1-12 日記帳
セフィエル暦 1128年5月1日
どういうことなのか、こう生き残って日記をつけている。
出征した時が1127年3月だったので、もう1年が過ぎた。
魔王を倒した俺が魔王と同居するようになったなんて。
それでも足りなくて、手伝うことになってしまった。
後世に「勇者クリス」ではなく「魔王軍幹部クリス」と呼ばれるかもしれない。
1128年5月5日
初めて足を動かしてみた。
動けることに感謝している。
これを感じて魔王、いや、ルメナの心情を理解した。
200年間自分の足で歩くこともできず、食べることもできなかった心情を…
1128年5月14日
やっぱり動けるようになって一番いいのは自分で料理ができるようになったことだ。
ルメナのやつは味見さえできるようになれば、きっとおいしい料理が作れると言うが、信じない。
ひとまず気力の回復に専念している。
エリクサーで体は治ったが、エリクサーが気力まで完璧に回復させてはくれないから。
5月22日
魔法を使ってみた。
夏が近いので小さいな氷を作ってみた。
これよりレベルの高い魔法も使える程度は回復したが、完全に回復するまではしないつもりだ。
5月28日
ここに来て初めて見る雨だ。
今日はルメナも一日中家にいる。
儀式のためには必ず日が昇っていなければならないというから仕方ないか。
俺がある程度回復したので、6月からは自分を手伝えろと言う。
6月3日
いよいよ夏らしい天気になった。
家の周辺を離れるのは初めてだ。
ルメナが近くで錬金術の材料を探してほしいと言ったので出てみた。
この近くにはモンスターが近づかないように措置しておいたと聞いて、安心して行ってきた。
6月5日
魔力回復剤を作ってみた。
見たことない材料も使ってみたが、かなりよくできた。
ここは錬金術材料の宝庫だ。
ルメナがなぜここで住んでいるのか分かった。
6月10日
今日はルメナと魔力補助を合わせてみた。
魔力融合じゃないと癇癪を起こす奴を殴りたいが、そうしたら俺がむしろやられるだろう。
6月16日
毎晩、魔力を調律し、魔力補助をするのが日常になった。
ルメナももう文句を言わない。
特別なことはない。
体調を合わせて家を整理し、ご飯を食べて薬を作る日々が続く。
6月25日
一度ルメナと口げんかをしてしまった。
俺が持ってきた材料でどんな薬で作るかに関することだった。
結局俺が負けたが、ルメナが作った薬は俺が不満を持たせないほど優品だった。
7月2日
アルスマグナを自分でやってみたいと言ったが、断られた。
ものすごい魔力を使うだけに、自分の仕事が終わるまでは我慢してほしいと言った。
まず、テラオンの手記を見ながら、基礎的なことは学んでいる。
7月7日
梅雨が始まった。
確か今頃には雨が降るという伝説があったけ。
雨に感傷的になってしまう。
ルメナとの戦いから3ヵ月が過ぎた。
ずいぶん時間がすぎたな。
7月10日
ルメナが梅雨でいらいらしているようだ。
時間がもったいないと言って俺に八つ当たりしたので結局俺も怒ってしまった。
今日はそれ以来一言もしゃべっていない。
ところでこいつが飛び掛からないのは意外だな。
7月11日
ルメナが謝った。
俺がいるから今度はきっと成功できると思って、気が短くなったという。
しかし、それゆえ、俺の気持ちをちゃんと気を使わなければならないということに気付いたという。
いつも感性的だと思っていたが、かなり冷静な部分もある。
もう一回頑張ってみようか。
7月15日
梅雨明けはしなかったが、久しぶりの晴天だった。
初めて式場に行ってみた。
自宅からまっすぐに行けるポータルがあった。
戦いの跡がそのまま残っている。
しかし、1ヵ所だけはきれいだ。
中央の祭壇、そこだけは石のかけらすら一つない。
そこでルメナは魔法陣を描いていて魔水晶に魔力を入れている。
7月20日
魔族の誰かがやってきた。
俺を警戒したが、ルメナといくつかの言葉を交わしたら、すぐ行ってしまった。
誰だっていくら聞いても答えてくれなかった。
ただ一つ言ってくれたのは自分の手下ではないということ。
ってことは魔王も数人てことか?
