1-8 裏切り
…
………
目が覚める。
天井から夜空が見える。
そして声が聞こえる。
「クリス、気が付いた?!」
この声、エリゼか…?
無事のようだ。
他の奴らも思い出るがだれよりも…
「…オフィーリアは?」
「気絶したわ。傷はないから心配しないで。」
その言葉とともに緊張が解け、体全体に衝撃が走る。
「くうっ。」
「もう終わったよ。無理するな。」
「…オフ」
ディアブロズレンディングを解除する。
体を押さえつけていた圧迫感が消える。
「魔王はどうなったんだ?確認した?」
「さっきジェラードが確認したけど、骨一つ残っていなかったそうだわ。
もしかして逃げたのはないよね?」
「それは違うだろう。
すでに致命傷を負った状態でそのような魔法を使ったんだから。
魔力も足りず、ワープで避けられる魔法でもない。」
「いや、そうじゃなくて魔法防御力のことよ。」
「それも大丈夫。
『メテオストライク』はメテオを引っ張ってくる魔法で、メテオを魔法で作る魔法じゃない。
つまり本質は物理攻撃なんだ。」
「つまり…」
「そう、魔王は消滅した。」
その言葉にエリーゼが横たわる。
「そうか、終わったかね。」
「帰り道も問題けどさ。」
「縁起でもないこと言わないで。」
でも、二人とも微笑んでいる。
「起きてみようか。」
「無理するなってば。」
「ここにいてもやることはないだろ。
まともに回復するためには一度見回して早くここから出るほうがよい。」
体中がしびれるが体は動く。
まずオフィーリアの所へ行く。
子供のような寝顔のオフィーリアを見て笑ってしまう。
「思いっきり寝ておけ。
目が覚めるとアホに一発くらわせてやるから。
ジェラード、魔王は?」
ジェラードが指したところに行ってみる。
本当に骨一つ残っていない。
ただローブの切れ端が一つ落ちているだけ。
「何か気になることでもある?」
「いや、大したことはない。」
「…」
「ジェラード、お前は大丈夫か?
他のやつらのように横になってたら?」
「お前こそ。もう大丈夫か?」
「そんなはずが。
ディアブロズレンディングに生命力は全部奪われ、魔力も元に戻った。」
そう言いながら手に火をつけるが、すぐ消えてしまう。
「これくらいの魔法も無理なんだ。回復するにはけっこ時間がかかるだろうな」
「そうか…」
そしてジェラードは負傷者側に戻る。
デレクとローレンが目覚めたか。
いよいよ帰るんだな。
ふとネックレスで目が行く。
あの時あれは何だったんだ…
ネックレスから出た光を見てからの記憶はない。
ふと子供の頃を思い出す。
「クリス、このネックレスをいつも持っていろよ。
君を守ってくれるものだから。」
「ネックレスが?これは何?」
「うちの宝物だ。「栄光の光」って物だよ。
人生を変える幸運をもたらすという伝説がある。」
「人生に幸運を? なのに僕の家はこんなに貧乏なの? 偽物じゃない?」
「うっ、痛いところを突くんだな。
ハハハハ、でもお父さんは十分幸運児だと思うけどさ。
君がいるし、君のお母さんもいるから。」
「あれくらいの幸運は他の家もあるよ。」
「賢すぎても問題だな。ずっとそうしたらあげないよ。」
あほらしい会話だったけど、今の状況を見るとこのネックレスは本当か?
それは後で調べてみよう。
そしてまた見たらレイナも起きたようだ。
順調だ。
ちょっとまわってみようか。
もしかするという気持ちで、周りを見回ってみるが、見えるのは戦闘の破片と痕跡だけ。
この激烈な戦闘で生き残った。
ますますパーティーがあった所と離れた所まで行ってみるが何か変わったことはない。
「本当に何もねのかよ。」
そのときジェラードが俺の方に来ている。
デレクとローレンも一緒だ。
「何か見つけたか、クリス。」
「別に。魔王の持っていた宝物でもあるかと思って探してみたんだけど、いないそうだね。」
「そうか…」
「お前たちは何で来たんだ?
