5-10 千年の都市
ここはグリエル議会のある休憩室。
数人のエルフが話をしている。
「セムスにあったバイロンの報告だ。
とてつもない力の激突が観測されたそうだ。」
「あの傲慢な奴がそんな表現までつかうくらいか…」
「たぶんエリーゼだろう。相手がだれかのは知らないが。」
「どうすればいいんだ?人をもっと行かせようか?」
「慎重になる必要がある。
その程度の力を使うくらいなら、かなり感情が激しくなったという証拠だ。
やや間違えればいたずらに問題がもっと複雑になる可能性もある。」
「じゃあ、どうしようっていうんだ?
エリーゼをこのままにしておくのも十分に危険だ。」
「…俺たちが直接出るのも考えておかないと。」
「まずは時間だから、議会場に行くようにしよう。」
「あそこがグリエル…」
山の町角から見下ろされる所。
それは樹海の中心にある広大な都市。
でも自然に違和感なく同化されている。
あそこがエルフたちの故郷であり、生きている古代都市。
「こんなところを破壊するなんて…」
「なんだ、ルメナ。君がそんなことを言うなんて。
まあ、わかるよ。破壊するにはもったいない、美しい都市だ。」
「どういうこと?私はあの広い場所をすべて破壊するには超面倒くさいという話だだけよ。」
「…お前らしいな。」
口ではこう言っているが、3人とも1人の顔色をうかがっている。
エリーゼはさっきから静かだ。
「エリーゼ、今さら後悔してるの?
もし後悔するようなら今言って。
今ここではっきり決めてくれ。」
「…行こうよ。」
そして、ためらいが消えた足取りでグリエルの正門に向かう。
これからが始まりだ。
「それにしてもすごい都市ですね。大きさだけならシュベルテーナよりも大きいかも。」
「グリエルの別称は1000年の都市。
歴史が記録されて以来、最も古い都市の一つだから。
1000年の発展の集約体ってことだよね。」
「いざ頭は1000年ほど退歩したようだけどね。」
「魔王、お前が何を知ってるってそう言うわけ?」
「あーん?!私が間違ったことでも言った?
1000年が経った間、仲良く過ごす方法も分からないなんて、話になる?
5歳の子供たちも知ってることだって。」
「そう言う君も知らないみたいだけど?
そんな浅はかな皮肉って。
人たちと仲良く過ごす話法を学んだらどうかしら?」
はぁ、また始まった。
結局、4日間の日程の中で、ルメナとエリーゼは親しくなれなかった。
というか、むしろもっともめごとになっている。
あれ、どうにかならないかな。
「やめてください。
これからは真剣になるべき時なんですよ。
お互いに喧嘩してどうしようと言うのですか。」
オフィーリアの仲裁にようやく二人が表面的に和解した。
オフィーリアがいなかったら俺はストレスで死んでいただろうと確信する。
オフィーリアもそれなりに2人の関係改善のために努力してくれた。
でも結局あの二人を親しくするのは失敗した。
一体どんな点がずれたのかよく分からない。
「あの二人、なんとかなりませんか…?」
「そうね、今度の仕事をして戦友愛でも咲くのを願ってみようぜ。」
こんな心配を抱えて、いつのまにか正門にたどり着いた。
城門はないが、2重の木柵と堀を作って堅固にした関門である。
その前をエルフたちが守っている。
「エリーゼ、もしかして検問は厳しい方か?」
「通行税さえ払えば通過だわ。検問なんかない。」
「意外ですね。火薬庫のような状態なので、検問も強いと思ってました。」
「…蛮勇よ。
エルフの自分たちにとって脅威になるそうな存在なんかないというのよ。
誰が入ってきても制圧できる自信だろうね。」
ルメナの分析が正しいと思う。
実際、ここには強者が溢れているはずだから。
いつのまにか俺たちの番になった。
「作戦通りいったん別々に入る。
もし君だというのがばれる時に対する保険よ。」
「わかったわ。」
幻影を覆う魔法『ウェービング·ヘイズ』はすでにかけておいた。
多少の不安もなくはないが、門番のようなやつらの実力なら我々の魔法に気づくことは難しいだろう。
「エルフ、通ってもよい。」
やはり怪しむ様子すらない。
エリーゼはグリエルに無事入った。
その次は俺たちだ。
「ちぇっ、人間か。通行税だ。」
「先ほどのエルフはそのまま通過していませんか?」
「エルフだから。テメーは人間だし。」
「…」
「何だ、文句でもあんのか?
じゃないと、猿のようにあばてみる気かい?」
入口からこんな風だなんて。
返事をしないで通行税を支払う。
そして入るんだけど。
「ああっ!」
オフィーリアが倒れた。
そして、それを見ながらニヤニヤするエルフ警備兵たち。
…槍を握っていた手が変わっている。
「なんのまねですか…?」
「はぁ?!この女が勝手に転んだのさ。」
「たった今その槍で足をかけたじゃないですか?」
「証拠あるかい?お前が口答えなんかして気持ち悪かったけど、余計なケチはつけないぞ?」
嘲笑する顔に、俺はもちろん、ルメナは当然頭に火がついた。
こいつらに近付こうとするが…
「我慢してください。私は大丈夫ですから。」
オフィーリアは両手で我々を止めた。
ルメナが気に入らないかのように舌打ちする。
「私がしくじってみなさんにご迷惑をおかけてしまいましたね。
警備兵の方々にも失礼しました。」
オフィーリアの丁寧な態度にエルフ警備兵たちも少しは何かを感じたのか、視線を回避する。
その姿に俺もようやく冷静さを取り戻した。
何もしないでグリエルに入った。
「大丈夫、オフィーリア?」
「これくらいは何でもないです。」
「やっぱりエルフに見えるように魔法をかけた方がよかったかなぁ…
君に悪いことをしてしまった。」
「必要なことだったでしょう?
グリエルの人間に対する態度がどうか分かる初めてのチャンス。
これくらいなら安く得ました。」
こう言われると、かえってすまない気持ちになる。
そして、ルメナには油を注いでしまった。
「うぅ、ムカつく!
あいつら, 後で見てろ!
必ず泣きべそになるようにしてあげる!」
「頼むよ、ルメナ。」
エリーゼは出口で待っていた。
そして、ルメナの表情を見るや否や、何かあったことを直感した。
「何かあったの?」
「今君が思っていることだろう。」
「…ふぅ、ごめんね。私が代わりに謝るよ。」
「これからこういうことをなくそうとしてるんじゃない?それだけで十分だ。」
そう、こんなことを気にする余裕はもうない。
今からやるべきことに比べれば。
グリエルの内部に入る。




