0-2 人としての認め
「時間的に見れば夕ご飯はそこで食べるようになるのかな?楽しみだね~」
「お前は本当にそんな考え以外はしねのかよ?
オフィーリアとエリーゼを見ながら、女性として感じることがない?」
「そういうお前だってそんなにオフィーリアがくっついても毎回断るだろ。
男として恥ずかしくない?」
「いつも素直に負けてくれることがない…」
「私としては今のルーメナさんのお言葉、クリスさんが肝に銘じてほしいです…」
重要な取引を控えても緊張する気配がない。
というか、自分をだますルーティンに近い。
心配したってなおらないから、ある瞬間から重要な事を前にして、こんなくだらない話をするのが習慣になった。
ナセルはまだ宴会場にいた。
「ああ、また来たか。それでお金は持ってきたのか?」
「すぐに移ってくるはずです。
申し訳ありませんが、ナセルさんの使用人たちに頼みました。
ご覧の通り,取るに足らない行商人なので人手が多くないですね。」
「そのくらいは気にするな。
そんなことをさせるためにお金を払っているんだから。」
しばらくしてナセルの部下たちが宝物を積み上げる。
ナセルの目が鋭くなる。
「思ったより多いな…」
「いくらお考えだったんですか?」
「約1億リデムなら多いと思っていたのに、これくらいならその3倍は超える。」
「全部で5億です。」
「5億リデムだと?!」
普通の商人ならもう何の気なしに喜んだだろう。
しかし、大商人となる男は確かに違う。
気にかかることがあるみたいに俺に質問する。
「これだけの資金力を持つ商会だ。
商会の名前は何だっけ?」
「まだ商人ギルドに登録もしていませんでした。
今回、商売を始めるための品として、魔水晶を決めて、こうして買いに来たのです。」
「こんなお金を5人で持ってきたのか?護衛もなしに?」
「そんなはずが。ほかの仲間たちとここまで来た後、2組に分けました。
一方は王都オスマンへ行って商売のしたくを、他方は今ごらんのとおりです。」
「ではそもそもやっていたことは?」
「魔法使いとして色々なところで働いていました。」
「おお、そうだったか?ならば冒険者だったかな。」
「まあ、そうですね。その他にもあるんですけど。」
「このくらいのお金をもうけたなんて、なかなか実力があるみたいだな。」
「私一人で稼いだお金ではないです。一緒に来た仲間たちと貯めたお金です。
今回作られた商会も故郷の仲間たちの投資を受けて作られた商会です。」
「冒険者等級は?」
「Bです。」
冒険家証明ブローチを見せてあげる。
中央には緑色の玉が挟まれている。
「ふむ…じゃ、これくらいにするか?
重要なことは、ここに商品とお金があって、お互いが相手の物を欲しがっていること。
これ以上質問する理由がない。
適当に質問して相手に信頼を見せるのも商売の腕だから。」
「そうですね。一つ習いました。」
話が終わり、箱の中身に対する計算も終わった。
「5億リデムに間違いないです。」
「なら持ってこい。」
また箱が積み上げられる。
これが全部魔水晶なのか。
このくらいなら…
「どうだ?君が気に入ったのでおまけも少しつけておいた。」
「ちょっと中の物を見ます。」
「好きなように。」
箱を一つ開けて魔水晶を見る。
「優品ですね。」
「当然だ。品質だけは自信する。」
「いいです。それでは契約しましょう。
数で計算するといくつぐらいですか?」
「1箱1万個。全部で24万個ぐらいか。」
「…では単価は2000リデムでいかがでしょうか?」
「悪くないな。では契約するようにしようか。」
すぐに契約書が書かれる。
そんな中しばらく手を止める。
「あ!ひとつ忘れていたんですね。
私が買った魔水晶が今この商会にいた魔水晶の何パーセントくらいだったんですか?」
「それが気になるのか。
多分、90%はなると思うけど。」
「なるほど。ただ気になっただけなんです。」
契約書を全部書いて印鑑までしっかり押した。
「いい取引をしたな!」
「こちらこそありがとうございます。」
「さあ、夕ご飯でも食べながら楽しんでいけよ!
