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ほらふきのイデア  作者: カナマナマ
第 0章 『血と水』
5/90

0-3 ブラフ



ここはナセルの商会。

いつもならこの時間には水を買うとする行列が並んでいる。


しかし、今日は違う。

ふだんの1割もない、っていうか。

比喩的な表現ではなく、本当に一人もいない。


「これはどういうことだ…?」


静かだがしっかり怒りを込めた声で、ナセルが疑問をいう。


「一体原因が何んだ?!」


自分の使用人をせきたてるが、誰も何も言わない。

ナセル自身が知らないことを彼らに分かるはずがない。

そして、すぐに別の使用人が駆けつけてくる。


「緊急事態です!早く外出を準備してください!」


「一体どんなことが起きているんだ?!」


「直接ご覧にならないと信じられないことです。早く準備を。」


深刻な使用人の雰囲気を見て、ナセルも事態の深刻さを直感する。


「出るぞ!馬車を用意して護衛隊も待機させろ!」


馬車に乗って向かう所は東区域。

都市の中央を脱して東の区域に行く。


「やっぱりおかしい。」


中央区画がこれほどまでに閑散としたことがあったか。

いったい、人々はどこにいるのだ?


障害物になりそうなものがないので、早く東の区画に進入する。

そこからだんだん人が見えてくる。

そして信じられないものも目に見える。


「あれは…?」


人々が全員、魔水晶を持っている。

単純にこれだけならこんなに驚くことはない。


問題は全ての魔水晶から水が出ていること。

水の魔法が付与された水の魔水晶だ。


馬車がもう少し進むと、1ヶ所に物凄い人が集まっている。

馬車を止めてそこへ向かう。

確かにここは他国の商人がいる場所として覚えている。

そしてこんな声が聞こえてくる。


「さぁ!水の魔水晶がたった1000リデム!

ツケもできるから心配しないで買ってください!

ただ、1人当たり2個まで売ります!」


ナセルは自分の頭がおかしくなったと思う。

あの大きさなら魔法が与えられていない魔水晶でも、小売価格は少なくとも3000リデムにはなる。

そこに魔法が与えられていれば、その価値は何倍にも跳ね上がる。

たぶんあの修正一つで15000リデムにはなる。

そんなものを1000リデムで売っているなんて、ありえないことだ。


とんでもない人出だ。

これを今すぐ統制することはできない。


「とりあえず、あれを一つ買ってこい。」


部下に命じて魔水晶を買ってくるようにさせる。

しばらくして部下が魔水晶を持ってきた。

魔水晶を頭上に向けて最大出力で発動させてみる。

まるで噴水のような水しぶきが空に舞い上がる。


「このレベルの魔法が付与されているんだと?!」


魔水晶は3分間水を噴出して、魔力が尽きて壊れる。

割れた魔水晶を地面に投げ出す。


「ちくしょう!」


このくらいの量の水なら1人が1ヵ月は持ちこたえることができる量だ。

そういうのが一人につき2本。

すなわち、2ヵ月間、すべての人が自分の束縛から解放されるのだ。


「どけ!話をしてみないと!」


人々を押しのけながら売り場に向かう。

そこにはこの商会の代表がいる。


「おう、ナセルさん。こんな所を訪問してくださったんですね。」


「これは一体何をしているんだ?」


「ごらんのとおり商売中ですが?」


「その品がどうして水の魔水晶に、値段もこんなもんだ!?」


ナセルの叫びにあたりが静かになる。

しかし、代表は毅然として言葉を続ける。


「商売は売る人の意思じゃないでしょうか。

安く手に入れるようになって私たちも安く売るだけです。」


「どんな狂人がその値段で魔水晶を売るんだ!?」

と言うが、頭にはすでに誰かが浮かび上がる。



「とにかく今すぐ商売を中止しろ!」


「お断りします。」


「何だと?!」


「私が何の過ちをしたので、そしてあなたが何の権利で中止を命じるのですか?

水の供給を止めるお考えならご覧の通りですから、あまり心配しません。


そしてもうひとつ、私はまず適法な許可を受けた他国の商人なのですが。

外交問題を起こしたいんですか?」



ナセルの顔が赤く変わる。

その渦中に他の所でこのような話が聞こえる。


「他の区域でも魔水晶を売ってるみたいだぞ?」


「そこでまた買えできるかな?」


「大変だと思うよ?そこも人が多いはずなのに、今行いっても全部売れただろう。」


…ここの1ヶ所だけで売っているのではないということか?

他の所もここと同じ状況。

自分の王道が崩れていく。


あいつ…!

