夏始め
「みーんみんみんみん・・・・・」
「鳴いてねえよ。鳴き声作るなよ」
「もう夏じゃない。セミの振りしたって許してくれるわよ」
「そういう問題じゃねえよ。そもそもなんで鳴くんだよ」
「そこに夏があるから」
「セミそのものかよ」
「演技よ。私は女優なので」
「初耳だわ」
「そう?女優兼あんたの姉兼女学生ではあるわね」
「いつから女優なんてやってんの」
「生まれつき。女は女を演じながら生きるものよ」
「それ人間のことだろ」
「女よ」
「・・ある種、すげえな」
「ふふん」
「自慢げにしなくていいよ」
「人間はね、威張れるときに威張っておくものよ」
「あんたは何時でも偉そうだよ」
「まあ。姉に向かってあんたなんて。もう、ご飯作ってあげないんだから」
「ごめんなさい、お姉ちゃん」
「素直ね。冷麺にハンバーグ乗せたげる」
「それはどうかな。豪華だけどさ」
「案外美味しいわよ。アツアツのハンバーグと冷たい冷麺の温度が混ざり合って、食べごろのぬるさになるの」
「食ったのかよ・・すげえな」
「ふふん。プロは試食してからお客様にお出しするものよ」
「女優じゃなかったのかよ」
「表の顔は女優。裏の顔は学生シェフよ」
「へえ」
「じゃ冷麺ね」
「うん」
「出来るまで掃除でもしてなさい」
「したよ。ていうかしてるよ。姉ちゃんじゃあるまいし」
「まあ」
「というか、姉ちゃんの部屋の掃除すらおれがしてるんだよ」
「あらあら」
「冷麺まだー」
「もう少々お待ちください」
「はいはい」
「出来ましたわお客様」
「わーい」
「美味しく召し上がれ」
「マジにハンバーグ乗ってる・・」
「こう、ぐわってかき混ぜて、一気にすする!」
「うおっ」
「熱い!冷たい!」
「混ざってねえよ、それ」
「美味しい!」
「なら良いけど。いただきます」
「うまい!」
「まだ食べてねえよ」
「つい」
「・・・うん。フツーに美味しい」
「でしょう?」
「うん。これ美味しいよ」
「ふふん。ま、弟の料理くらいお姉ちゃんにお任せよ」
「まあ、うん。ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした」