0-1 怪しい行商人
このストーリーは短編で書いたストーリーを、連載形式に切り替えた物語です。
この作品がどのように展開するのかを圧縮したストーリーで、読まずにスルーしていただいても構いません。
作品のあらすじ欄の紹介の展開は第1章からの話です。
砂漠の交易路。
この道沿いに2台の馬車が動いている。
「起きろよ、こら!
いつまで寝る気なの?」
血をかぶったようなサイドテールの赤髪に赤い目、強い感じのする話し方、14歳くらいにみえる女の子が同じ馬車で寝ている男にいう。
荷馬車の中で男、俺『クリス·レバント』は起きた。
「うるさい…
おとなしく起こせよ、ルメナ。
ああ…もう到着か?」
まだ正午になっていない時刻。
正面から騒がしい音が聞こえてくる。
ここは砂漠の国、アンデハジャクの交易拠点。
オアシスの都市ハードセル。
「オフィリア、後ろの奴らもしっかりついてきた?」
「まだ夢中なんですか?もう寝から目覚ましてください。」
馬車を片付けていたもう1人のお嬢さんから説教を言われた。
月光のような髪色にアクアマリンが埋め込まれたような瞳をしている巨乳シスター。
火のような感じのルメナとは違い、特有の雪のようなふわふわさに自然に癒される感じがする。
このような中でも馬車は都市に向かって入る。
あっという間に周囲が人でいっぱいになる。
「おい!エリゼ!ブリン!混雑するからちゃんとついて来いよ!」
「ぼくたちが子供かい? お前こそちゃんとやれ。」
その後についていた馬車を牽引していた、荒れた感じの灰色のぼさぼさに黒い目をした、どこか不良に見える男が不平を言う。
こんな不平にブリンのそばで他の女性が言う。
「私があそこに乗っていても君に注意したと思うよ?
私も本当に運がないわ。よりによって君と同じ馬車に乗ったなんて。」
「エリーゼ、お前もそんなこと言うのかよ。こいつも、あいつも…」
金髪をきれいに編んだ、ヒスイ色の碧眼の女性。
話し方に現れるようにクールでありながら、ややこしい感じがする。
体つきも立派だが、オフィーリアのサイズには勝てないだろう。
どうでもいいな話を交わしながら、ますます都市の中心に向かっていく。
人の活気があふれる通りを通りながら雰囲気を満喫する。
このような風景を見て、ルメナが話す。
「これからどんなことが起こるかも分からないからのんきだね。」
「うわべだけじゃねか。中は腐っているから。」
馬車はある高級旅館に止まる。
「こういうところは苦手だけど、馬車を管理するためには仕方がないな…」
「てめえの仕事を手伝おうとする人達に金を使うのがもったいないんじゃなくて?」
「ブリン、お前にはそうかもしれないな。」
「あほうなことはいいかげんにして、とりあえずチェックインからしろよ。」
「もうオフィーリアとルメナがやってるよ、エリゼ。」
借りた部屋は三つ。
男の部屋、女の部屋、そして会議室として使う部屋。
会議用に借りた部屋に荷物を下ろして集まることにする。
1時間ほど後に全員が部屋に集まった。
そこにはさっきまであった余裕や楽しさは消え、重い空気だけが漂う。
みんなを見つめ、口を開く。
「それでは作戦概要を始めようか。」
「今回のターゲットは『ナセル・セード』。
このハードセルはもちろん、アンデハザックの最高の金持ちであり、実質的な支配者と言わえる。」
「財産の規模は?」
「推定値で最小300億リデム。
しかし、それ以上だと予想している。」
「普通な国の一年軍費予算級。
とんでもない大物をターゲットに決めましたね。」
「ここに来る前に説明はしたがもう一度言ってあげるよ。
元々から主要交易拠点だったハードセルは、ナセルの投資によって世界でも指折りの交易拠点になった。
それによってさっき見たようにおびただしい人たちが集まったことになった。
ここが成長中のときはそんなに問題がなかった。しかし問題は今のように過度に人が集まって現れたんだ。
水の需要に耐えかねたオアシスが乾き始めたのさ。
もともと20万ほどしか住んでいなかった都市だったが、今は50万くらいになったぞ。
するとこれに目を留めたナセルがオアシスを私有化した。
もともと誰の所有でもなかったオアシスだったのに。
わいろを使って国からオアシスの権利と管理資格を手にし、金と兵士を通じて反対の声を抑えた。
その結果、このハードセルの水は全部ナセルのものになったんだ。」
「やっぱり。さっき買った飲み物、本当にむかつくほど高かったよ。」
「そう言えばルメナさん、いったいいつ買ったんですか?そんな時間がなかったのに」
「君がチェックインするとき。」
「…ルメナ、お願いだから作戦が始めた後はわき道にそらないでくれ。
お前が作戦の一番大きな不安要素だ。」
「なんだよ、いざ私が作戦始めてからミスしたことある?!」
「そうそう。クリス、お前は僕たちをあまりにも知らない。」
