2-9 強者上の強者
馬に乗って二人を追うオズワルド。
いつのまにか日が暮れて黒い空に変わっていく。
「日が暗くなると追撃が大変になります。どうしましょうか?」
「この辺で一番高いところはどこだ?」
「あそこに見えるあの山です。」
「あいつらも日が暮れて暗くなると、速く進むことはできないだろう。
暗い時に高い所から見たらやつらの明かりが見えるはずだ。」
「なるほど。」
日がとっぷり暮れて月の時間がやってきた。
そして山頂に到着したオズワルド。
「近くに何か見えるか?」
「明かりがいくつか見えます!」
「たぶん他の冒険家や旅人も混ぜている。
動いている明かりを探せ。
こんな暗闇の中でも動かなければならない急なやつらがいるはず。」
「一つあります! 遠いですが確かに少しずつ動いています。」
「あいつらだ!行こう!」
馬を走らせてだんだん間が狭まっていく。
「前に明かりが見えます。」
「殺してやる!」
「我々を発見したようです。 速くなりました。」
「逃すとお前らから死ぬぞ。 追いかけろ!」
追撃戦の末に到着したのは広い平野と森の境界。
森地帯を出るやいなや光は止まる。
「いや、根性もあるし、頭もいいね。本当についてくるとは。
見なおしたよ、ばか。」
聞きなれた女の声だ。
「お前、面倒くさいのは嫌いだと言ってきただろ。
どうしてこんなに楽しんでるんだ?」
聞き慣れた男の声だ。
「もし追いかけてこなかったら、俺たちもこのまま行こうと思ったのにさ。
あんた、本当に運が悪いな。」
そして俺とルメナが一緒に振り返る。
オズワルドが前に出る。
「何で逃げたんですか?
お金も十分に差し上げて待遇にも足りない点はなかったはずなのに。」
ルメナが反論する。
「言い訳はやめろよ。麻薬なんか売ってるやつをどう信じてじっとしてるんだ?
偶然に闇市場で売っているんだと?てめえが売っておいて何を言うの。」
「そしてこれ耳に当ててみる?」
ルメナが小さな玉を投げる。
「何ですか、これは」
耳に触れた瞬間
「わっ!」
「わあっ!」
オズワルドの耳にものすごい音が響く。
馬から落ちるオズワルド。
「プププッ、見たか、クリス? あいつ驚く姿?」
俺も笑いを我慢できないまま話す。
「共鳴石というものだ。
お互いにテレパシーのように、連絡を取り合うことが出来るし。
そして食卓なんかに放り投げておけば盗聴することもできるよ。」
オズワルドの態度が、それ以上隠さないかのように突然変わった。
「全部知っていたというのか?
それを利用して私をだまそうとしたって?」
「だまそうとしたのはお前じゃねか。
だまそうとしてばかりいたら幸いだ。
人を殺そうとするから私も腹が立つの。」
「こんな低級な錬金術師のくせにあえてこの私をもてあそんだと!」
「お前の言い方がもっと低級よ。」
「お金はどこだ?!その箱はどうやって移したのだ?!」
「この世のどこかにいるんじゃないかな? よく探してみて。」
「…やめよう。腕でも一本切って聞いた方が早い。」
兵士たちが前に出る。
先頭にはアッシュとハモンド。
「お金のある所だけ言えば命は助けてやる。」
「またまた嘘つくね。飽きないの?」
「勝てると思うのか?つまらない錬金術師が私の軍を相手に。」
まぁ、戦うことに決まったようだね。
最後のチャンスをあげようか。
「チャンスをあげるよ。
今からでも逃げれば敢えて触らない。」
兵士全体が笑う。
「頭がおかしいんじゃないか?」
「この人数を見てそんなことを言うのか?」
「人数だけじゃない。こっちはA級の実力者が二人いるんだ。」
当然の反応か。
兵士たちの反応にルメナが俺の前に出る。
「あのアッシュというやつにはてをださないこと!
そしてけんかを止めないこと!
