1-11 アルスマグナ
「アルスマグナ?」
今まで一度も聞いたことのない魔法だ。
禁止魔法とかか?
「それでその魔法が一体何をする魔法なんだ?
それが魂を移す魔法?」
「たったそのぐらいの魔法じゃない。
もっとすごい魔法だよ。
世界中のすべてを思い通りに変換できる魔法。」
今日だけ考えが止まったのが何度目だった…
また途方もないことを言っている、この人。
「もうぼーっとした表情するのはやめろよ。
受け入れなさい。」
「驚かない方がもっとおかしい。
その魔法はどうやって分かったんだ?
そんな魔法があったら誰でも学ぼうとしったはずななのに。」
「自分で作った魔法だよ、と言いたいけど、私がやったのは理論を実際にやってみただけで、理論はこの本のおかげ。」
俺の方に投げた本はとても古いが、よく保存されていた。
「何の本だ?」
「錬金術の創始者、テラオンの手記。」
受け入れよう…受け入れよう…受け入れよう…
「私がまだ人間の身だった時に偶然に手に入れたものよ。
むかつくことに、私よりも確かに天才だったのよ。
1000年前にこんなことを考えるなんて話にならないって?
悔しいすぎ!!」
「ちょっと怒ってるんじゃない?」
「ああ、ごめん。
1000年という歳月だけど、私の基準では800年よね。
800年間で明らかになったり、研究されたことも多かったが、そうでないこともたくさんあったんだ。」
「その一つがそのアルスマグナだということ?」
「そう。この本でも一番目立つんだものよ。」
本にある内容を要約すると、アルスマグナの原理は莫大な魔力で物質を自分の欲しい物質に強制的に変える魔法。
原理は簡単だけど、実際にするのは大変だ。」
これを説明するには魔法の原理を知る必要がある。
そもそも魔法というのは世の中のすべてを構成している『エーテル』に他のエーテルを付けて、増幅させて、方向性を変換させること。
例えば、魔王が使った「ムスペル」は土を構成したエーテルを使用者のエーテルに引いて土を割って、火を構成したエーテルにまたじぶんのエーテルを付けて力を増加させて引っ張り出したもの。
すなわち魔法の本質は無から有を作るのではなく、追加する技。
別に、戦士や射手などの肉体的な能力を重視するクラスの使用するエーテルの制御は「スキル」と呼ばれる。
スキルの原理は自分が保有する余分のエーテルを自分の体に追加して強化する原理である。
バフと違う点は、バフは外部の力を受け入れて自分の体を強化するという点。
このエーテルの代表的特性は二つある。
一つは、各エーテルがすべて少しずつ異なる性質を持つということ。
エーテルは何でもなれるが、熱いエーテルや冷たいエーテルなどが存在し、それらが集まり様々な物質を形成するのだ。
二つ目は、他のエーテルと会うとお互いの性質を分かち合うことになる。
すなわち、A性質エーテルとB性質エーテルが合わさると、互いの性質を持つCが作られる。
「個人ごとに自分ならではの自我のエーテルを持つ。
このエーテルを私が作りたい物体の性質を持つようにするんだ。
これはただ考えるだけでやすく作られる。
そして、このエーテルを物質につけて、私がつくりたい物質に変化させる。
この過程で莫大なエーテル、つまり魔力が必要なわけよ。
でもこんな自我のエーテルは数がとても少ない。
だから、それだけにものすごい魔力が必要なのよ。
ここまでは理解した?」
「なんとか」
「魔力の問題と作ろうとする物質に対する理解がアルスマグナの核心よ。
材料が作ろうとする物質に近い性質ほど作りやすい。
材料物質は何を作ろうと思っているかによって違うが、すでに世の中にある物質を作るのならその物質に一番近い物質を材料にした方がいい。
でも知られてない、想像上の物質なら、できる限りいろんなものが混ざらない単一のエーテルの物質がいい。
たとえば、私の体中の魂玉は超高純度のマナのクリスタルが材料だった。
魂玉って、世の中どこにはあったかもしれないけど作った当時は知らなかったじゃん。
それだけに訳もなく他のものが混ざって変なものになることもあるんだよ。
もちろん難度は世界にある物質を作るのがはるかに簡単だ。」
「質問、大丈夫?」
「何?」
「君の目的は体を取り戻すことたよな?
人体はすでに知られている物質の集合体だから、なんとか作れるんじゃない?」
「いい分析よ。
そうしてこそ私の仲間になれる。」
「誰が仲間だ…」
「恥ずかしがるな。
ともかく、君の質問の答えは『人体錬成』は死体ではない身体を作ることよ。
死体も確かに人体だけど、そこに魂が宿っている?」
「あぁ…」
「私が作りたいのは魂が入るのができる体よ。ただのしかばねではない。
そして、魂のエーテルの性質は誰も知らない。
こうしてアルスマグナについての説明はひととおり終わったよ。
この他、気になるのはテラオンの手記を直接見てみて。」
ルメナに聞きたいことはただ一つ残っている。
「リッチになった理由を聞いていなかったけど。」
「今になって問うの?」
「他の話があまりにも衝撃で忘れていたんた。」
「それについてのは同業が始まったらゆっくり教えてあげる。
今はなしできるのは私も裏切られてアルスマグナに私の魂を移したことだけ。」
「お前も裏切られた?誰に?」
「後で話あげてるんだってば!しつこいね!」
一応、思い浮かんだ質問はすべてした。
もう最後の話が残っている。
「では最後に、私たちの同業について話してみようか?」
「どうして俺を選んだ?他の人もいるのに。」
「お前も気づいたから今まで質問していなかったでしょ?