この程度の魔水晶を1日で供給できるのはたった1人だけだ。


「すぐにハインズというやつがいるところを探せ!」


ナセルが離れた。

これを見て、いよいよ代表が冷や汗を拭うことになる。


「ふぅ、気を失うところだった。」


「よくしてくれた、おじさん。」


「あ、あの…ルメナさんでしたよね?仰せのとおりにしました。」


「ありがとう。それではこれからもずっと頑張ってね。

先ほど言ったとおり、つけは私が代納するから受け取らずに。」


「否があるでしょうか。流通費だけでももう大満足です。

ところで、もし問題が起これば…」


「言ったじゃないの。そういう場合には私のせいって、私が主導者だって遠慮なく言えなさいよ。

すべての責任は私が負うから。」


「へへ、なら私たちも安心して売り続けます。」




「東西南北にそれぞれで魔水晶を売っています。」

「全部他国の商人たちが販売しているので、うかつに触ることはできません。」

「この程度ならハードセルの住民全体が買ったと見てもいい量です。」


自分の商会に入ってきたナセルに次々と情報が入る。

情報が入るたびにナセルの表情がこわばる。

本当に一番欲しい情報は入っていない。

そして、他の情報源が入ってくる。


「おしゃった男の位置をみつけました!」


起き抜けに外へ向かう。

しばらくして馬車はある旅館の前で止まった。




外が騒がしい。

そして人々の足音が聞こえる。

続いてノックもせずにナセルが門を蹴って入ってくる。

俺は門に向き合うように椅子に座ってナセルを歓迎する。


「ようこそ。いきなりどのようなご用件でしょうか?」

…挨拶をしたので、受けていただきたいのですが。」


「これは一体どういうことだ?!」


「私が失礼なことでもしたんですか?」


「その魔水晶は一体何んだ!お前頭がどうなったんだ?!」


「魔水晶ですか?」


「てめえ以外に誰がそんな量の魔水晶を持っているんだ?!」


のんびりお茶を一口飲んで話を続ける。

わざと相手をからかうように。


「ああ…人々が騒ぐあの水の魔水晶のことですか?

すごいものですよね?」


「知らないように話すな!」


「それ私が流通させたのではないですが?」


「何だと…?」


俺の言に一層怒りがこもるナセル。

反対に,俺はもっと余裕をもって話す。


「論理的に考えてみましょう。

とりあえず、その程度の魔水晶の流通が可能なのは私だということは合ってます。」


「だから…」


「ただ、あの魔水晶、全部『魔法付与』されたものじゃないですか?」


「…何が言いたいんだ?」


「魔水晶への『インチャント(魔法付与)』はかなりの実力ではできません。

魔法関連クラスに、実力も冒険者レベルでD級ぐらいは上がってこそ、やっと学ぶことができます。

そうやって学んで、C級になってはじめてまともなものを作ることができます。

まあ、そうなっても1人が1日に9~10個作れば、たくさん作る方ですが。


ところで今流通中の魔水晶の数を見るとそういう水準ではないのですね。

私たちが数十万の『インチャント』された魔水晶を一日で作って、流通させることが可能だとお考えるのですか?

それくらいならS級が何人集まってもきつい水準なんですけどね。

そして昨日、私の冒険者ブローチを見ましたんじゃないでしょうか?B級の。」


ナセルの言葉が止まる。

論理的に正しい正論だ。

魔水晶に魔法を与えるのはたやすいことではない。

そのようなことが簡単に可能だったら自分が魔法を付与して売っただろう。


「何よりも確かな証拠をお見せしましょうか?

一緒に隣の部屋に行きましょう。」


会議室に入る。

そこには昨日の箱がそのまま置いてある。


「何…?」


ナセルが言葉を失う。

続いて箱をいくつか開けて見せる。

当然、魔水晶がいっぱい入っている。


「疑いは晴れたでしょか?」


ナセルは当惑した目で俺を見る。


「私ではないということが証明になったなら、早く帰ってみてください。

一旦事態を落ち着かせなければならないんじゃないですか。」


その言に魅入られたように部屋を出るナセル。

窓の外を通して離れる姿を確認する。

そしててを打つ。

それと一緒に部屋にあった箱が全部きえる。


「やはり即席で変化できる幻影を作るのは疲れるな。」


--------------------


商会に戻ったナセルは考えている。

証拠があるので退いたが、明らかに犯人はあいつだ。

根拠は二つ。


やはりあれくらいの魔水晶は、あいつ以外には持っている人がいない。

どんな方法を使ったかは知らないがあいつのしわざであることは変わらない。


二番目に取引中に聞いたその言葉。

あいつの元職が魔法使いだったとのこと。

魔水晶に魔法を与えた。

この点で蓋然性が十分だ。

多分、何か魔法道具を準備したり、それとも自分が見た4人以外の仲間がいてあいつらを利用したりしただろう。


しかし物証がない。

これでは対策が立てられない。

決定的に責め立てるのが不可能だ。


勝手に逮捕するのも今はできない。

今のような状況で、公に武力と権力を振るえば、市民の怒りは爆発する。

そうなれば、水という首輪が解けた民衆は、すべてを飲み込むだろう。


とりあえずあいつをほっといて他国の商人たちに触れることも危険だ。

他国との関係がこじれると、現在進行中の取引にも影響が出る。

多大な損害を甘受しなければならない。


なら…


「『黒い疾風』を用意させろ。」


「彼らをですか…?!」


「あいつらの口から直接言うようにしてやるぞ。」

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