4-4 E級昇級試験
都市の名前はブレリー。
ここもまたごく平凡な都市だ。
「都市がかなり大きいな。」
「エルドリームへ向かう行商人たちがよく立ち寄る場所だそうです。
交易の拠点であるわけです。」
まともな検問さえせずに通行税さえ払えば城に入ることができる。
つまり、ここでは大きな問題が起きていないという証拠でもある。
「久しぶりにホッと一息つけそうだね。」
「どうかなさいました?」
「これまで城に入って楽に休んだことがなかったんだ。」
「…たぶん今日もその可能性がありそうですけど?」
何を言うのかと思ったがすぐ分かるようになった。
ひもじさが極限に達したルメナの目に殺気がこもっている。
「この村は丸ごと燃やすと、者畜一匹ぐらいはいい具合に焼けるよな…?」
…ご飯食べに行こう。
いつもより早く宿を取った。
「二人で先に食べていろ。
俺はいろんな情報を集めてくるから。」
冒険者ギルドの位置も知っておくべきだし、お金になるような有用な情報があるかもしれない。
行商人が集まるということは、じきにお金が集まるということだ。
1時間ほど歩き回った結果。
前のマエスとシュベルテナのように何か陰謀のようなものがあって、そこに食い込むことはなさそうだ。
本当に何の異常もない平凡な都市だ。
再び宿所に戻って、食事をして、すぐ眠りにつく。
明日は起きるやいなや、冒険者ギルドとして用事があるから。
明くる日。
ルメナをすぐに起こす。
普段なら布団をかぶることになるが、ポイントの話をするやいなやベッドから出る。
「ポイントさえもらえばいいのにこんな朝から行く必要があるの?」
ルメナがあくびをしながら言う。
「君のことじゃなくてオフィーリアのことなんだ。
オフィリアもいったん俺たちと一緒にいる以上身分を隠しておく必要があるじゃねか。
だから今日はオフィーリアの偽造冒険者の資格を作るつもりよ。」
「もう詐欺にたけたね。」
「なら、このZ級ブローチは捨てましょうか?」
「いや、後で正体を明かすべき時が来たら、その時は正体を証明するための証拠として使えなきゃいけないから、ちゃんと保管しといて。」
冒険者ギルドに入ると、朝にも人が非常に多い。
ギルド規模もかなり大きい方だ。
「こいつらは眠りもないの?」
「良いクエストを先取りするためです。
先に受注した人が主ですから。」
「…ということは、私がもらいたい良いクエストが消えつつあるってことじゃない!」
掲示板に駆けつけるルメナ。
あいつはとりあえず置いて、オフィリアの資格から作ろう。
手続きはマエスと同じだ。
まず身分書類の作成から。
「オフィリア·ステラ。
特技は治癒とバフ系魔法である聖職者…
そして…
…異常ないですね。
それではすぐF級証明を発給します。」
受付は書類にさっと目を通し、その場で判子を押してくれる。
すぐにブローチと証明書が支給された。
「では、これからは昇級を進めるべきだが…」
「これは仕方なく運が良いことを願うしかないですね。」
F級基礎訓練。
俺とルメナは偶然にその過程をスキップしたが、オフィーリアはこの訓練を受けるしかない。
「あの、このギルドの基礎訓練について説明していただけますか?」
「あ、それならギルドの後ろに行けば訓練所があるから行ってみてください。」
「ありがとうございます。
ルメナ!お前一人でクエストしてこい!」
「何だ、仲間はずれかよ?!」
「ポイントをお前に集中させてあげるんだよ。
俺が先にD級になるのがよければ止めはしないよ。」
「行ってくるよ!」
「…扱いに慣れていますね。」
「あいつと1年暮らしてみればわかるよ。
ストレスで死にたくなければ、あいつの扱い方を学ばなければならなかったんだ。」
オフィーリアと一緒にギルドの後ろへ向かうと、すでに修練中の人たちがたくさん見える。
失礼な考えだが, 俺の立場で見るとかわいらしい限りだ。
「思ったより多いですね。」
「あの人が教官みたいだから聞いてみようか。」
遠くから見ても他の人より強そうに見える人が誰かと会話をしている。
雰囲気でみれば何か問題があるみたいだな。
「ここで基礎訓練の説明を受けるように言われましたが。」
「もしかして新人?」
「そうなんですが。」
新人といわれるやいなや顔に笑みがこぼれる。
あ、これ、マエスの薬草屋から見たあの顔だ。
サービスマンの微笑。
「本当にいい時来てくれた。E級昇級がしたいんでしょ?
