5-16 テロリスト
「そうなったので、しばらくは本当に休暇よ。」
家に帰ってみんなにこう言うと、表情が複雑になってしまった。
休んでもいいど言ったのに、一体何だよ?
ルメナが皮肉る。
「今まであんなにこき使って休暇だと言ってもね、信じられないってことよ。」
「今回は本当だって。
人々が本格的に去る前までは静かに過ごせばいい。ただし偵察は必要だが。」
「分かってるよ。ただ急に休暇だって聞くから緊張がほぐれてきたんだよ。
まあ、君が頼んだ毒は全部用意しておいたから。」
毒という言葉にエリーゼの母娘はさっきより複雑な表情になった。
やはり故郷を壊すのは心痛いことだろう。
しかし、体に良い薬であればあるほど苦い薬のわけだ。
とにかく下ごしらえは終わった。
あとはチャンスを待つことだけだ。
待ちながらメモでもしておこうか。
翌日
エルドリームを2週間以内に去るよう追放令が出された。
当然のことながら、これに反対する声が議会の前に集まったが、思ったよりはるかにうやむやに終わってしまった。
おそらくセネト議長とメリッサ氏が賛成したというのが大きく働いたようだ。
俺もまた、この反対集会に忍び込んで、人々の反応を見た。
泣く人もいて、呆然とした表情も多い。
一様に放棄した人の顔をしている。
2日目
昨夜,もうグリエルを立ち去った人たちがいるそうだ。
このうわさも広がり、グリエルを動揺させる。
通り過ぎる話を聞くと、居住していた人ではなく滞在していた人たちは、すでに出るの準備をしているという。
3日目
正式な人間代表とエルフ族代表が会って話し合った。
最大の論点は住宅や商店などの不動産と土地の問題。
人間側では、これに対する補償がなければ出るまいと粘っているようだ。
それならわたしの出しゃばる時だ。
4日目
メリッサさんにお願いした。
20億リデムをあげるから、これで補償問題を解決してほしいと。
20億の出所についてはエリーゼが持ってきたものってごまかすようにと話した。
どうせ人間を追い出すことに血眼になっているやつらだから、このお金を断るのはむずかしいだろう。
結局はこのお金を使うことになっている。
5日目
補償問題が解決され、人間側も持ちこたえる名分を失った。
メリッサさんの話では,人間側の代表は大変戸惑ったそうだ。
そりゃそうだろう、ここから離れないための名分が一日で消えてしまったから。
この知らせが伝わり、人々は最後の希望を失った。
もう去るしかない。
6日目
ようやく居住していた人たちの中からグリエルを立ち去ったグループが現れた。
そのグループの大きさが相当なものだ。
問題が解決するやいなや、このように立ち去る人たちが多く出てきたということは、追放令以前から立ち去ろうとする人たちが多かったということだ。
つまり、エルドリームに対する不満の大きさであるわけだ。
7日目
一度車輪が転がると、ずっと転がるようになる。
人々の出る速度が加速されていく。
市場には安く処分する物がたくさん出てきた。
これに対してもお金を少し使おうかと思ったが、やっぱりそれは疑われるだろう。
8日目
すでに3割以上がグリエルを抜け出したようだ。
すでに町の人出がめっきり少なくなった。
しかし、まだこの程度では物足りない。
もう少し待つしかない。
9日目
1日でまた物凄い人波が抜け出して5割以上が消えた。
昨日セムスから難民の受け入れがあったことがわかってから、空気は変わった。
もうすぐだ…
十日目
昨日と同程度の人出がグリエルから抜け出た.
さらに、セムスの方に、難民を受け入れる経緯を探るための伝令が出発した。
それが知られる前に仕事を終わらせておいた方が良いだろう。
明日抜け出る人波を見て決めよう。
11日目
「今日で8割は出たんだろうな。」
遠くから関門を眺めながらつぶやいた。
2割が全部職人系のはずはないから…
「明日実行することにしよう。」
そしていよいよ12日目。
「昨日言ったとおり、午前0時になったら行動を開始する。
ルメナ、用意しておいたものは?」
「さあ、よく聞け、お前ら。
毒だと言ったが、厳密に言うと酸性液というのが正しいだろう。
これをあらゆる所に撒き散らすだけの簡単なことだ。
ただ慎重に使うようにして。
私を助けたので知っているだろうが、使った鉱石は氷晶石と輝安石という鉱物よ。
それを適切に組み合わせると、まるで魔法のように全てを溶かす酸性液になってしまう。
このためにわざわざ専用のガラス瓶を作るほどだったから、威力はある程度分かるよね?」
「破壊のための魔法を使うと耳目を集める。
だから静かな破壊方法が必要なんだ。
したがって、ルメナが作ったこれを使って、灌漑施設のような『金属が使われた施設』をすべて破壊する。
金属を使うところならどこでもいいよ。
敢えて区域は設定しない。念のためある程度くっついて動く。
エリーゼ、決心はついた?」
「…うん。」
夜になるまでは静かに待つ。
やがて月が空高く出た。
メリッサさんに見送られて、家を出る。
「4人とも、無事に行ってきなさい。」
そして、グリエルの夜の街を歩く。
夜の街といってもあまりにも閑散としている。
人が消えた夜はあまりにもさびしい感じだ。
だからにぎやかにしてあげよう。
「まずは灌漑施設からだ。
水の供給に支障が生じると、何らかの形で影響を受けるしかない。」
もともと森だったグリエルの至る所には水源地がたくさんある。
そして、そんな所ごとに水をくみ上げる灌漑施設が設けられている。
そんなところを訪ね歩くと、やがて一カ所を発見した。
周りに人はいない。
でも、隠れ魔法はかけておこうか?
4人の姿が一瞬にして消えた。
そして近くまで接近する。
そこには水車が水をくみ上げていた。
この水車を動かすのは機械装置。
よくはわからないが、かなり精巧なメカニズムだということはわかる。
「始めよう。」
ガラス瓶を取り出して機械装置に液体をかける。
ほんの少しの液体であるにもかかわらずあっという間に機械が壊れていく。
それと同時に少しずつ水車の動きが止まっていく。
「こんなふうにすればいいんだよ。
じゃぁ、今から思いきり暴れてみようぜ。」
ワクチンの二次会として、死の峠を越えました。
もし3次があったら私は自殺するつもりです。




