3-8 仮面舞踏会
馬車はゆっくりと王宮に向かう。
日は暮れかかっている。
「だから魔力を適度にぴんと張る感じにして…」
「こんな感じですか?」
いつの間にか再びニコラを教えているルメナ。
「やめろ。こんな狭いところで、ミスでもしたら大惨事になる。」
「簡単な魔法なの。私がそんなことも考えないと思うの?」
「そうだろう。」
「…普段なら『お前がそんなことを考えたはずがない』だと言ったはずなのに、今日は静かだね。」
「そうだろう。」
「…もしもし、気が抜けたようですけど?」
「そうだろう。」
「まじで声をかけるのが怖くなったよ…」
オフィーリアが気づいたかどうかは問題だが、ひとまずオフィーリアが来るまでは最大限の情報収集をしておかなければならない。
他のことを考えながらできることではない。
しかし、その考えを振り切る自信はない。
いつのまにか馬車は大通りに入って王宮に向かって走る。
「このままだと少し早く着きますね。」
「それではどうしますか?」
「ただ王宮の庭園で散歩でもしながら時間をつぶせばいいんです。」
王宮の正門を通過すると、さっきとの距離とは全く違う風景が広がる。
ネビュラ邸の上位互換性のある庭園が広がっている。
「王宮らしいな。」
「降りる準備をしてください。」
馬車から降りて歩き出す。
周りには他の貴族が見える。
人々が多い。
地方からもわざわざ来ると言ってたか。
この程度なら素直にパーティーだけを楽しみに来る人はいないと見てもいい。
何かを狙ってくる人たちが大多数だろう。
この人たちから情報を聞き出さなければならないことをもう一度考えると頭がくらくらする。
この時、ルメナが背中を叩く。
「馬車からずっとそうしてるね。大丈夫?」
「…いや。」
「二つのことを一気に考えるからそうなのよ。
そんな時はひとつにくくってしまえ。」
「どうやって。」
「この情報収集はオフィーリアのためのものだと思えってことだ。」
「オフィーリアのために…」
頭が少し冴える感じがする。
「少しは良くなった気がする。」
「私が間違った処方をするわけないじゃない。」
いつの間にか歩みは大きなアーチにさしかかる。
他の貴族も、その前に集まっている。
「ここが舞踏会が開かれる中央ホールです。
まだ10分ほど時間があるようなのでお待ちください。」
「了解しました。」
周囲を見回すと、貴族同士がすでに話を始めている。
くだらない話ばかりしているが、明らかに本論のための布石だ。
そしてもう一つ。
ルメナが俺に聞く。
「私たちを見る目が多すぎるよ?処理しようか?」
「俺に聞かないで。 ニコラが決める問題だ。」
この言葉にニコラが答える。
「私が必要ならその時呼びます。そういう時以外は気にしなくてもいいです。」
しばらくすると王宮の時計塔の時計が鳴り、ホールから人が出てくる。
「それではこれから入場を始めます。
貴賓は招待状または身分を証明するものを取り出してください。」
「それでは入ってみましょうか。」
並んで5分ぐらいかかって俺たちの順番が来る。
「ニコラ様ではありませんか。どうぞ。」
「まだ何も見せてなかったんですが…」
「宮廷仕事をする身としてネビュラ家の方を知らないはずがないじゃないですか。」
「そしたら…」
ネビュラ家ってあれくらいかな。
ただ顔だけで通れるくらいだなんて。
「そっちのお二人は?」
「私の護衛で、ハインズとルメナと申します。」
「そうですか。それではお楽しんでください。」
中に入ると音楽の音が聞こえ、あらゆる食べ物が置かれたテーブルが置かれている。
そして、その間を侍従たちが通っている。
典型的な王宮パーティーだが、その規模が異なる。
俺も王宮のパーティーは何度か行ったことがあるが、こことは比較にならない。
「…ルメナ、どうか暴走しないでくれ。」
「私も我慢してみるけどダメなら許してね。」
「我慢する必要はありません。
そもそもお二人を連れてきた理由は、私の護衛ではなく、私の恩を返すためだったから。」
その言葉とともにルメナが杯を握る。
「さあ、二人も一緒に。」
「あんな奴です。」
「率直で私は好きですが。」
「…もうちょっと大人になると、煩わしいやつだと思うようになるんです。」
それでも少しは付き合ってやろか。
今日の成功をために。
1時間ぐらい経っただろうか。
つまり午後7時。
ルメナが酒だるごとに飲もうとするのを阻止したことを除けば,大きな騒ぎはなかった。
時間が経つと人がたくさん集まった。
たぶんこれからだろう。
「ルメナ、準備しろ。」
「うん?新しい料理でも出た?それはたまらないね。」
「そうではなくニコラの方だ。」
ニコラの周囲を見ると視線がすべて彼に注がれていた。
ニコラ本人も気づいたのか、緊張している様子だ。
「これからは護衛もしないといけないってことだよ。」
「私のニコラちゃんに触れるなんて。いい度胸じゃねか。」
「一応はおれたちがニコラのものだけどさ。」
ニコラのところへ行っている間、すでにニコラはたくさんの人に囲まれていた。
「ネビュラ家の次男ニコラ様でしょう?」
「ご挨拶申し上げます。私は…」
「もしかして後で舞踏会の時のパートナー決めましたか?」
「もしかしてアルベルト様とオフィーリア様はどちらにいらっしゃいますか?」