かんたんだ。ここのほうしきはトーナメントだ。」
「?」
「訓練も何もない。 強い奴を探すのが重要じゃねかよ。
だからF級たちがある程度集まれば、お互いに決闘を繰り広げさせて勝者はE級昇級ということでさ。
昇級になる人は16人のうち4人。
そして残りの4人は再びトーナメントをして昇級ポイントを支給する。
優勝すれば1000ポイントで、D級昇級クエストをもらえることができる。」
「では、そのトーナメント申請には何の制約もないんですか?」
「ないよ。F級なら誰でも申請可能だ。」
「そう言うけど、オフィリア?
いつ開かれますか?」
「それがさ、本当は今日の午後に開かれる予定なのに急に欠員が発生しまって。
今、それについて話し合っていたところだった。
それで、君たちの中の一人が今日の試験を受ける考えはない?
強要するのではない。
実力がまだ足りない人を無理に参加させることはできないから。」
だからそんな微笑を浮かべたんだな。
しかし悪い提案ではない。
むしろ幸運と見て良い。
すぐ申し込む。
「うん?男の方は大丈夫?」
「私は既にE級資格を得ています。」
「なんだよ、それじゃ彼女の応援に来たのか? 熱い仲だね。」
「彼女だなんて、恥ずかしいですね…」
大喜びのオフィーリア。
「なら、後2時からトーナメントを始めることにしよう!
その時まで好きなように休息を持って!」
教官の宣言直後に緊張感が溢れる。
この人たちが今日のオフィーリアの競争者か。
「君はそうしないだろうが、念のため言っておくよ。
力の調節に気をつけろよ。」
「どのくらいならいいでしょうか?」
「相手の攻撃を適当に抑えて、攻撃2~3回くらいで済ませればいいよ。」
「努力してみます。」
こんな汗臭いところでずっと待ちたくはない。
再びギルドのロビーに戻って、時間をつぶして悩んでいる。
「ルメナがどうしているかついて行ってみようか?」
「訳もなく付いて行ったらポイントを奪いに来たと思われるかも…」
「君もようやくあいつがどんな奴か分かったな。」
じゃ、城でも一回り散歩してこようか?」
「…デートの誘い?!早く出ましょうよ!」
勝手に勘違いして出かけるオフィーリア。
応援としてこういうのもいいか。
公園でしばらく歩きながら花見をしたり、噴水にコインも投げてみたり、二人で昼食も一緒に食べて。
こうやって2時になった。
「今日E級になるとご褒美でまたデートしてくれるんですよね?」
「君くらいならこんな試験なんて問題も何もねだろ、Z級。
こんなことで、何のご褒美を···」
「し・て・く・れ・ま・す・よ・ね…?」
「…はい。がんばってください。」
「それでは行ってきます。」
「…どんな性格か忘れていた。」
F級たちのトーナメントが始まった。
F級訓練所の隣にアリーナが作られている。
もう見物人が大勢集まっている。
多分、まだ修練中のF級たちもいると思うし。
ただ本当に見に来た人達もいるけど。
賭け事を仕掛ける人たちが絶対的に多い。
賭けか…
「賭けの最大限度はいくらですか?」
「うん?1千リデムまで。」
「それでは賭けの締め切りはいつですか?」
「戦いが始まって、2回目の攻撃が出れば、その時点で終了だ。」
「承知しました。」
ただ待つのも退屈だから、少しは遊んでみようか。
今日の夕方のご飯代くらいは稼いでおこう。
「第1試合、はじめ!」
二人の男が決闘を始める。
片方は木刀。
片方はナックル。
一度見てみようか。
木刀と拳がぶつかる。
…わかった。
「1000リデムを格闘者に。」
「今かけるとすぐ締め切りだから変えられない。分かるよな?」
「いいですから。」
そして1分後。
格闘者の拳が剣客のあごを強打する。
取りあえず1勝。
このようなF級の戦いなら、技巧よりは基本的な身体能力がもっと重要だ。
つまり鍛えた格闘者が有利だということ。
じゃあ、ずっと稼いでみようか?
2回戦も3回戦も私の立場では退屈な試合が続いた。
そして4番目の試合。
「ロニー·ジェイソン!
そしてオフィーリア·ステラ!」
この世で最も勝率の高い賭博が始まった。