3人が群がって。」
「お前が見えないし、聞こえないところまで行ったから。」
「ああ、ごめん… 言っておけばよかった。」
「すまないと思う必要はない。」
そして冷たい感触がお腹を刺す。
「あ…?」
「むしろこんなところまで来てくれてありがとう。」
何事か考えがつかない。
ただ下を見たらみえるのは血を流す俺の体、そして槍の先。
顔を上げるとジェラードが無表情な顔で俺を見ている。
「お前…何を…」
「悪いがここでしんでくれ。」
俺の腹から槍を収めるジェラード。
そして血が噴き出して倒れる俺。
「なんでこんなことを…」
「そうだな…」
「お前たちは何でただ見てるんだ…?」
デレクとローレンはさっきからじっとしていた。
「デレク、爆弾を仕掛けろ。
ローレン、 向こうの調子は?」
「気づかなかったようだ。」
「気を緩めるな。」
「お前ら一体何してる…」
言葉が出もしないでいる。
「なぜかというと…」
デレクが口を開いた。
「出征の前にお前に対する暗殺依頼があったのでさ。」
何の···?
「お前、一体どんなに憎まれたんだ?
俺がもらったものだけで3つだ。」
「デレク」
「どうせ死ぬやつじゃねか。これくらいはいいだろ?
最初の依頼はゼペット国。お前を迎え入れようとしたが断ったんだってさ?
その件でずいぶん腹が立ったみたいだった。」
二つ目はお前が団長をつかまえてしまった暗殺団『青蛇』。
三つ目がお前らの国の貴族たち。目障りだっただろう。
実力があり、自分たちの前で屈しない平民が。 」
何か言いたいけど口が動かない。
「ごみだと言いたいが、俺もそんなことを言える立場ではないんだな。」
そう言ったのはローレン。
「俺の出身がデカドってことなら説明になるか、カラゼンのクリス。」
デカドはおれの国のカラゼンと国境を接する国だ。
「国家からお前に対する抹殺指令が下ってきた。
カラゼンの守護神と呼ばれるお前がいなくなれば、弱小国のカラゼンぐらいはすぐに占領できるという考えだろう。
これが現実だ。
冷酷だが受け入れろ。」
「そう言ってるお前も賞をもらうと思うと嬉しいんじゃない?」
「黙れ, デリック。」
「そのへんにしておけ。」
ジェラードが二人を止める。
「そろそろだ。行こうぜ。」
行こうとしたジェラードの足が止まる。
そして俺と目が合う。
「ああ、俺の理由が聞きたい?
お前が嫌いだからと知っておけ。
そして他の奴らは心配するな。
ひとまず生きて帰るためには、戦力をこれより減らすことはできないから。
もう全てのことが正常に戻るようになるよ。
お前だけ死んだら…」
そして行ってしまう。
まもなく周囲に爆発が始まる。
死に近づいたからか。心臓の鼓動が大きく聞こえ、小さな風の音さえ聞こえる。
そして風に混じって聞こえてくる話し声。
「クリスが死ぬなんて、なんのことをしているの?!」
「さっき爆発を気づいて俺たちを押しのけて自身は…」
「笑わせるな!私が行って確認してみるわ!何よりあの爆発は何だよ?!」
「エリゼ、止まれ!お前も死ぬつもりか?!」
「そうだ、いま脱出しないと!」
「黙れ!お前たち三人は怖いなら来るな!レイナ、君はどうする?」
「……クリスは諦めよう。」
「え?君まで…?」
「エリゼ、あきらめろ。爆発も爆発だが、ここ自体が崩れている。
さっきの戦闘のせいですでに限界な所だった!」
「…ちくしょう !」
「よし、これから脱出する!」
話し声は消えた。
もう聞こえるのは心臓の鼓動だけ。
爆発の音も、爆発に落ちる破片の音も聞こえない。
そして、その心臓の鼓動も遅くなっている。
終わりだな。
思いもよらぬ死だからか走馬灯すらない。
はぁ…
約束しておいたのが多いのに。
悪口を言われるかも…
そして、すべての音が途絶える。
………
……………
……………………
…………………………
……?