戸惑いの色が目に見える。
仕事をしておこうか。
「何事ですか?」
「ああ、ハインズさんとルメナさん」
「さっき飲めたいとおしゃったお酒を探しておきました。行きましょう。」
人込みをかき分けてニコラを引っ張り出す。
「…結局そうなるなら私たちから離れるな。」
ルメナはため息をつきながら話す。
「だって無視したらそれはそれなりに問題なんですから…」
「そうだろう。信号でも決めておくのほうがいい。
人のせいで困るなら左手で頭をかいてください。私たちが介入するから。」
「了解しました。」
情報収集よりはニコラの方を優先するようにしよう。
さっきの状況を見ると、ニコラ本人を狙う人もいるが、
ニコラを架け橋にして他のコネクションを作ろうとする人もいる。
そんな人たちの話なら情報になってくれるだろう。
そしてすぐに、左手で頭を掻くニコラが見える。
「あの子が他の人と話をすることからが問題か…」
その後にも何度か助けを求めたが、人が多くなければそんなに慌てる様子はない。
確かに、これまでも何度か来たことのある場所なのだから、そっちの方が当然か。
そのおかげで、情報を集めることができなかったわけではない。
オフィーリア関連の情報は有用なものは多くなかったけど,
アルデンの情勢については有用な情報がいくつかある。
現在の戦場の現況とか、第三国の状況とか。
…またひっかくんだ。
ニコラをすぐに引き抜く。
「さっきから女性がちょっとたくさん見えますね。」
「どろぼうねこ。死んでしまえ。」
「そんなことは聞こえないように言え。」
「全部舞踏会のパートナー勧誘なんですが、慣れないんですね。」
「何度かなさっていませんか?」
「いいえ、まだ子供です。 ダンスをまともに習うこともできなかった年です。」
「おいくつですか。」
「現在14歳です。」
「それでは私と踊ろうか?」
ルメナが割り込む。
「私なら年代も合うし踊りもよく知っているからリードもできるの。」
「お前200…」
俺の脛を蹴るルメナ。
痛いけど叫ぶこともできないのが本当に苦痛だ。
「強要しているんじゃない。ニコラが決めるんだよ。」
「私は…」
その時、他の女性たちが近づこうとする。
「ニコラ様ではありませんか。このようにお会いできて光栄です。」
「ああ、はじめまして。」
「もしかして舞踏会のパートナー見つけましたか?私はなかなか見つからないですね。」
「それが…」
ルメナは背を向けて立っている。
「あそこの方とパートナーになるってもう約束したんですよ。次の機会に···」
「ああ、そうですか。失礼しました。」
女たちは素直に身を引く。
そしてルメナのYESというようなポーズ。
こぶしを握ったまま振っている。
「やっぱりニコラ。信じてたよ。」
「パートナーをやるつもりなら上品に行動しろよ。」
「そうなりましたね。後でよろしくお願いします。」
大丈夫かな…
いつのまにか8時
入り口の方が騒がしい。
そしてざわめく音。
「アルベルト様がいらっしゃったようだ。」
それか。
どこにあるのか一目でわかるのができる。
もう人が集まっているのが見える。
そしてもう一方でも。
「フェルナンド様です!」
「フェルナンド?誰ですか?」
「王子です。私のような次男ですが。」
主人公は遅く登場するということか。
さっきから大物じみた奴等が到着している。
「なら王様はいつごろお出でになるのかな。」
「そうですね。だぶん10時頃に第一王子と一緒に出てくると思います。」
大物たちの登場でニコラへの関心は確実に薄れた。
俺はこの方がいいけど。
「じゃあ情報収集してくるよ。」
大物たちがいるところの中央と言えるところに行く。
残ったのは自然に杯を握って耳を傾けてみる。
「なぜこんなに遅いのですか。」
「ルイス様は来なかったんですか。」
「アルベルト様はパートナーをお決めになりましたか。」
「オフィリア様はご一緒においでにならなかったでしょうか?」
「最近、姿を見せてくださったことがなくて」
「結婚のうわさが立っていたが。」
「もしかして今回の舞踏会が…」
「それならわが国の繁栄は確実ですね。」
…やはりこれだけじゃ詳しい情報まで得るのはダメか。
人良いそうな笑顔で人々に接近する。
…
……
「ご話、楽しかったです。」
「いえいえ、そちらこそ。」
笑顔で、立ち去る人々に手を振る。
そして、人々の関心が消えると同時に顔の微笑みも消えた。
酒を一口飲んでため息をつく。
結局まとめるとそういうことか。
魔王討伐と戦争の後遺症で心が疲弊したオフィーリアを引き続き戦力で使いたいが、断っているので、方針を変える。
結婚を通じて首輪をつけようとする下心だ。
たぶん夫の権威とかネビュラ家の問題などで訴えようとするだろう。
もちろん、結婚する側も本気でオフィーリアを狙うだろう。
そんな女を妻に迎えるのは夢でも大変なことだから。
最高の美しさ、強さ、地位、人気、名声。
そのすべてを自分のものにできるから。
「おぞましい。」
うっかり持っていた杯を手荒くテーブルに置く。
本気で腹が立った。
衝動的にこう思うほど。
「全部壊そうか…」
しかし、これは実現しなかった。
時計台が鳴る。
いつも3時間おきにあんなに大きく響く。
つまり今は9時。
銀色が舞踏会場を埋め尽くす。