水泳もしながら!」
聞きたいのもあるし。
承知することにしようか。
「水着を貸してもらえますか?」
とうとう5人とも水着姿になってしまった。
行ってきた間になぜか人がふえた。
「一体これは…?」
近くにいた侍従に聞いてみる。
「ご主人様はお宴会がお好きなんですよ。
それでいつも夕方にはこのように人々が来ます。」
すでに宴会の雰囲気は盛り上がっている。
「君たちも思いきりに楽しんで。
まずここから出るまではできる限り、自然に行動しろ。」
「よっしゃー!!」
ルメナとブリンが一緒に走り出す。
あのアホデュオは放っておいて…
「君たち二人も好きなように楽しめろよ。
一応俺はまたナセルのところに行かなければならないから。」
「せっかくの水着姿なのに…」
「さあ、いい子は姉さんと一緒に行こうよ。」
「ああっ、エリゼさん?!ちょっと待ってください?!」
「サンキュー、エリーゼ。」
作業を始める前に必ず確認したいことがある。
ナセルの所へ行く。
「おお、来たか。一杯どうだ?」
「ありがとうございます。」
杯を受けてオアシスに入る。
「…これは?」
「遠慮するな。男ならこのくらいは楽しまないと。」
半裸の女性たちが俺にくっついてくる。
肌が触れるなら温かくなるべきだが、俺の場合は正反対だ。
「…すみませんがやめさせていただけませんか。」
「なんだよ、気に入らないのか?
それとも好みの女性が別にいるか?
いくらでも言ってみろよ。」
「それが…あっちが…」
俺が指差したほうには、目から光が消えたまま、俺を眺めているオフィリアがいる。
そして、こちらに迫ろうとするオピリアを必死に阻止しているエリーゼも。
「…悪かったな。その人から下がれ。」
女性たち俺から遠ざかるとともに、背中の寒けも消えていく。
「彼女か?」
「そういうことにしておきましょう。」
「確かにあんな美しい女が彼女なら、ほかの女は目に入らないわけだ。」
「ただ怖いのだけです…」
慣れた雰囲気ではない。
早く聞きたいことだけ聞いて帰ろうか。
「砂漠の中につくれられた浜辺。もう一度見てもすごいところです。」
「砂漠は初めてか?君はどこの出身だ?」
「カラゼンという国です。」
「ずいぶん遠方とこでやって来たな。どうしてこんなところまで?」
「商売人がお金になるようなところならどこでも行かないと。
あなたがたくさんの魔水晶を持っているという情報を聞いてわざとやって来たのです。」
もう一度宴会場を見回る。
思わずため息が出る。
「ここにいる人たちはみんな楽しそうですね。外と違って…」
「おい、パーティー中なんだ。面白くない話はやめようぜ?」
「これは失礼。商人の後輩としてどうしても学びたいことがあって無礼なことを言い出したんですね。」
「ふぅん、それは興味が出る。聞いてみようか。」
「私としてはこうして民心を失ってまでお金を稼がなければならない理由が分かりません。
このオアシスの独占でなくても、ナセルさんぐらいの商人なら十分にたくさんもうかるのではないですか?」
「これが一番稼げる道だったからだ。」
「詳しく説明していただけますか?」
「私たち商人は人々が必要とするものを探し、与える人々だ。
中でも水は、アンデハジャクで必要なものの第一のもの。
水が私のものになると、ハードセルの住民は全て私の命令に従うようになった。
これはすぐに政治にも直結する。
私を怒らせるなら、税金の減少はもちろん反乱の危険性まであるから。
だといえ私を制圧するには、あまりにもリスクが大きい。
このため私に不利な規制や法律は勝手に作れないようになった。
実際にオアシスを得て財産を2倍程度に増やした。」
「都市と住民の掌握が目的なら、水の価格をそこまで上げる必要があったんですか。
どうせあなたに逆らわないのに…」
そして返り言葉は残酷すぎた。
「私は商人であって、聖職者ではない。
私はお金を稼ぐのが目的だ。
人の命もお金になるなら利用するのが商人だ。
貧乏やつらがのどが渇いて死のうが死ぬまいが、私の知ったことじゃない。
そもそも水を買うお金さえないのを人と見てもいいのか?