また、頭の痛いことが増えた。
7月26日
ルメナにそこまで身を取り戻したい理由を聞いてみた。
俺なら200年は耐えられると自信を持って言うことはできない。
今回も重要なのは言ってくれなかった。
ただ自分がリーチになった理由と関連されていて、そのため必ず人に戻って確認したいことがあるといった。
8月1日
たまらない暑さで家を出て近くの水際に来た。
ルメナが小言を言ったので水魔法で一度濡らしてあげた。
俺が降参しなかったら、多分近くの森が全部なくなってしまっただろう。
それでも帰り道にあいつも笑ってくれた。
8月4日
ルメナが俺に「料理を教えてくれ」と言った。
人間に戻るなら楽勝だろうが、今のように無視されるのは我慢できないという。
一応教えてやると言ったけど、試食は俺の仕事じゃねか。
余計なことばをしてしまったかな…
8月9日
台風のせいで、一日中式場の番で疲れた。
問題が生じればまた1年が必要だという話に、仕方なくしたが、ほらはやめてほしい。
8月22日
あまりにも忙しい毎日だったので、今になって日記を書き直す。
ルメナの部下が材料を供えに来た。
部下だと言っても、ルメナ本人は支配などしないと言ったけど。
一応人間である俺を見て殺そうとするのをルメナが毎度阻んでくれた。
俺がしばらく他の所に行けばいいのに、自分が材料を移すのがもっと面倒だと行かないように止めだ。
8月25日
ルメナと初めて一緒にポーションを作ってみた。
俺がまだ習ってないことと消えた知識。
ルメナが接することのできなかった新しい知識が合わさって、その数倍の効率を上げる。
何でも不満を持っていたこいつもこの時には平気そうだ。
8月30日
満月だったので月見に行ってきた。
ルメナは「月の光を集めて魔水晶に入れると仕事が楽になる」という趣のないことを言うので、結局我慢できず一発殴ってやった。
口げんかをしたら心がさっぱりする。
少しだがたまった言葉を打ち明けた。
もう一度契約を確認する。
こいつの体を必ず取り戻してやって、俺は必ず帰る。
9月6日
ついにルメナが料理らしいものを作った。
簡単な卵料理だが、人が食べても気絶しないものを作った。
涙が出る1ヶ月間だった。
ただ、ドヤガオだけはムカつく。
これから料理の授業を少し厳格にしようか?
9月9日
酒を飲でみだ。
この間、残ったブドウが役に立った。
ルメナが先にあんなに喜ぶのは初めて見た。
本人の話では味と香りは感じられないが酔いは感じるという。
ただし、これからはたくさん飲ませないでおこう。
酔っては家をぶっ飛ばそうとした。
9月16日
コンディションは完璧に回復し、魔力補助も順調だ。
ただ、これまでも魔力融合に成功したことはない。
ルメナが物思いにふけっている。
9月21日
ルメナの手が忙しくなった。
もう少し早く起きて、もう少し遅く家に戻ってる。
そろそろか…
9月25日
秋の雰囲気が蔓延する。
森の色が変わっている。
一番錬金術の素材が多い季節でもあるので俺も少しは期待している。
ルメナが無理しているから、疲労回復剤でも作ってあけようか。
9月30日
ルメナが決戦の日を決めた。
1ヵ月後の10月31日にするという。
「魔力融合も成功できなかったのに」という質問には、2つの理由を言った。
まず、魔力融合が練習を続けても生涯学べないかも知れない「伝説の技術」という点で、今後も魔力融合の可能性が確実ではないという点。
そして俺との魔力補助の相性が完璧になったという点だ。
俺もこれほどの魔力補助が可能だったのはオフィーリア以外にはない。
10月3日
人間だった時代について聞いてみた。
しかし、人間に戻ったら話してあげると言うだけだ。
いったいどんな嫌な記憶があるからあそこまで言わないんだ…
10月9日
秋の果物などを収穫した。
この頃は人間界も収穫祭の準備で真っ最中だろう。
人間界が少しは懐かしくなるが、帰ることはできない。
10月15日
今日は…
「今日も日記?」
気付ついたらルメナが後ろに立っている。
「子どもの頃から書いてきた。思い出を残すには最も簡単で効率的だから。」
「思い出を効率的に考えるのはロマンじゃないね。」
「でも大切なものを忘れるよりはましだ。」
残りはあと15日
日記の余りを書く。
今日は覚悟を新たにした。
必ずこいつの体を取り戻す。




