1-9 数百年前の天才
…?
魔王?リッチ?
人形が何言ってるんだ?
「信じられないという目だね。
ひとまず回復が先だ。飲みなさい。」
人形が椅子から立ち上がってテーブルから何かを持ってくる。
そして、俺の鼻をふさいで口を開けさせて、液体を俺の口に注ぎ込む。
息苦しい…
「何だ、俺を殺すつもりか?!」
「殺すつもりだったら生かしてなかった。
でも大声を出す元気はあるみたいだね。」
そういえば飲んだとたんに元気が出てきた。
一体何を食べさせたんだ…
「この姿で魔王だと言っても信じられないのが当たり前だけど、そもそもお前のせいでこんな姿になったんだから受け入れて。」
「他に証拠があるか?」
「そうだね。死に掛かっている君をよみがえらせる能力を持った存在が何人いるかな?
魔王ならその程度はできるだよね?」
確か俺も死んだと思って、走馬灯も見た。
本当に魔王だと?
「気になることが多いという顔だね。
なんと私に勝ったご補備で何でも答えてあげるから、何でも聞いてみろよ。」
「……どうして生きてるんだ?」
「やっぱり!勇者らしい!いきなりそこから?」
「言え。お前は致命傷を負い、無理な魔法を使った。
その状態でメテオに対応することはできなかったはずなのに。
そしてお前の消滅を確認したぞ。」
「そう、リッチとしての私は消滅したんだ。
つまり肉体だけが消滅したのが正しい表現。」
「肉体だけ…?」
「今この人形の中には私がリッチの時に作り上げた魂を込めるのができる水晶玉がある。
もともとリッチとしての肉体は限界だから、一度移す必要があったんだ。」
考えが追いつかない。
魂を込めるだけでは物足りず、肉体を勝手に変えられるということか。
そんな魔法があるはずがない。
ありえない。
「混乱するだろうが、君の目の前に証拠があるでしょ?」
「一体どんな原理だ?!」
「動くな。 傷に気をつけなさいよ。」
「答えろ!」
「落ち着け。ひとつひとつ説明してあげるから。
まず、魔法防御力の話からしてみようか。」
「…」
「よし。まず結論から言えば、私が作った強化剤、バフポーションの効果だよ。」
「ポーション?」
「エリクサーを作れるレベルの錬金術師なら理解が早いよね?」
「あれくらいの魔法防御力なら最上級のバフだ。俺も今まで上級が限界だった。
しかもそんなものをゴブリンにまで食べさせたというのか?」
「あのポーション、私の研究中に間違いで出てきた物なのよ。
せっかく作ったものがもったいなくて、あちこちに撒いて回ったんだ。
ゴブリンたちにも与えたのは最弱がどのレベルまで強くなるのか気になってあげたの。」
「ポーションの効果は?」
「魔法防御への耐性10倍上昇に持続時間は飲んだ瞬間から2時間。」
とんでもない効果だ。
普通、8倍を超えれば最上級と認めるが、10倍だなんて…
しかも最上級の持続時間は長くても1時間だ。
「いざ私自身はお前たちとけんかする時に飲まなかったけどね。」
…うん?
「ミスで作ったんだから。効果だけ知って、全部配ったよ。
作り方は知っているが、あえてまた作る理由もないし…」
「それはつまり……?」
「君は勘違いしたけど、私と戦うときに魔法攻撃を使っても有効だったという話よ。」
「…」
「プㇷッ、その表情!」
「………」
「あ、あの…?」
「…………」
「あ、ごめんね!でも敵に弱点を教えてあげるのもあれでしょ!?」
俺の努力は一体…
ところでさっきから気になるんだけど。
「お前の言い方はどうなったんだ?戦闘の時と違って威厳がないじゃない?」
「うん?女だから。私なりには中々女らしい話し方だと思うけど?」
「………???」
「何だ、その表情は?!先よりもっとすごい表情じゃない!」
「いや、なんで女なんだ?!お前、リッチだろ?!」
「むしろリッチに性別を探すのがおかしいでしょ!お前が私の股でも見たかよ?!
見たとしても骨しかないだろうけど!」
「そんなの何しに見るんだ!っていうか女ならそんな表現使うな!」
ひとしきり嵐が通り過ぎた。
「ふぅ…さっき名前を言ったじゃん。女らしい名前じゃない。ルメナ。」
「知らない、そんな名前。
今までそんな名前聞ったのはたった一度も…」
ルメナ…ルメナ…ルメナ…?