私が人間として認める者は、私に利益をもたらす者だけだ。
その点で君は立派な人だ。」
感情を抑える。
ここで事を台無しにしてはいけない。
断罪の時間は間もなく来る。
「なるほど。勉強になりました。」
「授業料はもうこんなことは問わないのだ。パーティーを楽しんで。」
「はい、わかりました。」
場をはずれる。
なんとかして逆らわない線で話を聞くことができた。
「もしかしたらと思って一度話を聞いてみたが…」
やはりくずだった。
心のためらいはすっかりなくなった。
作戦は予定どおり決行する。
共鳴石は着てきた服に入れておいたから使えないから…
『テレパシー』
「ああ、聞こえるか? 帰ろう。作戦開始だ。」
「なんだよ、やっとそろそろ盛り上がってるのにさ。」
「やかましい、アホデュオ。今帰らなければ時間が足りない。」
不満を示すルメナとブリンを無視して着替える。
帰る前に別れのあいさつをする。
「それではもう帰ってみます。」
「もう行くのか?君、本当に植物のような男だな。
楽しむ方が分からないのか?」
「いいえ、そうではなくて…
私の楽しむ趣味はちょっと悪趣味なことですので。」
ここに来て、初めて心のこもった笑いを浮かべる。
この笑いにナセルの表情が凍りつく。
「……よく帰れ。」
「それではまたお目にかかりましょう。」
時間は夕方9時ごろ。
魔水晶は馬車に積まれている。
馬車をぎっしり詰めた魔水晶の箱。
帰る前にブリンを呼ぶ。
「さっき言ったとおり調査お願いする。」
「まかせておけ。」
「試作品だ。これを見るとリスクなんて気にもならなくなるよ。」
そしてある物をブリンに渡す。
魔水晶だ。
しかし、他の魔水晶よりさらに青い色を帯びている。
ブリンだけが先に出発し,他の方向に向かい,残りの4人は旅館に戻る。
帰る前に人通りのない所に行って収納空間を開けて魔水晶を入れる。
この多くの魔水晶を旅館の人たちに見せられると作戦に支障が出る。
前もって備えておいた方がいい。
空の車を引いて宿屋に戻った。
会議用の部屋に行って、魔水晶をまた取り出す。
これを全部作業するには時間がかかりそうだ。
「徹夜したくないなら、みんな頑張ってくれ。」
「いつも思うけど、お前自分で考えてもこき使っていると思わない?」
「面倒くさそうな仕事があったらいつも逃げようとするお前が言うのか、ルメナ?」
真夜中になって日が変わったが作業は続いている。
ブリンはやっと戻ってきた。
「なんだ、まだ終わってない?」
「ブリン、私と交代してくれ…面倒くさいってしぬそうよ…」
「僕はシーフだろ。そういうのは苦手なんだ。
そして僕も今まで遊んできたんじゃないんだ。」
ルメナを再び作業に戻し、ブリンに問う。
「それで頼んだのはどうなった?」
「うまくいった。不満を持った奴らを見つけて、さそってばいいわけだったから。
もちろんお前が渡したそれが決定打だったぜ。」
「数は?」
「東西南北各方向に一カ所ずつ。全部で4カ所。」
「すると東はルメナ、南はオフィーリア、西はエリーゼ、北はブリンが務める。
俺はここで待ちながら談判する。
それでは早く作り上げよう。」
夜1時になってやっと作業が終わった。
疲れたのか、エリーゼはその場で横になってしまった。
「はぁ、疲れたわ。」
「だからたまには魔法の練習もしろって。」
「毎回言うけど、私は射手。
むしろこんなに無理して手伝うことに感謝するのが正しいんじゃないの?」
本当に疲れてるのかよ、あいつら。
この時間にあんなに騒ぐと迷惑じゃねか。
「ルメナとエリーゼ、二人ともやめろ。
こんな時間だから早く寝る考えをしろよ。」
「お前の仕事のせいでこんなに起きてるんじゃない!?」
2人同時に俺に叫ぶ。
言い訳がないな。
俺も寝るために部屋を出る前にオフィーリアが聞く。
「明日、一人で大丈夫ですか?」
「君たちも一人で行くんだろ?
俺の心配はしないで君の仕事だけ頑張ってくれ。」
こう言って寝室に向かう。
そんなに夜は過ぎ去って、夜明けがやってくる。
「さあ、はやく出発しろ。」
「お前は言うな!
ここで楽に待っているヤツがそんなこと言ったらムカつくんだよ!」
「ルメナ、お前が俺の声が聞こえないところまで行ってしまえばこんな話を聞かなくてもいいよ。
だから早く出発しろ。」
「それでは行ってまいります。」
「行ってくるわ。」
「後でね。」
「お前も頑張れ。」
各自が引き受けた所に向かう。
俺も準備しようか。