守らなければ今度は本当にお前から一発殴ってやるぞ!」
「おれもいつも言うが、殺すな。」
「圧倒的実力差で押さえてやろうか、それとも適当に力を抜いて遊んでやろうか、フフ。」
「殺さないんだよね…?」
そして兵士たちが飛びかかる。
あらゆる武器が襲ってくる。
「雑魚は消えなさい。」
たった一度の手ぶりで飛びかかった数百の兵士全員が空をしばらく飛んだ。
もちろん落ちるのは自分の分だ。
悲鳴とともに人の雨が降る。
オズワルドの陣営が動揺する。
「もう一度チャンスをあげようか? どうせ雑卒には興味ない。逃げたい人は逃げろ。」
ルメナが地面を蹴ってそこから火柱が立つ。
「これ以上、チャンスはあげない。」
火柱の熱気に兵士たちが後ずさりする。
代わりにアッシュが前に出る。
「確かにここまでの魔術師じゃ雑卒では無理だろう。
ゴードンがやられたと聞いたときはどんなまねをしたのか気になったが…」
そして、舌を滑らすことが世の中で最も危険なことであることを確認させてくれる。
「実力を隠していたんだな、くそちび。」
あ…
「さっき言った通りに命はたすけてやろう。
代わりに苦労をちょっとしなければならないだけどさ。
この男たちを全部相手するのは辛いはずだから!」
あぁ…
「そしては奴隷として売ってやる。俺ながら慈悲深いな。」
あぁぁぁ…
ルメナの方を見ると、うつむいたままぶるぶる震えている。
まずい…
「殺さないという約束、忘れないでください?」
「…てめえは絶対私がぶっ殺しでやる!」
あれだけ怒ったら本当に俺に襲いかかるかも知れない。
もう俺もあいつのことは分からない。
アッシュが飛びかかる。
武器は両手のモーニングスター。
A級らしいスピードだ。
あっという間に突っ込んでルメナの頭とわき腹を打つ。
「モーニングスターか。
見ての通りのあほらしい武器を使っているよね。」
「なにっ?!」
魔法の防壁が武器を止める。
このまま終わらせるのかと思ったが、ルメナは攻撃しない。
「ほら、かかってこい。
私を倒すことができなければお前は今日地獄に落ちることになるよ。」
もてあそぶ方を選んだみたいだ。
では俺はあっちか。
「結局、こうなってしまったね。」
俺が話しかけたほうにはハモンドが立っている。
「あんたの言った通り逃げたのにお前が追いかけて来るなんて、矛盾だな。」
「一日という時間があった。
このようになったのはお前の責任だ。」
そして刀を抜いて、俺に近づいてくる。
敵意はなく殺意だけが込められた足取りだ。
「あんたはこいつらとちょっと違うと思うけど、戦わなければならないか?」
「どうしてそう見るんだ?」
「言ったじゃないか。盗聴しただと。
別にあんたは何も言わなかったから。
だからといって頭が使えないバカだから言わないわけではないだろうし。」
「それだけか。」
「そして瞳。」
「?」
「そんな瞳はよくわかる。自己矛盾に苦しむ目。
隠そうとするな。全部知っているから。
俺がそんな目をしたことがあるんだ。」
何も言わずに俺に刃を向ける。
「悪いがここまで来た以上、手加減はしない。
そんな言葉で俺を揺さぶるつもりなら無駄だ。」
「性格がこじれたのも俺と似ているんだな。」
そして、刀が襲いかかる。
攻撃を防壁で防御する。
「A級にしてはいい刀ではないな。」
「お前を切るためには十分だ。」
攻防がはじまった。
攻撃を冷静に分析してみる。
快剣式よりは一度の攻撃を重く持っていくタイプ。
攻撃もテクニックよりは定石的な剣術を駆使している。
…かりそめにも負けることはないそうだな。
「今までこんな剣で勝ち続けた自信は分かるけどよ、今日はもう少し緊張した方がいいよ。」
瞬間的に身体強化バフを使って剣を回避した。
驚きで剣はしばらく止まったが、再び急所を狙う。
狙い撃ちの刃。
ためらわずに首を切り落とすと共に幻影が打ち砕かれた。
壊れた幻影が爆発した。
爆発を防いだ。
でもあいつはどこに…?
「相手は意地悪な詐欺師だから。正直な攻撃だけでは足りないぞ。」
反応する前に足に蹴られて押し出された。
ハモンドが唇をかむ。
魔法使いなのに、魔法で攻撃せずに足で蹴った。
この行動に翻弄の意味以外にはない。
しかし、自分はこの翻弄に完璧にもてあそばれた。
かかってこないハモンドと別に反撃しない俺。
しばらく小康状態に入った。
「がっかりするな、相手が俺じゃねか。
それでも実力が惜しいね。
あんな奴の下で働くには。」
ふとオズワルドの方をみた。
今しがたの攻防を見ても、A級の二人を信じているかのように自信満々な表情だ。
これで確定だ。あいつは大馬鹿だ。
「あんな成金の下で働くなんて。金が急なみたいだな?」
「急なのではなくたくさんのお金が必要だ。」
「どうして?」
「人々を救うため。」
急に重い話だ。
…ルメナもまだ遊んでいるようだから、ゆっくりしようか。
「聞いてみようか。おっと、誤解はやめてくれ。
声をかけては不意打ちするつもりはないから。
そのような心配のないようにまた始めようぜ。」
そう言いながら、適当に魔法弾を打ってみたが、それを手やすく避ける。
ま、最初からはずれるつもりだったけどよ。
また始まった攻防とともに対話も続く。
「俺は奴隷だった。搾取されて死ぬ運命だった。
だが逃げた。人間になりたくて。
そして決心した。俺が奴隷たちを救ってあげるって。
そんなものが世の中にあってはいけない。」
「それで奴隷たちを集めるのか?
