3-11 聖女としての生
昼ごろになってやっと一休みできるようになった。
「本当に効果あったかよ…」
ルメナが俺の脚を折った後に柔軟さが増した。
ここまでする必要があるかと思ったが…
ただ、いつものように自信満々な表情はイライラする。
「これなら体を動かすのは問題ない。あとはダンスだけもっと習えばいいよ。」
「絞め系格闘技を踊りで騙そうとするなら今やめる。」
「効果あったじゃん。なのに、どうしてそんなに怒っているんだよ~」
あの笑顔にパンチを一回食わせてあげれば何の願いもない。
それからニコラが部屋に入ってくる。
「お仕事はお済みでしょうか?」
「ああ、はい。」
「これから修道院に行くんですが、お二人はどうですか?」
「修道院?」
「姉上がおとといの夜にお願いされたとおりに救援物資を届けに行くんです。」
「…行きましょう。」
簡単に準備していけば、数台の車がある。
俺たちも馬車に乗る。
馬車が動く。
「修道院てどこ?」
「王宮の裏側に建てられています。神がいつも王を守護し、面倒を見るという意味が込められているからだそうです。」
「本当にどれも気に入らない国よ。」
ルメナの言葉にニコラも小さく頷く。
「反論できる言葉がないですね。」
修道院への道は昨日王宮への道と同じだ。
ただもう少し時間が掛かるだけ。
最近、よく眠れなかったからだろうか。
眠くなる…
…
ZZZ…
「起きなさい。」
「…ここは?」
「修道院だ。着いたから、もう降りろよ。」
どのくらい寝たのだろう。20分は寝たかな。
とにかく、それだけでも少しすっきりした。
馬車の外に出ると、とても大きな聖堂が見える。
ここに来て今までこれほどの建物を見なかったなんて、呆れるな。
それほど王宮の大きさは大きかった。
「どうぞ。」
中に入るとたくさんの人がいる。
普通修道院なら聖堂としての役割はもちろん、場合によって病院や孤児院、貧民救済所のような福祉施設を兼ねる場合が多い。
また、学校のような教育施設にもなる。
オフィーリアもここで授業を受けたという。
おそらくこの程度の大きさなら色々な役割を務めているだろう。
そして中年のシスターが出迎えに来た。
「ニコラ様、いらっしゃいませ。」
「シスター、お久しぶりです。」
救援物資はこれくらいなら十分ですか?」
「もちろんですよ。オフィーリア様とニコラ様のおかげで本当に助かっています。」
「よかったですね。姉上はどこにいらっしゃるんですか?」
「たぶん病院区域にいらっしゃると思います。」
病院区域に動いている。
そこにはすでに長い列ができている。
「まさか、この人たちが全部…」
「列に並んでいる途中に死ぬことになってもオフィーリア様に治療を受けるという人々です。」
「いくらなんでも多すぎるのが…」
その言葉ににっこり笑うシスター
「見れば分かると思います。」
列を見れば、確かに出て直線にいた人がすでに10間は前に行ったようだ。
「何のスピードだ…」
「以前からも早かったのですが、勇士パーティーから帰還されてからはもっと早くなりました。やはりそのことで鍛錬になったんでしょうね。」
そうなるしかない。
1年間の戦いと俺との魔力融合。
実力がよくなるしかない。
「一応皆さんがいらっしゃったことを申し上げましょうか?」
「いいえ、仕事をする中には集中するほうがいいです。」
何百の列が1時間もしないうちに消える。
これまでも、人々は詰め掛けてきたが、人々の減るスピードはさらに速い。
その後も人は減り続け、いつの間にか全ての列が消えた。
俺が来て1時間ぶりに。
「お疲れ様でした、姉上。」
ニコラがオフィリアのところに駆けつける。
「来たね。救援物資を持ってくるので苦労したよ。」
そして、俺の方へ視線を向ける。
「あなたさんたちも来てくれましたね。」
「まあ、護衛ですから。」
「シスター、お茶でも飲みましょうか。」
修道院のもっと奥に入る。
ルメナがあちこちをうろうろして警告を受ける。
「こちらは修道女たちの生活空間です許可なしに入ってはいけません。
私もここに部屋を一つ持ってます。」
オフィーリアの部屋か…
興味が湧いてくる。
「前もって言いますが、私の部屋だとしても特別なものはないので、特に期待はしないでください。」
「それはそれなりに特別ですね。世界一の聖女が平凡な部屋で暮らすのは。
よろしければちょっと見てもいいですか?」
「かまいません。」
オフィーリアが一室の前に立ち,門を開ける。
その中には。
ベッドと聖書。
テーブルと椅子。
魔法練習用の杖だけ。
「本当に何もないね。」
ルメナがくだらないように言う。
「だから期待するなって言ったじゃないですか?」
ルメナの反応が面白いかったのか、少し笑う。
オフィーリアが案内した所には大きなテラスがある。
「ご希望の種類でも?」
