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ほらふきのイデア  作者: カナマナマ
第 三章 『愛する君だから』
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3-13 残された者の足かせ

ネビュラ邸に戻った。

メイドさんが慌てたように尋ねる。


「ニコラ様、どうしてもう…」


「もしかして姉上が戻りになりましたか?」


「いえ、一体何が起こったのですか?さっきからずっとオフィーリア樣を探していらっしゃいますね。」


「その話は後で。」



「また修道院にいるんじゃない?」


「早く行ってみよう。」


「それでは馬車を用意…」


「いいえ、ありがたいですがいまわ…」


ルメナの手をつないで人気のない部屋に入る。

そこまでの距離ならワープでは無理か。


「修道院にテレポートする。」


「オーケ。」


「テレポートって、アルデンでも姉上以外は誰もできない…」



テレポート(空間転移)



ワープが今自分の目で確実に認識できる距離内で移動できるなら、テレポートは魔力さえあれば自分が頭に浮かんだ場所にすぐ移動できるワープより上位の魔法。

普段は魔力の消耗が大きくて、ワープより効率が悪いので使わないが、状況が状況だ。


しばらく目を閉じて開けると修道院が目の前にある。

さっきの、シスターたちの部屋があるところにすぐ駆けつける。

近くにいたら、シスターが出る。


「何のご用でしょうか?」


「ネビュラ家から来ました。オフィーリア様が今ここにいますか?」


「いえ、お出かけのようですが。」


「他の区域にもないのですか?」


「たぶんそうでしょう。」


「了解しました。

…家に戻ってみよう。」


屋敷の自分の部屋にテレポートし直す。

ニコラに聞いてみるしかないのか。

心当たりがあるか…

ニコラの部屋にはいらいらしているニコラがいる。


「帰てきましたか?テレポートって、あなたさんたちの正体は一体…」


「それは後で。オフィーリアがありそうな所は他にあるの?」


急さがにじみ出るのか、敬語さえ忘れた。

ニコラもすでに心当たりがあったかのようにすぐに言い出す。


「…こんな状況で修道院にもいらっしゃらないのなら居場所は1カ所だけでしょう。」


「どこだ?」


「お母様のお墓です。

母の遺言で、聖堂ではなく、シュベルテナが見える外郭の小山に墓を建てました。」


「どこかはちゃんと分かるんだよね?」


「はい。」


「じゃ、早く案内してくれ。ワープしながら行くから、方向を教えて。」


すぐにニコラの手を握って屋敷の外にワープする。



「テレポートで行ってはいけないのですか?」


「テレポートを発動するためには、どんな場所か使用者が正確に知っていなければならない。

お前だけが知っている場所だろ。

だからといって君がテレポートを使うことはできないから。」


「そしたらワープをもっと速くすれば…」


今度はルメナが答える。

「それも無理。空間移動魔法を使うと空間の歪みが発生する。

そのゆがみが元に戻るまではワープは使えない。

私たちの実力でも30秒程度の間隔が必要なんだ。」


「そうですか…そっちの方は詳しくわかんないので…」


「謝りはいらないから道案内だけ早くしてくれ。 今度はどっちに?」


「ずっと北へお進みください。」


続いて進んで、いつの間にか城壁までやってきた。

「この厚さの城壁をすぐワープで越えるのは位置情報のせいで危険がある。上に行く。」



「ハア…祭りの期間にこんなに警備を立っているなんて。」


「そうだな。何か面白いことはないかな。」


「…何か聞こえない?」


「風の音みたいだけど?でも風は全然…」


音は城壁の下から聞こえてくる。

そこを見る瞬間、警備の前に何かが飛び出した。


「うわぁ!」


「うるさい!すぐ着地してあげるから静かにしろよ!」


そして飛び出した何かが目の前から消えた。



「……何だったんだよ??????!!!!!!!!」



「しょうがないじゃねか。城壁を越える道がこれしかないから。

早く道を教えて。」


「あっち…あちらです…」


すぐさま駆けつける。

明日が満月だったかな。 今日もずいぶん月明かりで明るい。

そのため、道を進むには難しくない。


「あそこにある小さな山です。」



小山の頂上には他のことなく木一本、そして十字架がささっている。

そして十字架の前でオフィーリアは祈っている。


「…気配?」


後ろを振り向くとニコラとその護衛がいた。

「ここをどうやって?!」


何も言わずに一人オフィーリアに近づいていく。


「考えてみたら、何の理由も聞かれないまま振られてしまったのは悔しくて、ここまできました。」


「…本当にその理由ですか?」


「手紙の内容、教えてください。」


「…それが分かったら、どうするつもりですか?」


「すでに舞踏会に行ってアルベルト様に会って聞きました。

明日、結婚相手を決めることになったという。」


「…」


「すでに知るべきことは知っています。」


オフィーリアが視線をそらしたまま思う。

そして、決心したかのように、再び口を開く。


「…王の命令を一緒に聞いたんですからしっていますよね?」


「その三人を戦争に行かせるという…」


「では、教えてあげます。」



「手紙の内容は、明日、金曜日最後の舞踏会に出席して0時に結婚相手を選ぶこと。

そうしない場合、戦争で罪のない犠牲が出る。」



「それはどういう…」


「方法はさまざまです。

無謀な攻撃で罪のない兵士を犠牲するとか、捕虜を生かしておかないとか、民間人を虐殺するとか…」


「そんなことできるわけが…!」


「できる人たちです。」


オフィーリアの顔は悲しみに満ちている。

他の感情が混じっていない純粋な悲しみだけが込められた顔。


「私を責め立てるためにそんなことができる人たちです。」


「兵士たちがそんな命令に従うはずが…」


「戦争に出たことはありますか?

