3-1 焦り
ベリルズとラネルカの間にはまだ戦争がない。
なので、冒険者の証明を受けた今、国境を越えるのはそれほど難しくない。
「馬に乗ったほうが確かに楽ね。
3日ぶりに国境を越え、また4日後で次の国境だなんて…」
今、俺とルメナはラネルカからアルデンへ向かっている。
「あのオフィーリアっていう子が心配でこんなに急ぐなんて、よほど惚れたみたいね。」
「うるさい。」
他の奴らが戦争に参加したと言えば信じるのができる。
しかし、オフィーリアは違う。
実際、勇者パーティーでも最初はゴブリン一つさえ始末できないほど心が弱い子だった。
後になってやっとふつうにモンスターと戦えるようになったが、必ず戦闘が終わりモンスターのために祈った。
「そんな子が戦争に出たなら何か間違っているんだ。」
「そういうことならどちらかな?
1年の間性格が変わったとか、それともどうしようもない理由があるとか。」
「明らかに後者だ。自信を持って言うよ。」
「とりあえず今日国境を越えるのは無理よ。
知ってるんよね?」
その理由は明らかだ。
ラネルカに入った最初の夜、情報収集中に聞いた情報。
「アルデンとの国境でまた戦闘が起こったそうだぞ?」
「今回でいったい何回目だ。いつ終わるんだ。」
「たぶん数年はかかるだろう。」
すなわち、今国境では戦争が進んでいる。
だとすれば国境を越えるのは大きな問題。
まかり間違えばスパイと思われる。
そして現在としては絶対問題を起こしたくない。
「ワープをつかおうか?」
「戦争中だ。広く陣形を作っているならその中にワープするかもしれない。
そして馬をどうするかも考えておかないと。」
「お前は覇気が足りない。」
「お前が無謀過ぎるんだ。」
とりあえず今日は近所の村で方法を考えた方がいい。
1週間を走り続けたので、馬たちもかなり疲れていたし…
まだ日が昇っているが村に入る。
「人が多いね。」
「傭兵だ。」
あちこちから争う声、駆け引きの声、酒に酔った叫び声が聞こえてくる。
ルメナが不快な気配を隠すことなく表している。
「この村に長くいたくはないな。」
「同感だ。」
冒険者と違って、傭兵の大半は無頼漢が多い。
力を悪し様に使う方の奴らだ。
仕方なく食べていくためにする人たちもいるけど。
一応宿所を取ってルメナと会議する。
「賄賂を使おうか?5千万リデムくらい残ってる。」
「悪くないが変数が多すぎる。」
「ワープはさっき却下されたから隠れ魔法で行くのは?」
「それは考えておこう。」
「私たちが戦争を力で終わらせてしまうのは?」
「いたずらはよせ。」
会議を終わらせないで一旦食事をしに1階に下りる。
傭兵たちが集まった飲み屋はすでに豚小屋のように変わった。
「うるさいな、本当に。」
「早く食べて戻ろうよ。」
居酒屋で食事をしている時、男たちが接近する。
「ちょっと話大丈夫か?」
「何ですか?」
「見たところ実力があるように思うが、どう?