まさか···違うよ…
「お前、フルネームは?」
「そうだね。フルネームはルメナ·エルナス」
泡を飛ばすまま気絶しそうになったが、危うく立ち上がる。
「200年前、大魔法使いで錬金術の天才だったあのルメナ?!」
「フフッ、知ってるんだね。そうだよ、そのルメナが私。」
当然知っている。
錬金術の史以来、最高の天才と呼ばれた錬金術師。
そして、確かに人だった存在だ。
信じられない話だが、この状況で嘘をつく理由もなく、何より本当に最上級のバフポーションを作る存在なら…
この人形がルメナというのを納得できる。
「なぜあなたがリッチに…?」
「なんだ、あなたって。
恥ずかしいからその呼びかたはやめろよ。
いろんなことがあったのでね。
これは後で話すことにして…」
「というのは年が…」
人形が傷口を押さえる。
「うわぁっ!」
「そんなことは言うんじゃない。」
言葉を続ける。
「大人っぽい話し方とかそんなのは慣れないもんだよ。
そんな言い方はそんなことを使わなければならないから使うんじゃないの?
私は特にそういう状況はなかったんだから。」
「リッチの時は使いただろ。」
「やっぱりその格好で女の言い方を使うのは自分で考えてもおかしくてね。」
「確かにその姿に女らしい言葉をつければ汚いへんたいおじさん…」
もう一度傷が押される。
「私は女なんだ。」
「わかった!分かったから、こうするのはやめろ!」
「話を続けていけば魔法防御ポーションではなく、回復力強化ポーションを作ろうと思ったんだ。」
「どうして?」
「必要だったのよ。錬金術のための体力が。」
「なら魔法力回復ポーションを…」
「いや, それくらいでは足りない。
私がしようとした錬金術には「ディアブロズレンディング」が必須なんだ。」
「俺みたいにエリクサーの方がいいんじゃない?」
「残念だけどエリクサーを作るための材料が石ころほど散らばったところじゃなくて、仕方なかった。」
「それでそこまで準備してやらなければならない錬金術って?」
「この人形を作るように私の体を取り戻すための錬金術。」
「骨の体?」
「人間の時の体であるのが決まっているでしょ、バカ。」
「人体錬成?!それができるはずが!」
「半分あたって半分は間違い。
今このように人形の体でも動くことが可能なのに不可能なことがあるの?
だけど難しいのは正しいよ。
超天才である私も今まで成し遂げられなかったから…」
「理論上、可能ということか…」
「勇者パーティー、つまり君が来たきっかけであるテーベ侵攻もそれのためだったんだ。
そこに私の錬金術に役立つという装備があるということを聞いてさ。
結局、何の役にも立たないまま壊れてしまったけど…」
「何かさりげなくとんでもない発言、言ってなかった?!」
人間界の侵攻がそんな理由だったか。
理由もなく人間を侵攻したものとばかり思っていた。
「一体どんな錬金術なのでそんなことまで?」
「それを言ってあげるには条件がある。」
「全部言ってkるれるって言ってたくせに。何だよ?」
「君の生まれた時から現在までを全部話してくれ。」
「なんで?」
この言葉に人形が真剣な態度をとる。
つい緊張してしまう。
「どうして私が君を救ってあげたと思うの?私は別に良い人ではないんだ。
私を殺そうとした人をただ救ってあげる人ではない。」
「…なら必要だからだろう。」
「気がきくね。誤解はしないで。悪人でもないんだから。
私と関係ない人々に迷惑をかけるのは私の方からごめんだから。」
「とにかく俺が必要なことと何の関係があるんだ?そもそも俺の何が必要なんだ?」
「必要なことはあるけどよ、ただ私を助けてくれと言ったら助けてくれるの?」
「そんなことはないだろうな…」
「だから君の言うことを聞いて、君に必要なものを探すんだ。
私は君を助けるから、君は私を助けろというのよ。」
そして、さまざまなことが思い浮かぶ。
約束と大切なこと 大切な人たちそして裏切り。
「あの、今思い出すことを言ってほしいってことだけど、嫌なの?」
「いやだと言ったら殺すつもり?」
「そこまで残忍な人ではないよ。」
「……話してあげるよ。」