「ブリンの言うとおりよ。むしろそのように苦しめるのが逆効果なんだ。」
「分かったから、もう少し黙ってくれる?アホデュオ?話が止まったじゃない。」
「うぅぅ…」
「ありがとう、エリゼ。それではまた話すよ。」
「水を独占し始めたナセルはすぐに水の価格を上げた。
これに反対できない人はいなかった。
水を持ったナセルと戦うってことは3日後に死ぬってことと同じだから。
気に入らない者には水をあげないと、それだけですべての反対の声を踏みにじることができる。
そうして上がった水の価格は今、独占前の4倍程度、1本で60リデム。
元々砂漠だったため、他の所より3倍は高かったが、また4倍。
すなわち12倍だ。」
「正常じゃないね。」
「さらに外部から水を供給することも不可能だ。
ナセルが手を打って供給を最大限遮断し、そもそもこのハードセルに必要なだけの水を運ぶことも不可能だから。
そうしてこのハードセルの命まで握ることになったナセルによって多くの人々が苦しんでいて…
そのお金さえなかった貧民たちが死んでいったし、今俺たちがこう言っている間にも命を奪われている。」
雰囲気が粛然とし、オフィリアの目には涙までにじんだ。
「だから俺たちが今回やることはオアシスを奪還すること。
この作戦に異議あるやつ、いる?」
「毎回そんなに聞くのも疲れねの?しないというやつがいると思う?」
ルメナはうんざりした様子で話す。
「それがこんな道に君たちを引き入れた俺の責任だから。
いつでも去きたいなら去ることができるようにしなければならない。」
そしてルメナの言葉のように誰も話さない。
「よし、それではこれから戦略を説明するよ。」
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いつものようにスタートは周辺の居酒屋。
昼間でも人が集まっている大きな場所を訪れる。
「ブリンとエリーゼは?」
「別の繁華街に行った。
オフィーリアはお前が言った通りに貧民村にすぐ使う水を持っていったし。」
「そうか。まずは食事からしようか。」
飲み屋はいい所だ。
じっとしているだけでも必要な情報が入ってくるから。
もう有用な情報が聞こえてくる。
「最近、水の価格がまた上がって…」
「もぐもぐ」
「やっぱり暴動でも起こさないと…」
「もぐもぐ」
「あいつの私兵だけがいるのではねだろ。きっと衛兵たちもあいつを助けるだろう。
3日以内には絶対勝てない。」
「もぐもぐ」
「やめとけ。一ヶ月前に、取立てのせいで自殺した鉱山主のうわさも聞いていなかったか?
あいつは悪魔だ。敵になると…
想像もしたくない。」
「もぐもぐ」
「ちょっと、ルメナ。
おまえもちょっと聞け。食べるばかりじゃなくて。」
「もぐもぐ。お前がちゃんとやっているのに、何が心配なの?」
「なら、せめてあのもぐもぐする音は聞こえないように食べてくれ。」
まもなく飲み屋を出る。
その後も情報が集まっていそうなところを回りながら情報を収集する。
「取りあえずこのくらいにしようか。共鳴石は持ってきた?連絡してみろ。」
「ああ…もしもし。私たちの災難神クリス様がまた集まろうとおしゃってました。
旅館にまた集合してください~」
「その異名はいったいいつまで使うつもりなんだ…」
「君がこの仕事を済ますまで。」
再び旅館に集まった5人。
「では情報交換をしてみようか?」
「兵士の数は…」
「実力者は…」
「水以外の主要収入源は…」
「民心の水準は…」
この程度なら十分に情報は集まった。
「思ったより状態がひどいね。そんなことまで起こっているのかよ。
人間の尊厳性を捨てるほどに切迫な状況…」
「それではどうするの?水以外のものを攻略してみようか?」
「いや、それは上策じゃない。
やはり水の領域で勝負をしなければならない。
水以外の収入源にふれると、その損害を復旧するために今よりもっと水を守ろうとするはずよ。」
細部的な作戦を頭の中でシミュレーションしてみる。
たった今集めてきた情報のおかげで作戦に対する確信が持てるようになった。
「ではそろそろトラの住処に行こうぜ。ナセルの商会へ。
お金も今出しておこうか。」
空間がゆがんで、宝箱がいくつかあふれ出る。
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素早く準備して、馬車を一つ取り出して,ナセルの商会に向かう。
商会がある所はハードセルの中央でありオアシスがある所。
オアシスを囲む形態で邸宅を兼ねる商会を建てたという情報を聞いた。
中央部には初めてこの都市で見たように活気がある。
とてもこの時間にも誰か水がなくて死んでいるとは思えない活気。
まもなく商会に到着する。
「緊張するな。いつものように商人との取引は余裕が大事だから。」