魔法に対する才能と応用力に、錬金術も最高レベルだし、何よりも魔力融合ができるのが最大の理由よ。」
「魔力融合って?」
「お前とその聖職者の子が魔力融合でメテオを防いたじゃねかよ。
私もその時は本当にびっくりしたぞ。」
「いや、魔力融合だと? その時?」
「…意図的にやったんじゃないの?」
「当たり前だろ!俺がやったのは魔力補助だった!魔力融合なら伝説の技だろ!」
魔力補助は自分の魔力を他人に配る技だが、その限界は両方の力量によって天と地の差だ。
少なく与えると困る、だからと言ってやりすぎると受ける側の魔力が暴走することになる。
しかし、魔力融合は2つの魔力を共有し、1つの魔力で扱う技術で、リスクなしに膨大な魔力をより強い力で使用することができるようにする技だ。
「…詐欺師!この小僧!私を騙したんだ!」
「お前が勝手に勘違いしたでしょう!」
「うぅ、でも確かにあの時のあれは魔力融合だった。
無意識に使ったかな…」
「あの魔力融合がそんなに大事なの?」
「お前との魔力融合で俺の体を作れる魔力を作るのが目的だったんだ!」
「お前一人では無理か?
伝説の魔法使いであり魔王と言われる人が?」
「無理!!
アルスマグナで魂だけが宿った体だから魔力が完全でもなく、アルスマグナを使うたびに回復だけに長い時間がかかる。
死なないことだけ除けば、ディアブロズレンディングより悪辣な魔法だよ。」
「そんな魔法を俺とやろうというのか?!」
「そうよ。だからもう寝て回復しなさい。
君が完全に回復したらその日に実行するつもりだから。」
行っちゃうルメナ。
今までの話を聞いて、すぐ眠るわけがねじゃん…
そして5分後
「もう眠っているね。 あいつ。」
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目を覚ますと日ざしが顔を照らしている。
朝か…
「ずいぶん前から朝だった。」
音がした所には昨日の人形が見える。
昨日は暗くてよく見られなかったが、今見れば古いものだけ除けば金持ちのおじょうさんが持ているそうな女の子人形だ。
「…夢じゃなかったな。」
「当たり前でしょ。朝ごはん食べなさい。」
俺の隣にはスープの入った小さな器がある。
食べてみるが…
「…うっ!」
「やっぱりまだ内臓に傷が残っているのかな?」
「…ずい」
「?」
「まずい!生かして毒殺するつもりか?!悪趣味だな!」
「何だって?!」
「これ味見はしてみた?!」
「アホなの?! 人形の体でご飯が食べられる?」
「ポーションとか使うんだっていっただろ?!」
「ただ口に入れるだけで味は感じない!
何かを口にいれると、魂玉が吸収して効果が出る原理よ。」
「すごくしょっぱいのにすっぱい味もする…!
ううっ、水を…」
結局、古いパンでなんとか食事を済ますことができた。
「昨日聞けなかったことがいくつかあるんだけど。」
「だったら昨日全部聞いてみたらよかっじゃん?」
「昨日聞いた情報だけでももう頭が痛いんだ。」
「同業する関係になったから思い切り聞いてみろ。」
「まず俺が倒れてからどれくらい過ぎた?」
「20日くらい?」
「なるほど。」
「それでは次の質問。」
「俺をどう生き返らせたんだ?
そこから俺を連れてきたのも生かすのも大変だったはずよ。」
「その質問が今になって出るなんて、お前も本当に自分への関心がないね。」
「今思い出しただけだ。」
「連れてきたのはそこにある転移魔法陣を使って、生かしたのはエリクサーを使った。」
「転移魔法陣はともかく、昨日エリクサーを作りにくい条件だと言ってなかった?」
「大変なだけよ。作れないわけではないんだけど?
私の話の意味は、お前のようにめちゃくちゃに使えできるくらいは作れないという話だったよ。」
そういえば、俺も出征する時に持ってきた材料と1年間収集した材料を全部集めて作ったのがわずか8個だ。
一度の錬金術で出てくるポーションが50個くらいであることを考えるとエリクサーはそんなポーションなのだ。
「最後に聞きたいのは魔王になった理由。
リッチになった理由は話したくないというから仕方ないけど、魔王になったのは別だろ?」
「格好がそうだったから人の目がないここまで来たけど、魔族と魔物は強い奴には無条件で従うんだ。
私は魔王なんかぜんぜん関心なかったのに、自分たちで勝手に私を頭だとおだてたのよ。」
ということはモンスターたちに強さを見せつけたってことだな。
ルメナと戦った勇敢なアホたちのために祈ってあげようか。
「私は魔王なんか関心もなかったから錬金術の素材とか集めてこいという程度しか命令してなかったんだけどね。
幹部なんかもいないよ。」
「お前とけんかしたところには強いやつらが溢れてたが?」
「あいつらはもともとそこに住んでいたやつらだ。
私がわざと連れていたのではない。」
とりあえずきいてみたかったのは全部聞いた。
もう頭の中で整理するだけ。
「これ以上質問がないなら外に行ってくるよ。」
「どこに行くんだ?」
「君と戦ったそこ。そこが私の体を探すための儀式場なの。
君というカードが手に入ったから準備しないと。」
「いってらっしゃい。」
「久しぶりの見送りだけど気分はいいね。 休んでいなさい。」
そしてすぐに飛んでいってしまうルメナ。
俺は何をすればいいんだ。