…………?
何?
何も見えないし、聞こえるし、感覚もない。
黒い闇ばかりの世界。
しかし、はっきりと考えている。
まるで夢の深いところにいるような感じだ。
死んだらこうなるのかな?
神などはあんまり信じなかったけど、確実にいないようだ。
天国でも地獄でもないところでこうしているのを見ると。
その瞬間、子供が通り過ぎる。
その姿は幼い頃の俺。
続いて家族が俺を追いかけていく。
いまさら走馬灯かよ…
そして気づいたら、いつの間にかこの空間に立っている。
続いて通り過ぎるのは村人たち、俺のおもちゃ、風景。
そして学園での日々。
日一日と働いた日々。
勇者パーティーに選ばれた日。
けんかの日。
最後に通り過ぎる、皆を守った瞬間。
「短い人生の間にいろいろやったな…」
終わりだとおもった場面の最後に、もう一つの場面が続く。
両親、友達、同僚。
知り合いが全員集まっている。
「それではパーティを始めます!」
誰かの言葉にみんながグラスを持って祝っている。
何のパーティーかなぁ…
そこでまた俺を発見する。
明るく笑っている。
そういえばあんなに笑ったのがいつだったけ…
何だか忙しく動き回っている。何してんだよ。
そして聞こえる。
「結婚おめでとう!クリス」
…え?
結婚?俺が?
何言ってるんだ?これは一体何の場面だ?
ちょっと待って?
なら花嫁は?
探してみるとウエディングドレスの女性が見える。
しかし、顔はベールで覆われている。
誰だ…
「オイ!クリス。愛する妻にキスしてみろ!」
ブリンのやつ、また無駄なことを…
人々が歓声を上げている。
自分のことじゃないって…
しかし,、場面の中の俺は恥ずかしがりながらも花嫁に近付く。
花嫁も俺に近づいている。
そして二人が向かい合って、
ベールの口の部分が上がって、
唇が触れ合う瞬間、
目から涙が流れる。
そして宴会の場面は消えていた。
どんな場面かと気づくようになっていた。
「俺が望んだ未来…」
多くのことを望んでいなかった。
力と実力はただ偶然にあるだけだ。
これで何かを成し遂げたいとは思わなかった。
ただ平凡な日々を望んでいた。
「一体何だ! 俺が何か悪いことをした?! なんか大した物でもほしいかった?!」
感情が爆発してしまう。
涙が流れて地面を打つ。
「俺はただ自分がすべきことを、正しいと思うことを合理的にやってきただけだ!
誰かが傷つくようなことはしなかった!なのに、それが死ぬべき罪なのかよ!」
全てが恨めしい。
俺を殺したやつらも、俺を殺させたやつらも。
こんなことが起るこの世も。
「許せない。」
心の中の何かが変わってしまった瞬間、誰かの声が聞こえる。
「起きろよ。」
音が聞こえる所を見る。
「起きろよ。」
声が聞こえる方へ歩く。
「起きろよ。」
声がさらに大きくなっている。
そして目の前に天井が見える。
暗いが光はあるのか何とか見える。
ここはまたどこだ?
「起きたね。」
さっきの声だ。
そこを見ると人形がある。
「…誰だ?」
声が出る。
「普通そういう状態なら自分が死んだのか生きているのかから問い詰めるんだけどね。」
面白そうに笑いながら答える人形はこう言う。
「前にも見たけど、 正式に挨拶しよう。
リッチであり魔王だった存在、ルメナって言うの。」




