3-16 マリッジブルー
時計は動いているし、パーティーも熱気を帯びている。
前の2日間の舞踏会と異なる点がある。
オフィーリアにダンスを勧める者はいない。
もちろん、求婚者の3人もパートナーを決めていない。
当然のことだ。
そして時計は動き続けて10時にさしかかる。
それとともに本格的な舞踏会が始まった。
音楽が変わり,人々が踊る。
その姿をオフィリアは焦点のない目で眺めている。
「眠れなかったんですか?元気がないように見えますね。」
おれがオフィーリアに近づく。
「いいえ、いただいた薬のおかげでよく眠れました。」
「周囲の気配を感じる感覚を鈍らせる薬でした。
役に立ったなんて幸いですね。」
「それで、どんなご用件でしょうか?」
「…お気持ちのお決まりはなさいましたか?」
「いいえ、まだ。あなたたちこそ何をしようと思っているんですか?」
「お祝い公演です。 オフィーリア様だけのための。」
「...余計なことはしないでください。」
「絶対に違いますから心配しないでください。」
ダンスは続く。
「そういえばあなたと踊ると約束を忘れていましたね。」
「…忘れても大丈夫ですが。」
「それでは今一度踊ってみませんか?」
「はい?」
「結婚する前の逸脱ってことですよね。」
「他の方々の目は大丈夫ですか?」
「そんなことを気にする人じゃないんですよ。」
「そうですね。」
「決定はあなたがしてください。
どうですか、Shall we dance?」
「…よろしくお願いします。」
「そうするとお好きな曲が演奏されると出るようにしましょう。」
「ダンスは上手ですか?」
「リードお願いします。」
「…大変だな。」
そうやって10分、20分が流れ 30分になる頃。
他の人々の踊りを見物するだけだ。
「…踊る気はあるんですよね?」
「すみません、知ってる歌が出なくて。」
「気軽にやればいいのに。」
「結婚前最後の思い出じゃないですか。」
その時、再びダンスが終わり、新しい音楽が演奏される。
これって確かに…
ルメナの教育方式は実戦で身につける方式。
たった一度の短い時間の間、教えてくれたダンスを踊る時に口ずさんだメロディーだ。
オフィーリアに手を差し伸べる。
「…行きましょうか?」
「はい」
俺とオフィーリアが舞踏会場の中央に出る。
人々がざわめき始める。
「オフィーリア様だ。」
「ダンスを踊るんだね」
「それならあの男が結婚相手?」
「ところであの男って一体誰だ?」
「確かにニコラ様とずっと一緒にいたみたいだけど」
人々のざわめきと関係なく、音楽は本格的に演奏される。
それに合わせて私たちの踊りが始まる。
ステップを合わせて
一緒に手を取り合って
お互いに頼って
顔を見合わせる。
オフィーリアの目はしゃべている。
『ありがとう。』
そしてダンスが終わって、あたりは静まり返っている。
全員、呆然として俺たちを眺めており、一緒に踊っていた人たちさえ踊りを止めたまま俺たちを見ていた。
その時の小さな拍手の音。
そこにはニコラとルメナがいる。
そして拍手喝采が沸き起こって大波となった。
「よくやったんですか?」
「たぶん。」
「あなたのおかげでもうすっかり決心がつきました。」
「…楽しかったですか?」
「…はい。」
「よかったですね。」
そしてオフィーリアはおれから遠ざかる。
もうすべての未練を切ったかのように。
俺もニコラのそばに戻ろうとする。
その時誰かが俺を呼ぶ。
そこを見ると怒りに満ちた顔がある。
「貴様、何やってんだ…?」
「踊ったんじゃないですか。」
「あの人が誰だか知らないのか?」
「オフィーリア様ですね。
私がお世話になっている方です。」
そして俺の頭にグラスが投げられた。
グラスのワインが俺の仮面を伝わって流れる。
「今日がどんな日なのに、生意気なことをしてあがってるんだ?!」
俺の頭でグラスを投げたのはフェルナンド。
俺は平気で話す。
「そもそもあなたたちのことより私の方が先約でした。
むしろあなたたちのせいで昨日するべきだったことが今日に延ばされたんです。
謝るべきな人は私ではなくあなたさんたちじゃないですか?
そしてあなたたちが何の権利で私に腹を立てるんですか?
まだ何でもない他人の3人とお兄さんとして認められない男が。」
4人の目に怒りがこもる。
「...お前がこの世で生きる道はなくなった。」
「すぐに今日結婚相手が決まり、パーティーが終わって行く道に殺してやる。」
「残りの時間遺書でも書いておけ。」
四人が行ってしまう。
「ハインズさん、大丈夫…」
ニコラが口をつぐむ。
不気味な笑い。
しかし、楽しくてたまらない笑いだ。
今、一瞬確実に その4人の俺を見る感情が、嘲笑と無視から怒りと殺意に変わった。
ついに…
それと共に時計の針は11時まで迫ってきた。
それではオフィーリアをためのショーを準備しよう。
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オフィーリアは目を閉じたまま祈っている。
自分のための祈りなのか、それとも誰かのための祈りなのか。
そしてアルベルトがオフィーリアをよぶ。
「時間だ。準備しろ。」
その言に椅子から立ち上がって歩いていく。
まるで処刑台に向かうような後ろ姿で。
時間はまだ12時にはなっていない。
何分もない時間。
3人の求婚者がオフィーリアのもとにやってくる。
「いよいよ私たちのうちの一人がオフィーリア様のものになりますね。」
「期待していただいても良いです。」
「確かに公正ながらも良い方法でしたね。」
この人たちは何を言っているんだ…?