正門に入ろうとすると門番が立ちはだかる。
「どんな用件だ?」
「ナセルさんと取引したくて尋ねて来た行商人です。
もしかして今、ナセルさんに会えますか?」
「約束なしにナセル様と会うのは不可能だ。」
「そうですか?これなら少し話が変わりましょうか?」
その言葉と共にブリンは馬車から宝箱を持ってくる。
そして、その宝箱を開けて門番に見せてあげる。
「こんなに贈り物も持って来ましたが。一応一度問って貰えますか?」
「…少々お待ちください。」
金を見るやいなや話し方さえ丁寧になった。
今の反応は良い兆しだ。
門番でも大金持ちの正門の番人だ。
今までお金のある人たちをたくさん見てきたはずだ。
この程度のお金を持っている人なら、少なくとも無視されるほどではないという証拠だ。
おそらく十中八九ナセルに会えるだろう。
門番が中に入ってしばらくたってまた出てくる。
「ナセル様が入るようにとおっしゃいました。どうぞ」
中に入ると豪華な装飾であふれているロビーがある。
国王よりも金持ちという噂は噓ではないようだね。
「‥‥こんな奴が相手なのかよ。」
ブリンはちょっと緊張になったようだ。
「普通、ここまで贅沢をする奴らは愚か者に決まっているわ。」
エリゼは平気そうに毒舌を吐く。
「まだほかの方と話中なのでここで待っていてください。」
応接間に見える部屋に案内された。
しばらく考えを整理する。
間もなく執事と思われる老人が来た。
「ナセル様がご用意できました。ついてきてぐださい。」
ついていけば、ある通路の前で立ち止まる。
そして、この通路を再び守っている衛兵たち。
「通路に沿って入れば良いのでございます。」
そして通路の端、そこにいるのは別世界。
そこにあるのはオアシスを改造してつくった宴会場。
そのオアシスで女性たちと泳いでいる男がいる。
贅沢をする成金を絵に描いたような姿だ。
その男性に向かって近づくと、そちらでもおれたちに気づいて水泳を止める。
そしてオアシスにそのまま入っているまま俺たちに挨拶する。
「ようこそ。」
ナセル·セード
30代半ばくらいの年齢に、余裕のある雰囲気を漂わせている。
「セイド商会の主人であるナセルだ。」
「ただの行商人の代表であるハインズです。」
ハインズは仮名。
こんなことをする時だけのために作ったもう一人の俺。
「門番の報告ではかなり金持ちだそうだと聞いたが…?」
「ナセルさんほどではないです。本当にすごい邸宅ですね。」
「ククッ。確かに商人だ。へつらう方法をよく知っている。 」
笑っているが、目は俺たちを一つ一つ観察している。
この男もまた、善悪とは別に商人だ。
「すばらしいオアシスですね。私のものにしたいほど。」
「クハハッ。ユーモアもいいな。
そう、いくらなら買えると思う?」
「1000リデムで十分でしょう。」
「ハハッ。今言ったのは冗談じゃなかったのにさ。真剣に聞いてみたんだ。」
「いいえ、1000リデムで十分です。」
「…どうして?」
「私たちがハードセルに滞在する期間は、おそらく3日ほどだと思います。
私たちに必要な水を買うのに1000リデムほど必要なんです。
私たちには必要な程度の水だけが必要なので、そのくらいで十分だと思います。」
「ふむ、説得力があるな。
まあ、当然売らないけどさ。」
「そうでしょう。」
しかし、今の言葉とともに笑いは消えた。
ナセルが姿勢を正す。
「それではそろそろ本論を話してみようか?
私の遊ぶ時間を割いて話しているところだから、つまらない提案なら怒るかもしれないぞ?」
「そうですね。私たちの提案は…
魔水晶をできる限り買いたいです。」
「‥‥そっちだった?」
「何を考えていらっしゃいましたか?」
「なんだって、これだ。」
俺のほうに水をかける。
顔の笑みが戻っている。
「もし水のほうを欲しがっていたら、今日からおしっこするのはできなくなったかもしれないぞ?」
「…水をくれないという意味ですか?」
「そう聞こえたか?
とにかくそっちの取引か。価格さえ合えばいくらでも売ってやる。」
「それではお金を持って来るようにします。
こんなに取引がうまくいくとは思わなくて、お金を置いて来たんです。」
「おいおい、単価を言うべきじゃないか。」
「満足させていただけるほどのお金を持ってきました。
一旦お金を持ってきて交渉してもいいんじゃないですか。」
「自信があるみたいだな。気に入った。そうしよう。」
「それでは失礼します。」
宴会場から出る。
それではお金を持ってこよう。
もう外は夕暮れだ。
「オフィリア、今回持ってきた資金はいくらだ?」
「15億くらい持ってきました。
今馬車に積んできたのは7億くらいでしょうか。」
「十分だね。
全部取り出す必要はねよな。」
ナセルの使用人たちに頼んで箱を運ぶようにした。
これが自分の主人を破滅させることになることを知らないまま。