0-4 一騎討ち
何時とは無く夕暮れだ。
ハードセルは都市史上最高で活気があふれている。
五人でまた集まって、野外の飲み屋で夕飯を注文して待っている。
オフィーリアが周囲を見回してのんきに話す。
「やっぱりこういう時が一番やりがいがありますね。」
「まだ全部終わったわけではないけどさ。」
「…ブリンさんはそんな皮肉ぽい話し方ははちょっとやめてください。
毎回そうだからいつまでも、愛してくれる女性がいないわけですよ。」
「あの、喧嘩売ってるのかい…?」
「君だって知ってるでしょ、オフィリアの性格。
あの言葉は純度100%の心配を込めて言ってあげるアドバイスだわ。」
エリゼの言葉にブリンも納得したように苦い表情でお酒を一口飲む。
「それで次の段階までは?」
ルメナが聞く。
「さっきの反応から見ると今夜でもおかしくないよ?」
「そしたらこういうところでご飯食べてる場合じゃねだろ…」
「ご飯食べに行こようと言ったお前がそんなことを言うたちばかよ?
そしてお前が心配なんかをしている?天下無敵のルメナ様も盛りが過ぎたね。」
「そんなはずが。私の心配は弱すぎなお前のことよ。」
今すぐ命が飛んでもおかしくないことをしておいったのに、みんなの話に緊張感はまったくない。
こんなに冗談を交わすほどに。
「注文したのが来た!」
「何か注文したものより多くないですか?」
「おまけですよ、おまけ!こんな日はみんな楽しまなきゃ!」
店員はほかの注文を取るために、すぐに他の席に行ってしまう。
既に店は満席になった。
人々の顔には活気がある。
それでは俺も働いて得たおまけを思う存分楽しもうか。
食事を終えて旅館に戻る。
「たぶん寝ずの番が必要だ。今日は俺が先にするよ。
皆出かけてきたから疲れたはずだから。
そしてもしかすると今日すぐに事が起こるかもしれないから。
そうなったら徹夜作業だからできる限り寝ておいて。」
早く寝床に入る。
夕暮れはたちまち過ぎ去って月はなお高く昇る。
本でもよもうか。
夜1時ごろ。
人々が寝ている時間に俺だけが起きている。
そして、そんな人がおれだけではないのを感じる。
読んでいた本を閉じてテレパシーを使う。
「来たようだな。」
本当に今日すぐ来るとは。
決断力だけは褒めてもらえでもいいものだな。
テレパシーを使って頭の中に直接言葉を伝える。
「起きろ。来たぞ。」
「ちくしょう、あいつらは眠もない…?」
皆かんしゃくを起こしながらも、素直に起きてくれる。
「とりあえずおとなしくついていこう。旅館で問題を起こすことはいけないから。」
そして窓から人の気配を感じる。
「…どなたですか?」
「知る必要はなくおとなしくついてこい。命が惜しければ。」
部屋の中に2人の男が入ってきている。
多分女性側も同じ状況だろう。
「それでは案内してくださいませんか?」
「‥‥何の抵抗もしないのか?」
「そうしろと言ったんじゃないでしょうか。私は命が大事だということをよく知っている人なので。」
そして俺とブリンに目隠しをして縛る。
そして俺たちを持ち上げて窓の外にすり抜ける。
「夜風がさわやかですね。重くないんですか?」
「おまえ、頭がおかしくなったか…?」
「いえ、この状況で心配したって変わることはないでしょ。
それなら楽しむの方が良いでしょう。」
そのようにどこかも分からないまま連れて行かれて、ある瞬間から外の風が感じられない。
そして、しばらくすると足が止まる。
目隠しがはがれて、俺たちの前にはナセルがいる。
「連れてきました。」
「よく来た、うちの地下に。」
俺たちが連れて行かれたところは、原型闘技場のようなところだ。
こんなものを地下に作っておいたのか。
そして、俺たちを取り巻く5人の黒い服の男たち。
「地下にこんなものを作るのが趣味ですか?」
「戦闘訓練場だ。お前たちを捕まえてきた、この5人のための。」
この程度の訓練場を使うなら、かなり実力があるようだね。
面倒なことになったな。
「そして…」
ナセルが不愉快な笑みを浮かべた。
「身のほども知らないぼんくらを教育する処刑場でもある。」
よく見ると、あちこちに血の跡が見える。
中にはできたばかりな跡もある。
「断っておくが逃げるのは不可能だ。
あの通路の裏には、迷路が広がってるんだ。
私を怒らせてもっと苦しく死にたいなら止めはしない。」
徹底だな。
こんな場所を作っただけでは足りないのかよ。
見れば見るほど気に入らない場所だ。
「それにしてもどんなご用件でこんなに煩わしい仕事までして、私たちを連れて来られたのですか?