「下さるまま飲みます。」
「簡単な花びら茶にします。」
花を2、3個混ぜたお茶を出す。
思ったよりにおいがよく混じっている。
「いつもそのように患者たちを治療するのですか?」
「そんなに長くかかることではないですから。」
「けっこつらいだと思いますが。」
「病気の人はもっとつらいです。」
「いつから修道院で働いていたんですか?」
「子どものころ、母と一緒にボランティア活動をして以来、余裕があれば今まで続けてきました。
ここで聖職者教育を受けることになったのもそれがきっかけでした。
病人を可哀想に思って傷に触ってあげました。
すると、ヒールが発動しました。思わず魔法を使ってしまったのです。
それから聖職者教育を受けるようになったのですが、気に入りました。
魔法も楽しかったし、人々を助けると皆が感謝して、お母さんが褒めてくれたから。
お母さんが亡くなった今は、褒められていませんが、あの時より感謝している人たちの方がたくさん見られるので、こういう生活も大丈夫だと思っています。」
それならせめてここではちゃんと笑ってるのかなぁ…
何も言わずに、グラスのお茶だけ減り続ける。
その時、子どもたちのうるさい声が聞こえる。
「そういえば今日は孤児院の子どもたちと薬を作ることにした日ですね。」
「回復ポーション?」
「基本的なポーションですけどね。」
「それでは私たちがお手伝いしましょう。
そちらの勉強もしたことがあるのでローポーションまでは作れます。」
「…ではよろしくお願いします。」
「じゃあチビたち、並んで材料もらって行け!」
「お姉ちゃんだってちびじゃない?」
「…何て言ったの、ちび?」
「オフィーリア様と比べても背が低いよ。
僕たちよりもう少し大きいくらいじゃない。
胸はもっと小さくて。」
「このチビが! 」
怒っているのを見ると、ショタコンではなさそうだ。
ニコラが気に入っただけだった。
今まで誤解してごめんね。
今日作るのは、基本的な回復ポーション。
薬草をついて水に入れるだけの簡単な薬だ。
でも、それだけではきっと限界が来る…
「じゃあ、みんな始めてみようかな?」
オフィーリアがスタートを告げる。
子供たちが薬草を思いっきり切って、裂いて投げる。
めちゃくちゃだな。
俺の仕事はそのようにして地に落ちた薬草を集めることだ。
それでも何とか回復ポーションは作られている。
ただし。
30分後。
「みんな、まだ残ってるけど…?」
「だってもう面白くないんですもの。」
「外に出て遊びたい。」
「もうたくさん作ったみたいのに。」
こうなると思った。
子供たちの集中力や興味にはすぐ限界が来る。
オフィリアが困った顔をしている。
俺が出ようか。
「ルメナ、さっき頼んだものあった?」
「もう持ってきたぞ。」
「ありがとう。ちびっ子たちは注目!」
子供たちの目が俺の方に集まる。
「確かにこうやって作ってはつまらない。一度ポーションに魔法をかけてみようか。」
「魔法?!」
よし, ひっかかったな。
「ほら、ポーションが色変わりしちゃうぞ。」
そしてどんな花びらを1枚入れる。
その瞬間、少し赤かった水薬が桜色に変わる。
「うわぁ!私もやってみる!」
成功だな。
子供たちが駆けつけると、瞬く間に残りの材料が消えていく。
「どうしたのですか?」
「ミルキシュアという花です。
白い汁が花びらに入っていて色に触れるとその色が薄くなります。」
「薬に問題はないでしょうか?」
「もともと栄養剤を作るときに使う材料です。
ポーションに入れば体力の他にも気力回復に役に立ちます。
たぶん今のそれでロー級のポーションにはなっていると思いますよ?」
「オフィーリア様、一緒しようよ。」
「そうよ、そうよ。」
…ここでは笑ってるんだ。
しかし、俺が見てきた何の心配もない明るい笑いではない。
癒されたから作られた寂しさがこもった笑いだ。
4時頃になってポーションを全部作って整理を終えた。
「今日はお疲れ様でした。」
「とんでもございません。」
「そんなに私と踊るのが楽しみでしたか?ここまで好感を得るためにするとは。」
「はあ?そうじゃなくて、ただ純粋な気持ちで…」
「冗談です。からかいやすい方ですね。
それでは家に帰って準備しましょうか?」
あの癖は変わってないみたいだ。
困ったな…
その時、さっきのシスターが走ってくる。
「オフィーリア様、アルベルト様からのお手紙です。」
「…」
手紙を読むオフィーリア。
顔色が変わる。
「オフィーリア様?」
「申し訳ありませんが、本日舞踏会は行けそうにありません。
明日でよろしいでしょうか?」
「あ…はい。」
「それではお先に失礼いたします。」
そして、すぐに消えてしまう。
いったい何の手紙だったんだ…
アルベルトの手紙。
よくない内容であるに違いない。




