5-9 スケッチ
「ううっ、まだまだお腹に衝撃が…
ルメナに殴られながら、かなり鍛えられたと思ったのに。」
「大げさに言うな。これからやることが多いじゃない。」
セムスに戻ると、やはり大さわぎになってしまった。
周りで騒ぐ声を聞いて、ようやく笑いをこらえている。
神の天罰だとか, 精霊が怒っているだとか, 魔王が再臨しただとか。
いざ、元魔王はここを守ってくれたが。
宿舎に戻ると、俺たちの部屋の方に人が集まっている。
さっき飛び出したときに壊した壁を見ながら、思い思いに推理をしている。
ノリスが俺たちにやってくる。
「君たち、いったいどこに行ったんだ?!部屋がこうなって心配した。」
「非常に驚いて私たちも避難しました。緊急事態だったのでお話しできませんでした。」
「ふぅ、そういうことだったか。
部屋がこんなありさまだから、もしかして巻き込まれたんじゃないかと心配した。
まあ、無事でよかった。」
「部屋がこんな格好になるように放っておいたのは申し訳ありませんでした。」
「なんで君が謝るんだ?人の命が壁より重要じゃないか。
君たちもずいぶん驚いただろうから、ほかの部屋を出してやるからその部屋に移りなさい。」
…やっぱりこの人なら信じられるかも。
馬車の追撃の時もそうだし、今もそうだ。
人の命が最も大切だということを知っている男だ。
「ノリスさん、私とちょっと話しましょう。
一応私が見たのはお知らせしますので。」
「君さえよければ。」
「オフィーリアとルメナは『明日』の準備をお願い。
こっちはおれにまかせて。」
ノリスを連れて静かな場所に行く。
人の気配はない。
「それで、部屋がああなった理由は一体何だった?」
「…エルフと人間が戦ったからです。」
「ちぇっ、またかよ!昨日、そんなことがあったんだけど 飽きなくて…
…いや、ちょっと待って。さっきの衝撃波はどうみてもそんな可愛いレベルじゃなかった。
君は一体何をみたんだ?」
「エリーゼフェブリ。」
この名前にしばらく沈黙が漂っていた。
そして信じられないというように笑っている。
「ハハハ、おもしろい冗談だった。
危うく信じ込むところだったね。」
「そしてそのエリーゼの相手は…」
ほんの一瞬、脅威を与えるように魔力を放出した。
魔力がノリスをかすめ、足は力を失った。
はぁ…はぁ…」
「私でした。」
やっとノリスの目には二つの感情が宿った。
信頼と恐怖の感情がそれぞれの瞳に込められている。
「あなたにこの仕事の収拾のために依頼したいことがあります。
強制でなく商人の取り引きとして。
このエルドリームの葛藤の連鎖を断ち切るために。」
何も言わずに緊張した顔で俺を見ている。
気にせず話を続ける。
「私たちは明日グリエルに発って、どんなことを行うつもりです。
そして近いうちにエルドリーム全体にその影響が広がるでしょう。
その影響で、人間たちがエルドリームから離れようとすることになります。
あなたにお願いしたいことは、その難民たちをここ、セムスで受け入れてもらうことです。」
「大変て…?いったい何を?」
「ご覧になれば分かると思います。機密維持が重要なことなので詳しい説明はすることができませんね。」
「いや、そんなことが起こるなんて…
そうだとしてもここで難民を受け入れろって?
ここはそんな力量が…」
「機密維持をお願いする費用まで合わせて、依頼費用は20億リデム。」
「2…20億?!」
「それくらいのお金なら十分に人を寄せ集めることができるでしょう?
あ、契約金から先にお見せしましょうか。」
指を弾くと、空間がゆがんで中から古風な箱が二つ、出てきた。
「箱ひとつに2億ほど入っているはずです。
どうですか、契約しますか?」
また口数が少なくなった。
ゆっくりと待つ。
「どうして…一体どうしてこんなことをするんだ?
君はただの旅行者ではなかったのか。
このエルドリームで何をしたいんだ?」
この質問に対する答えが、おそらくこの契約の成否を決めるだろう。
だからこそ、真心をこめて答える。
「まあ、素直に人々を助けたいのもあるし、私がエルドリームを経由する間にまた問題が発生するのも面倒で。
っていうのは理由の半分にもならないし。
···友達が辛そうで、悲しんでいるのでこうしているんです。」
数十年を商人として生きながらあらゆる偽りを見てきたノリスは分かる。
真実の言葉だ。
そして本気でこんなことを言う男なら…
「…具体的に何をすればいいんだ?」
「その言葉、契約成立という意味で受け取ります。
ただエルドリームを去ろうとする人たちにお金と物資を配って、税務スに滞在させるだけで十分です。
もちろん一人では不可能でしょうし、セムス全体の協力が必要でしょう。
それもまた20億というお金なら何とかなるでしょう?」
「君が20億というお金をどう思っているのかわからない。
大金だと知っていながら、そんな大金を他人に預けるなんて。」
「あなたの信頼できる人だ、それだけです。
取引というのは信用が重要ですから。
まあ、万が一契約に反するようなことがあったら、さっきの衝撃波の10倍程度の破壊力をお見せします。
これなら私の余裕が納得できますか?」
今の言葉もほらではないことがよく分かったはずだ。
消えていた瞳の恐怖が再び目覚めさせようとしている。
「とにかく、お願いしたことだけちゃんと処理してくれれば、余った金額は全部あなたのものです。それが依頼の報酬です。
エルドリームの人間の数を考えると、2億は残ると思われますね。
今日はこれくらいにしましょう。
それでは明日の朝もう一度お会いすることにしましょう。」
何か言おうとしているノリスだが、口が開かない。
あっという間に暴風のように起こったものに事故がついていけない。
言いたいことがあるが、それが何なのか思い出せなかった。
そんなノリスを残して席を立つ。
「余っている錬金術の材料は把握した?」
「たぶん一度は補わなければならないようだ。
難しいことではないが頭が痛いことだ。」
「グリエル周辺の地図は探しておいた?」
「どうぞ。」
「オフィーリアとエリゼ分の人造共鳴石の製造はどうなった?」
「いま作っているところ。
ただ、アルスマグナで一気に作ったほうがよかったかな。」
「もしかして俺たちを気にする人たちはいた?」
「いいえ、全然。」
「そうか。準備は終わったよ。明日直ぐ出発する。」
翌朝
「こんな夜明けから出発するのか。」
「そこでもやることが多いですからね。よろしくお願いします。」
「行く前に一つだけ聞きたいことがある。
君たちは一体誰なんだ?そのエリーゼと関係してるっていうのはまさか…」
「…今はただ詐欺師にすぎないんです。それでは…」
「やっと来たわね。」
「約束の時間に間に合ってきたぞ。お前が早すぎたんだ。」
「···準備は終わった?信じてもいいの?」
「君がよく助けてくれるなら…」
いつのまにか太陽がすっかり姿を現した。
そしてその年に向けて歩みを運ぶ。
「行こうぜ、グリエルへ!」
最近仕事が忙しくなり、パソコンも取り替えるなどいろんなことが重なって時間が足りなくなりました。
それにまた0章のリメイク作業まで…
いっそ『その病気』で何日か休みたいな考えが出るほど忙しいです。