そこに立つと、いままであなたに向かって笑ってくれた人も、あっという間に殺人鬼になってしまいます。

神の名の下に、異端者を始末する。

聞くには良い言葉から咲く、その狂気は見なければわからないんです。

私が見た3ヵ所の戦争。

全ての場所に狂気が溢れました。」


「…他人のために自分の幸せを捨てるつもりですか?」


「…」


「それはありえない!人のために自分を…」


「なら、ほっとこうというのですか?!何の罪もない命を!

私一人の犠牲で守るのができる命を捨てろというのですか?!」


オフィーリアの一喝に言葉を失う。


「言ったでしょうね。愛する人が救ってくれた命だと。

その人はこの世界を愛しました。

だから、私は私を捨てても私が愛した人が守ったことを守ってあげる責任があります。」



「こう言ったのですが、きっと、あの人は私がここまでするのを望んではいないでしょう。

あの人が、私がこうしていることが分かることになったら、きっと怒られたはずです。

あの人が守ったことの中には私もいますから。


でも私、自分でも守るべきものが、大切なものがここに残っています。

ニコラ、修道院の修道女たち、 子供たちと生徒たち、私を愛してくださるアルデンの善良な人々たち。

私に勇気を持ちなさいとおっしゃったでしょうね。

ですが、私が勇気を持ってどうにかなる水準を超えました。


…本当は逃げたいのです。何も考えずに自由になりたいです。

でもそうするにはあまりにも多くの足かせが残っています。」



……



「もう疲れました。あきらめます。」



オフィーリアの顔に悲しい笑みが浮かぶ。

そして、続く言葉は私の胸を打つ。


「希望は結局、私の味方ではなかったみたいですね…」


その言葉とともにあきらめ顔になって涙を流す。




初めてオフィリアが泣くのを見た。

勇者パーティーだったの間、一度も見たことのない顔。


いつも少しだけでも嬉しいことがあればへらへら笑った。

少しでも怒ると頬を膨らませた。

楽しいことがあれば思い切り笑った。


喜怒哀楽。

でも、悲しみってことをオフィリアが知ってるのかなぁと思ったことがあるほどだった。

絶対に泣かなかった。

悲しむようなことがあっても泣かなかった。


多分、これもまた誰かが心配するはずだからそうしたのだろう。

人のために自分の感情を抑える。

その時からそういう人だった。


でも今は泣いている。

抑えきれない感情が爆発する。

逃げ出したいという。

今まで頑張ってきたのが崩れる。



……



俺はオフィーリアの知らせを聞くまではオフィーリアに直接会うつもりはなかった。

正体を明かすつもりも全くなかったし連れて行くつもりもなかった。

ただ幸せに生きているということさえ分かれば、それで十分だった。

だからシュベルテナまで来てからも、ずっと悩んでいた。


オフィーリアとは会わないと誓った3つの理由があった。


一つは、この子がこんなに悲しくてつらい日々を送っているとは想像もできなかったからだ。

俺が見てきたオフィーリアはそんな子ではなかったから。

きっと幸せな日々を送っていると信じていたから、その日々を邪魔するのははいけないと思った。



他の理由は、「俺が進む道は茨の道」ということだ。

実はルメナもこの仕事に参加させたくなかった。

しかし、本人の意志が確固であり、自分だけではやり遂げられないことなので、仕方なく受け入れた。

これから多くの醜いことを経験し、乗り越えなければならない。

そんなことがどれだけ長くかかるかもしれない。

そんなことをオフィーリアに頼むわけにはいかなかった。

そしてこういう姿を見せて心配させたくなかった。



なによりも俺と会ったら、前二つの理由にもかかわらず、きっと俺について来るから。

先に言った幸せや茨の道なんて気にせず絶対俺についてくるから。

そんな人だから。



だから会わないようにした。



なのに、今のオフィーリアはどうだ。

信じられない知らせを聞いたのでここに来た。


ここへ来て見たオフィリアの顔に笑いはなかった。

ここで本気で幸せそうな姿は一度も感じられなかった。


俺と同じ道を歩いていた。

人の欲望に立ち向かう道。


そして逃げ出したいと言っている。

涙を流しながら…



なら、いっそ…



「立ち向かって戦うと言った勇気がまだ残っていますか?」


「…?」


「その勇気を他の事のために使ってみませんか?

今守るべきものをしばらく置いて新しく出発する覚悟があるのか聞いでいるのです。」


同じ道を行くのなら、俺がこの子を守ってあげよう。


「すべてをしばらく置いて私と一緒に行きませんか?」




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