期待しろって?
その反対じゃない?
私が選択することなのに期待していろという言葉が合うの?
公正でいい方法だなんて。
私は何の話もしたことがない。
話どころか、絡まることすらいやな人たちだ。
一体何の話をしているのよ?
「何の話ですか?」
「朝にそんな手紙を送ってくださって私たち3人とも驚きました。」
「でもオフィーリア様の意思を理解して、愛していたので、それに従ったんです。」
「僕たち同士で争いがないように、ここまで配慮してくださってありがたいです。」
この言葉に疑問を表したのはオフィーリアよりアルベルトが先だった。
「君たち、何を言ってるんだ?」
「すまないな。手紙に君には言うなと書いてあったんだ。」
「だから今でも言ってみろというんだ。 いったい何のはなしだ?」
これにセルジオが言う。
「朝の手紙内容はこうだった。」
「3名の貴公子の方々へ。
私も決心を固めたので、今日は3人のうち1人を私の夫として指名します。
しかし、単純に私の心だけで決めてしまっては選ばれなかった方には傷になるでしょう。
また、これが3人の友愛にひびが入るきっかけになるかもしれません。
だから公正な競争で、皆さんの能力と、私に対する愛を試してみます。
3人が動員できる最大限のお金と宝物を持って今日舞踏会場に来てください。
その金額が一番大きい方を私の夫として選択します。
お金である理由は、私が結婚するなら家庭を面倒を見なければならないので、今のように修道院に行って人々の面倒を見ることは難しくなるでしょう。
だから、私に選ばれた方が持ってきたものをすべて寄付するつもりです。
私を愛してくださる方なら、私のお言葉の意味を分かってくださると思っています。
ただし、公平のために、金の噂を立てないで下さいますように。
もしお金に関する噂が広がったら、この結婚はないことにします。
また、お兄樣に助言を求めることも必要ないでしょう。
結局、三人の中で一つを決めるのは私ですから。
これを無視してお兄樣に話す方も失格にします。
私が知らないという、安易な考えは慎んでください。
武道会に来て宝物とお金をホール後方のカーテン後方に積んでおいてください。
12時にこれを確認して、一番大きな額の方が私の伴侶になるのです。
それでは舞踏会場でお目にかかります。
では、三人方の幸運を祈ります。」
「…そして最後にネビュラ家の印章まで完璧に写っていた。
朝から君の家のゲロルトだったか、あの人が来て本当に驚いたぞ。」
オフィリアが混乱に陥る。
そんな手紙は書いたことがない。
手紙の内容のような考えはしたことすらない。
一体誰がそんな手紙を…
事のいきさつを考えようとした刹那、この時、アルデン王が現れる。
「話はフェルナンドから舞踏会の始まりとともに聞いた。
本日オフィーリアの伴侶が決定される!」
王の言葉に人々が歓呼する。
「あちらにある、3つのカーテンにはそれぞれオフィーリアにプロポーズした3人が持ってきた宝物が積まれている!
その価値が一番の男がオフィーリアの伴侶になる。」
突然のお金の話に人々が動揺するが、すぐに説明してくれるアルデン王。
すべての言葉が終わり、人々が熱狂する。
「開け!」
「カーテンを開け!」
オフィーリアが弁明する時間もなく事が進む。
慌てたオフィーリアだったが、すぐ落ち着いてくる。
何方道だれになってもかまわない。
そして、誰のアイディアかは分からないが、私の穴を埋めるためにあんな考えをしてくれたのはありがたい。
涙が出ようとするが、必死に堪える。
カーテンがはずれる。
「さようなら、クリスさん。」
そして上がったカーテンの後ろには…
何にもなかった。
舞踏会場の全員の考えが止まる。
会場全体が動揺する。
「もしかしてこんなもの探してるの?」
女の声が響く。
人たちがそっちを見ると、そこにはオフィーリアにプレゼントされたものが積み重なっていて、その中で最も高く積み上げられた場所に赤髪の女の子が座っている。
「聞いてるでしょ?探しているのがこんなものなの?
もしそうなら、この中に全部入ってるから心配しないで。」
それとともに後ろに収納空間が開かれ、
宝物が中に吸い込まれる。
それと共に誰かの声も響く。
「こうなったら結婚相手を決めるのはダメになったな。
なら俺が立候補してみようか?」
オフィーリアは自分が聞いた声を幻聴だと思っている。
聞きたくても聞けなかった声だ。
「また俺の声出そうとしたら喉が痛いな。
オフィーリア、回復魔法お願いしてもいい?」
過去にあまりにも多く耳にした聞き慣れた声だ。
二度と聞くことはできないと、そう思った声だ。
「何だよ、なんでそんな風に立っているよ?」
誰の声よりも好きだった声だ。
絶対に忘れられない声だ。
そして人の間を歩いてくる男。
誰もその男を止められないでいる。
そのままオフィーリアに近づき、手をつないで左手の薬指に指輪をはめさせる。
一番大切な人がくれたその指輪を。
「これは返してあげるよ。」
それと共に12時を知らせる鐘が鳴り、
隠遁祭は終わりを告げる。
つまり、仮面を脱ぐ時間だ。
仮面を脱いで顔を出す。
「ただいま。オフィーリア。」