ちょっと俺について行って話しようぜ。」
「傭兵団に入団勧誘でもするのですか?」
「そう、それだ。」
「そうですか。俺が聞いたところでは、『あいつら、弱そうなくせに、けっこう高そうな馬に乗っていたから、殺して奪ってはどう?男は殺し、女はもてあそぼう』とおっしゃってましたが。」
「ちくしょう、聞いたのか?!」
「お前たちエキストラはみんなそんなことを言うべきなルールでもあるか?消えろ。」
風魔法を使って外へ吹き飛ばせる。
騒ぎになる前に部屋に上がろうとすると、ルメナが笑っている。
「…なんだよ、いつもならあんなこと言われたら俺より先に暴れてたのに。」
「君が警告もしないであんなに人をぶっ飛ばすのは初めて見た。」
「俺も鋭い時があるもんだ。」
「とにかくちょっと面白そうだったのでほったらかしたんだ。
ちょっと洗ってましに見えるように偽装でもして近付ければいいのに。
演技力も浅ましい。」
「…」
「何だ。助けてくれなかったからってすねたの?」
「それだ。偽装と演技。」
「?」
「今すぐ準備する。行こうぜ。」
「ちょっと待って?!私、そろそろお風呂に入って寝たいんだけど?!」
「後でやれ。」
「一週間ぶりの宿だよ!おい、話を聞け!」
翌日馬車を一台買って、その中に食糧を積む。
「よし、このくらいでいいだろう。」
「じゃ、私は後ろで寝てるから、必要なときに起こせ。」
戦争の方へ向かう。
午後になってラネルカ軍の陣営が見える。
「もうすぐか。起き上がれ、ルメナ。」
「ううん…」
「最高の演技を頼むよ。」
「止まれ!」
「入らせてください。
将軍に申し上げたいことがあります。」
「何の用件だ?」
「必ず将軍に会って話したいです。
馬車を捜索して、私たちを縛って連れて行っていいのでお願いします。」
「まずは捜索からだ。」
しばらくして縛られたまま将軍のところへ行く。
「どういうことで私に会おうって言ったのだ?」
ルメナにまなざしを送って、
「どうか私たちに国のために奉仕する機会をください。」
「どういうことだ?」
涙装填!
「私とこの女の子は兄妹です。
ご両親と一緒に行商に行ったがアルデン軍によって…」
そしてルメナの演技スタート。
「お母さん…お父さん…」
涙を流して泣くルメナを見てかわいそうという表情の将軍。
束縛を解き放せと命じる。
「私たちが持ってきた馬車に爆弾を積んでアルデン軍に送る作戦があるんです。
どうか私たちを助けてください。」
「何の作戦だ?」
俺が自分のポケットのことを指す。
「この中に爆薬があります。」
ポケットから3個の瓶を取り出す。
その中には水みたいな液体が入っている。
「この小さなポーション瓶が爆弾?」
「信じられないようでしたら一度投げてみてください。」
俺の指示に従って人々を退かせ、瓶を地面に投げる将軍。
瓶がこわれて、大爆発が起こる。
「何という?!」
「この作戦のために手に入れた物です。
これなら敵を欺いて入ることができます。」
「…そんなことしないで我が軍に入ってきたらどうだ?」
「申し訳ありませんが、覚悟はしました。」
「妹はどうしようと…」
「この子に聞いてみました。この子も覚悟はできました。」
「でも…」
「これ以上戦争を長引かせれば私たちのような人がもっとできるだけです。
私たちの気持ちを察してください。」
そしてルメナが俺の手をしっかり握る。
「お兄ちゃん、いつまでも一緒だよ。」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
将軍はもちろん、兵士たちも泣いている。
「この二人の英雄のためにあらゆる支援を惜しまないように!」
将軍の命で、俺も将軍に作戦を説明してあげる。
まもなく陣営の外に出る。
「プフッ。こんなに簡単に騙されるなんて。しょうがないけどね。
私くらいの美少女の涙を見ると、騙されない男がいないよ。」
「ここに一人いる。」
「夜中に爆弾瓶を作った甲斐があるね。」
「威力強すぎじゃない?」
「いつも言ってたよね?