おっしゃってさえいれば私が訪ねて来たのに。」
「わかってるんじゃねか。どうやってそれを全部流通させたんだ?
何をたくらんでいるんだ?」
「私ではないという証拠をお見せたんじゃないですか?」
「そうだろうと思った。ロブレン!」
ある男がオフィーリアの首に剣を向ける。
これに俺も思わず顔をしかめてしまった。
「さあ、彼女が死ぬのを見たくなければ早く言った方がいいぞ?」
「か…彼女…?いやぁ、恥ずかしい…」
こんな状況にも頬を赤らめるオフィーリア。
自分の首に触れている剣なんかは眼中にもない。
「3を数えるぞ。その間言わない場合は···」
首を切る振りをする。
「3」
「...」
「2」
「...」
「1」
「...」
「殺せ」
ためらうことなく剣を振り上げて、剣がオフィーリアの首を狙う。
そして。
がちゃん!
剣はあっけなく何かへぶつかったみたいに跳ね飛ばされた。
「何…?」
目先の状況を理解できないナセル。
そして、あまりにも簡単に俺を縛った縄は切れてしまう。
「さあさあ、みんな立ち上がろうぜ。」
「はあ、まだ寝ぼげだよ…
私たちは今日頑張って働いたじゃない?お前は休んでたし。
だからお前一人で処やれよ。」
「正しい言葉なのにルメナが言うなら、なんでこんなにムカつくんだ…
でもまあ、そうしようか。
個人的にも今、頭に熱が上がってしまたから。」
伸びをしながら立つ。
そして言い方が変わる。
「ちょっとからかおうと思っただけなのに度が過ぎてますね。
オフィーリアの命を狙った値は高いぞ、このくそたれが。」
言葉が終わる瞬間、あらゆる攻撃が出て仲間たちを襲う。
攻撃とともにほこりが立ちのぼる。
しかし、一滴の血も飛び散らなかった。
「あいつらがこんなに暴れるのを見ると、ここなら見つかる心配はないでもいいよな?」
「全然手伝わないのはやっぱりちょっとあれだから、すでに音を遮断する魔法もかけておいたよ。
でもあまり暴れるな。限界はあるから。」
これを聞いたナセルが爆笑する。
「バカなやつ!きさまらの相手は『黒い疾風』、リーダーはA級で他のメンバーも全員がB級のパーティーだ。
お前なんかが勝てると思うのか!B級のお前が単身で!」
「ほう、この人たちがあの…」
情報収集中に一度聞いたことのある名前だ。
こんな奴の下で働いていたかよ。
「あんたたちに勝てないと言ってるけど?あんたもそう思う?」
「そういうお前は勝てると思うのか?」
「あんたたち攻撃も全部防いただろ?」
「そうだ。確かに弱くはないみたいだな。
だから油断なく戦うつもりだ。」
対抗したまま緊張感が流れる。
沈黙を破ったのは俺。
いくらなんでも1対5にA級まで。
このくらいの金持ちだからA級以上いるだろうと思ったけどさ…
やはり防音魔法が堪えられないかも。
試みはしてみようか。
「一つ提案をしてもいいか?」
「なんだ?」
「そっちのリーダーとこっちのリーダーの1対1で勝負しない?
訳もなくお互いに力を抜くのはやめようぜ。」
「…悪くないな。」
「何言ってるんだ!全員で飛びついて殺せ!」
ナセルが大声で叫ぶ。
俺の相手がナセルに話す。
「先ほどB級とおっしゃいましたよね。B級なら絶対に弱い等級ではありません。
そして、さっきに一枚上手の俺たちの攻撃を完璧に防いだこと。
こいつ、A級に相当な実力を持っていると予想されます。
私たちの連携は強力ですが、まだ弱点がある方です。
こいつくらいの実力者が相手なら一瞬の隙が致命打になります。
こんな理由で、いっそ1対1で戦うほうが良いと思います。
そして…」
威圧感をさらけ出す。
「なんの考えのかは知りませんが、俺に1対1の勝負をかけたのがけしからんですので。
自分の手で、死なないほどだけぼろぼろにつくりたいです。」
この言葉にナセルが落ち着くになる。
「ふん!長く待たせるな!」
俺の相手が手を上げると他の黒い服が引き下がる。
そして仲間たちを人質とするように取り囲む。
「最近は強者との戦いもなかったので退屈なところだった。
がっかりさせるな。」
「あんたがリーダーだったかよ。俺だって本当にこんなのは運が悪い。」
「それでお前たちのリーダーは?」
「もちろん俺だ。まずは商会の代表だから。」
疾風のリーダーだけが中央に出てくる。
俺も中央を向く。
「がんばってください~」
「早く終わらせてよ。早く終わらせてまた寝たいんだ。」
仲間に向かって軽く手振りをして相手を見つめる。
お互いに向き合う。
俺より頭一つは高い背丈で体もがっしりしている。
「名前は?」
「スケントだ。てめえは?」
「戦う相手には本名を明かすのが礼儀だな。クリスだ。」
お互い、隙を探すように円を描きながら歩いている。
緊張感がお互いを圧迫する。
「ルールは簡単。一方の降伏や戦闘不能まで戦い合えばいい。
殺すのはアウトかな。
あんたも俺が死んだら困るじゃない?