先日、闇市で奴隷競売場の前に立っている姿を見たぞ。」
「全部解放してあげている。」
「いい人だね。しかし、この刃物沙汰は善良な人のすることじゃない。」
「すでに覚悟はした。
なぜなら奴隷として生きることは殺し合いより苦しいんだ。
さらに大きな傷を防ぐための犠牲だ。」
「それではお金があったらこんなことはやめるのか?」
「好きでこうするのはあそこにある力だけ強いバカと虚栄心に満ちたバカだけだ。」
「なるほど。よく分かった。
では今まで人々を傷つけた罰をあげるよ。」
稲妻が俺の手に集まり、それをハモンドの方に発射する。
すぐに避けるハモンド。
「さあ、続いていくぞ?」
足で地面を蹴るたびに石柱が出る。
石柱を避けながら剣気を集めるハモンド。
これだけなら、さっきの自心感が理解できる。
A級の中でもあれくらいならかなりの実力者だろう。
『フラットウェーブ』
剣撃が飛んでくる。
魔法の防壁を破ることさえ不可能だった。
ハモンドは無表情でいるが,いらだっていることは十分に感じられる。
「やっぱり強いな。S級だと言っても信じられそうだ。
でも俺と戦うには足りない。
あんたくらいなら実力の差がわかるよな?」
「…負けられない。」
ハモンドが闘気を燃やす。
無言で剣技を集中させる。
「実力差を知って最強の一発を惜しまずすぐ使うとは。
決断力は誉めるが、それが詰まったらどうする積りだ?」
『スティングスペッカー』
すさまじいスピードでボクの首をねらって入ってくる剣撃。
ついに防壁が壊れる。
けれど、
「惜しいかった。」
首にナイフの先が触れたように見えるが、届かなかった。
剣撃より俺の魔法の防壁の方が速かった。
そのまま刃を握り締める。
「何を?!」
そして触った部分がさびついてしまう。
「まだやるつもりかい?」
すぐ短刀を取り出して俺を刺そうとする。
この程度なら根性を超えてうんざりするように感じられる。
「あんたもほんとうに意地っぱりなやつだな。
そろそろ仕上げようぜ。」
俺から距離を広げようとするが、より速いスピードで嵐の空気砲がハモンドを揺り動かす。
倒れてしまうハモンドだが、すぐに立ち上がる。
しかし、続ける魔法弾を避けることに汲々としている。
『グロブンシェックル』
再び地面から何かが浮かび上がろうとしている。
さっきの石柱を予想したハモンドだが。
木の根が四肢に絡む。
「何の魔法を?!」
抜け出そうとするハモンドの前に立つ。
「終わらせると決心した以上、長引かせない。
ちょっと休んでろ。」
そして木の根が首を締める。
ハモンドが抵抗しようとするが、結局気絶して倒れる。
「こっちは終わったが…」
「もっと力をつかってみろよ?
まさかこの程度でA級だと大言を吐いたの?」
「うわぁぁぁぁ!」
ルメナの方を見ると、半分理性を失って頑なに攻撃するアッシュがいる。
その時、ルメナが俺の方を見つめる。
「あっちは終わったみたいだね。
じゃあ、私もそろそろ終わりにしようか?」
その音にびくっとするアッシュに,ルメナが告げる。
「最後のチャンスよ。
持っているすべてのものを吐き出してみて。」
この言葉に冷静さをどれほど取り戻したのか、すぐに闘志を集める。
「…死ね!」
『ランブルスマイト』
ルメナの頭をたたきつける。
地響きのする強力な攻撃。
しかし、届かなかった。
魔力を集めるルメナ。
「時間ぎりだよ。心配しないで。
もう遊ぶつもりはない。」
「来るな、この怪物!」
「こんな可憐な少女に怪物だなんて。
死に値する罪がまた増えたね。」
そのままアッシュに近づく。
武器を振り回すが、それを素手で掴んで壊してしまう。
「頑張れ。死にたくないなら。」
アッシュの頭をつかまえる。
『エンドレスナイトメア』
アッシュが静かになる。
あの魔法を使うなんてよほど怒っていたようだ。
あの禁止魔法を使うなんて。
そして5秒後、アッシュが狂ったように暴れる。
「ウワァァァッ!来るな!武器はどこに行ったんだ?! 誰かいない?!助けて!」
ルメナが色んな意味がこもった笑いをしている。
俺としてはあんなにまでしなければならないのかという気もする。
「ちょっとやりすぎたかな?」
「やらかした後にそんなこと言うな。」
「恐れる対象が絶えず幻影で目の前に現れる魔法。
感覚さえ勘違いして現実のように感じる。
何を見ているかは分からないが、恐怖を克服すれば魔法は自然に解けるよ。」
「それだけならましだ。
乗り越えられずに戦いを諦めてしまうと精神が崩壊して廃人になるが。」
「それくらいの罪の償いはしなきゃいけない奴なの。
今まであいつが苦痛を与えた人たちのことを思うなら。」
「まあ、とにかく残ったのはあいつだけだな。」
白く呆れた顔のオズワルド。
これとあまりにも逆の顔で近付く。
「覚悟しろよ、坊っちゃん?」