私は私の作品を中途半端には作らない。」
そしてラネルカ軍がおれたちの後をついてくる。
じゃあ走ってみようか。
アルデン軍の陣営
番兵が何かを発見する。
何かが走ってくる。
兵士たちが前に出る。
走ってくるのは、荷馬車とそれを追撃するラネルカ軍。
「ラネルカ軍を止めろ!」
アルデン軍が突撃すると、これを見たラネルカ軍がすぐに後退する。
そして荷馬車はアルデン軍のところまで走ってきた。
「止まれ。」
荷馬車が止まる。
そして声が聞こえる。
「たすけてください。」
今度はアルデン軍の将軍の前だ。
「それであの荷馬車の中には兵糧があってこれを持って投降しろと言った?」
「はい。でもこういう爆弾のように爆発する瓶を持って行けと言われました。
これをつかってアルデン軍の軍糧倉庫を燃やせと言われました。」
「自殺特攻隊ってことか。」
「両親はアルデンの行商人だったんですが、ラネルカ軍に捕まり、すべてのものを奪われ、
妹を人質に取られて仕方なく従っていたんですが、神の加護でこうして妹を救出して逃げることができました。」
「お兄ちゃん…怖かったよ…」
再び涙を流すルメナ。
俺を抱きしめる。
「お願いします。何でもしますから、この子だけは故郷に帰れるように手伝ってください。」
「お兄ちゃん…やめてよ… 私と一緒に行こうよ…」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
さっき見た場面みたいだけど。
「神の名をかけてこの兄妹を故郷へ!」
「ありがとうございます!」
将軍の思し召しで、兵舎で一休みしている。
ひとまず静かに待っている。
「あんなぼんくらなら賄賂も通じるんじゃない?」
「ラネルカはともかく、アルデン軍はおそらく失敗するだろうな。」
「どうして?」
「さっき神の加護とか神の名前とか言ったな?
アルデンは教権の強い国だ。
戦争はすべて聖戦だと思う。」
「ほんとうにぼんくらね。
戦争に聖なるものなんかがあるもんかよ。」
「だからお金で買収しようとすれば聖戦を侮辱すると考えられるんだ。
そのような国とそのような人々だ。」
「それで今後の計画は?」
「すぐ出る前にオフィーリアの情報を得ておきたい。」
「そんなことを素直に教えてくれるかな。」
「演技をもう一度やればいいんだ。」
まもなく将軍に呼び出された。
おそらくラネルカ君の情報を聞いてみようとしているのだろう。
「将軍の恩と神の導きに感謝いたします。
行く前に挨拶しに来ました。」
「君の信仰心の力だ。それより…」
「ラネルカ軍営の情報が必要なんでしょうね?
私が捕まっている間に書いておいたメもを幕舎に置いておきました。
私が去って、読んでみてください。」
と言ってもあまり役に立たない情報だけ書いておいたけどさ。
「ははあ、愛国心もあって気が利く若者だな。
こんな立派な若者がどうしてラネルカ軍に捕らわれたんだ?」
「実は、私たちが來た時は勇士が來たという噂があって、勝つと聞いて商売に來たんですけど、ウソだったんですね。
ここにはいらっしゃらないようです。」
「『銀雪姫』オフィーリア様のことか? 最後にいらっしゃったのは4ヶ月前か。」
「…来ましたんですか?」
「現在アルデンが戦争をする場所があと2カ所あるのは知ってるよな?
そのせいで、ここの戦力にも問題があって、危うく占領されるところだった。」
「それでオフィーリア様が敵を退けたんですか?」
「いや、時間だけ稼いでくださった。
俺も敵を追い払うためにいらっしゃったと思ったら、魔法で敵の進軍だけ阻止してぐださっただけだった。
そうだとしても大きな助けを貰ったのは事実だ。」
「そうだったんですね。
別に他のことはおっしゃらないんでしたか?」
「公の言葉の他には全然言ってないのに独り言はたまにおっしゃってる。
あまりにも愚かなことだと。」
「愚かな…」
「当然ラネルカのやつらのことだろう。」
「今はどこにいらっしゃるんでしょうか。」
「最近は王都にだけ泊まっていらっしゃると聞いてた。
大貴族の令嬢でもあるから。」
「そうですか。ここに平和をもたらしてくださった方のために祈りを。」
「じゃあ、今行くのか?」
「はい。ありがとうございました。
縁があればまた会いましょう。」
情報は抜き出した。
オフィーリアらしい行動とではなく行動が混ざっている。
防御だけしたのはオフィーリアらしいが、あのおっちょこちょいな人が公的なことばかり言うはずがない。
重要なのはオフィリアが戦場に立ったということだ。
行き場は決まった。
「ルメナ、出発しよう。」
「目的地は?」
「アルデンの王都、シュベルテナ。」
「オフィーリア様、まだ風が冷たいです。」
「…そうですね。」
視点を変えてここはシュベルテナにいる大邸宅。
ここにオフィーリアがいる。