情報を聞かないといけないから。
もしあんたが勝てば、何でも答えてあげるよ。
代わりに俺が勝てば…その時になって考えろうか?」
俺の話が終わるや否やスケントは身構える。
定石的で抜け目のない姿勢だ。
「ファイターだな。手のナックルにそんな準備姿勢なら。」
「そういうてめえは武器もなさそうだか?同類か?」
「俺は魔法使い。
素手の方が楽で杖を使わなくなって久しいんだ。」
お互いに相手の気色をうかがう。
そして先に動いたのはスケント。
たった一度の跳躍で俺の目の前まで一気に近づいた。
ためらうことなく拳を俺に向かう。
そして、こぶしは半透明の青い壁に塞がれた。
「魔法の防壁か。かなり丈夫なもんだな。」
「A級が相手ならこれくらいは作らないと。」
そして連続の乱打が続く。
一発一発がずっしりと重くて速力も早い。
少しずつ押し出されると同時に魔法の防壁にもひびが入る。
これにさらに攻撃速度を上げるスケント。
「防御魔法は素晴らしいけど、これだけでは俺に勝てる…」
言を全部する前に攻撃を止めて防御の姿勢をとる。
スケントに直撃する雷。
「クウウ!」
しかし、スケントに漂っていた電気はすぐに消滅した。
平気そうに、体をほぐすように首を折る。
「カウンターをすでに予想していたんだな。」
「お前くらいの魔法使いならこれくらいはできるだろう。
常に防御を考えておく必要がある。」
「A級と称するに値するね。」
この男は強い。
もう少し熱を上げようか。
「じゃあ、これはどう?」
今回は人の頭ほどの大きさの火炎球。
もう一度スケントを狙うが、これを足で蹴って軌道を変えた。
火炎球は全く見当違いの場所に直撃する。
「おっと。それをそう処理するなんて、すごいな。」
スケントがおれに飛びついて、俺はそれを防ぐ。
もう一度攻防が続く。
攻撃しているのはスケントだが、俺の防御もなかなか突き抜けはしない。
そして少しでも強い攻撃を試すと、すぐに俺も速攻の魔法を使って牽制する。
もちろんこの程度では、スケントは倒れない。
次に続く攻防で,スケントは私を激しく押しのけて距離を広げる。
「ふう…確かにこの程度ならB級でも力を惜しむ余裕はないか。
好い加減なやり方では無理だな。」
そして強力な鬪気を発散するスケント。
「死ぬな。俺が困るから。」
『マグナム・クラッシュ』
スキルの発動。
近寄らずまま、もう一度俺に向かう拳。
そして襲ってくるのは暴風の砲弾。
魔法の防壁を全部壊して俺に当たる。
鋭い砕ける音とともに俺は後ろに転がる。
「おわりだ。」
ナセルが勝利者の笑みを浮かべる。
だがスケントはその場から動かない。
「何やってんだ、さっさと仕上げろ!」
ナセルの言葉にも何も言わず再び姿勢を取るが、動かない。
スケントは違和感を感じている。
同僚が倒れたら、いかなる反応でも見せるべきだ。
それなのに、あいつの仲間たちは平気そうにあくびでもしている。
全く心配していないかのように。
「おい、いい加減にしろよ。
本当に眠いんだってば。早く終わらせてしまえ。」
ルメナが怒ったように話す。
「お前が言った通り、俺は昨日やったことがなかったじゃねか。
体がだるくて準備運動をちょっとしただけよ。」
言いながら起きる俺の体には傷どころかほこり一つさえついていない。
「あいつが怒ると怖くてさ。悪いけど、早く終わりにしようぜ。」