこと、一度だって忘れたことなんて」

(妻もそれに答えるように優しく)


「そうかい・・・」

(優しさと殺意が入り混じる)


「僕はね。少しずつ思い始めたんだ。君と出会ったあの日から」

(夫、独白。妻は聞き入る)


「君と。君と・・・出会わなければ良かった・・・って」

(絞り出すような声)


「だからね。ベッドと一緒に持ってきたんだよ。君がリンゴの皮をむいてくれた、ナイフだよ」

(夫、全てを決意したように、硬い声)


「君との人生はここで終わりだ。僕は僕の人生を生きるよ。さよなら」

(冷たく震える声)


「あなたのおっしゃっている意味が分かりませんわ。でもあなたはとても凍えています。どうか、私の血で良ければ、さあ、暖まって下さい。私は、あなたの妻ですわ」

(妻、変わらぬ優しさ)


「そうかい・・・」

(夫震えるまま・・・)


ドスッ(まるでクジラの皮膚に突き立ったシャチの牙のような音)


「幸せだ、そう思った時もあったよ」

(夫。最後の優しさ)


「私はいつだって幸せでしたわ」

(妻、変わらぬ愛。声も一切変わらず)


「な・・」

(夫驚愕。確かにナイフを頭部に突き立てた。出血も・・・出血が少ない!?)


「私の頭部にはダイヤモンド製のプレートが埋め込まれておりますの。オリハルコンでも持ってこなければ通りませんわ」

(妻、愛しい夫に丁寧に説明)


「な、なな・・」

(夫、どうしてよいか分からない)


「あなたの冷たいお怒り、しっかりと私に伝わりました。ねえ、あなた。あなたに私の一つきりの命、捧げてもよろしくてよ。でも、それでは、あなたを幸せに出来ないと思うの。だから私、死にたくありませんわ。あなたと共に幸せになるのが夢ですもの」

(妻、優しく語りかける)


「・・・そうかい!僕はね!君と、君と。僕だって!ぼ、僕も・・・」

(夫、興奮する。そして途中で泣き始める)


「落ち着いて、ゆっくりと話して。お時間はたっぷりありますわ。新婚旅行ですもの」

(妻、愛)


「ぐすっ、うん・・・」

(夫、素直)


なんということ・・・2人には一体どんな経緯があったというのでしょう!

(さっぱり何も、何も分からないように)


「僕は、見てわかるとおりの顔さ・・。それでも、気にしなかった。気にしないようにしてたのさ。それが・・君と出会った。君と出会って、恋に落ちて、愛し合って。ふと我に返った。僕が、こんなに幸せになれるわけ、ないじゃあないか」

(夫、暗い声。絶望を見たような。妻はじっと聞いている)


「女性に相手にされるのは、いたずらの時だけ。からかいの種。それが僕の役割だったんだ。こんな美しい、素晴しい女性と。幸せになるなんて、あるはずがない!!」

(夫、心からの叫び)


「だから、僕は、僕の悪夢を始めさせないようにした。君に捨てられる悪夢をね」

(夫、静かに語る)


「友人の船に誘った。ここなら詳しい船の見取り図も、人の居る時間も、そして、人目のない時間も分かるからね・・」

(夫)


「君を殺す。そして海に捨てる。それでオシマイ。僕はもう、悪夢を見なくてすむんだ」

(夫、自暴自棄気味)


「ねえ。君。僕なんて男と、付き合わせて、すまなかったね。僕なんて・・・」

(夫、再び泣き声が入り始める)


「構いませんわ。あなたがなさりたいようになされば。私、死んでおりません。あなたの番はこれで終わり。次は私の番ですわね」

(妻、静かに強い意思を)


「あ、ああ。ナイフでも、通報でもいい。僕は、犯罪すら上手くやれなかったよ・・はは」

(夫、静か。諦め気味)


「新婚旅行の続きですわ。そして、私があなたに刃を向けるまで、ずっと新婚旅行ですわ」

(妻、しっかり言う)


「・・・・うん?」

(夫、よく分からない)


「あなたの次の番まで、私にお付き合い下さいな。それが私の権利。あなたへの罰ですわ」

(妻、茶目っ気)


「君は、人殺しと、付き合うのか!?」

(夫、今日最高記録の驚愕)


「いやですわ人殺しなんて。あなたはまだ、殺しておりません。ですから良いのです。私が死ぬまでで構いません。お付き合い、下さいな」

(妻、心から)


「君は・・。君は、本当に頭のネジの外れた女だよ・・」

(夫、優しく)


「あなたの妻ですもの。ただのお人形さんとでも思われましたか?ふふっ」

(妻、得意げ)


「そう、だったね」

(夫、全てを諦め、全てを取り戻す)


(壮大な、感動的なBGM。次のナレーションが多少掻き消えても良い)


フィナーレ!感動の終焉であります!この2人のバカップルに神の祝福を!

(BGMに負けまいと怒鳴る。何となく聞こえるくらいに)


「あれ?楽しみにって言ったのに。折角持ってきたワイン飲みに来ねえ」

(純粋に祝う気持ちだった友人。部屋で待ちぼうけ)


ちゃんちゃん!(偉大なるアレ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