1-6 弱点
無慈悲な破壊が襲ってくる。
魔王は詠唱を唱えなかった。
純粋な魔力だけで無詠唱魔法を詠唱魔法以上に作くる力。
これが魔王の真の力。
まずい。
攻撃は何とか防ぐことができる。
強力な魔法で攻撃すれば、俺もそれに似合う強力な魔法で対応すればいい。
問題は限界があるということ。
魔力の消耗量がさっきとは違う。
さっき、確かに計画は15分を想定した。
だが、こんな力を相手にしたら10分もぎりぎり…
こんな悩みをする時間さえ与えられない。
魔王が左手を振り回す。
幾多の風の刃が飛んでくる。
『レイジフレイム』
風を火魔法で散らす。
これと共に生命力が大きく抜けるのが感じられる。
「自信がなくなるな。」
作り直したすき間にもう一度攻撃組が攻め立てる。
魔王が押し出されるが、さっきのように倒すことはできなかった。
すぐに魔王の反撃が飛んできて、再び迎撃する。
つとに息が上がってきて目がかすんでくる。
力が違うことを実感する。
そしてもう一度魔王が土を蹴る。
地面が凍りつきながら、その領域を広げていく。
『クレイランパート』
土の壁が建て、まるでガラスのように凍りつく。
攻撃組も奇襲的な足元からの攻撃に、今回は攻撃チャンスをつかめなかった。
口から血の味がする。
体は次々と危機を告げる。
しかし、俺はこの信号を無視している。
さらに、最も怖い点は別にある。
「100%になったからは一度も詠唱魔法は使ってなかった。」
さっきの「デトネーションスペア」を考えると,詠唱魔法の防御は魔力消耗の問題を離れ,防ぐのができるのかの問題になる。
魔王が俺を見ながら言う。
「何を考えているのかまる見えだぞ。
なら親切に直接調べられるようにしてやる。」
直後、魔王が引き上げた魔力は体の痛みを無視するに十分だった。
危ない。
『ムスペル』
地面が割れ、割れ目ごとに火炎の柱と溶岩が噴出する。
火炎と溶岩だけでも脅威的だが、もし亀裂に陥れば、手を使う暇もなく即死だ。
今も莫大な範囲の地面が割れている。
「自分で避けていろ! 隙間を埋めてみるから!」
すき間を凍らせて足場を確保しようとするが、作るとすぐに溶けて割れてしまう。
むしろ溶けて生じた蒸気が視野を妨げ、周囲をもっと熱くする。
「このままじゃ魔力を捨てるだけだ!
オフィーリア、敏捷バフを準備して!」
「かしこまりました!」
「まだ割れなかった所に集まれ!」
『リプレシングブリーズ』
速度とジャンプ力が上昇し、これに合わせて早く亀裂のない土地に集まってくる。
「全員集まった?! 絶対動くな!」
そして、俺たちがいる地に亀裂が近づいてくる。
すぐ前に走り出て地面に手をついて詠唱する。
『グレシアフィールド』
集まった場所に氷の障壁が作られ、地面も銀色に変わっていく。
そして火と氷が出会った瞬間、水蒸気の爆発とともに周囲の視野が遮られる。
「防いだのか?」
「クリス、お前、大丈夫か?!」
「お前…!」
水蒸気が消えて見えるのは倒れている俺の姿。
直ちに仲間たちが駆けつけてくる。
そしてうるさい声に意識が戻る。
「うるさい。俺のことを気にする時間があれば魔王のことを牽制しろ。」
「クリス、大丈…!」
レイナの声が止まる。
両腕がやけどでぼろぼろになっている。
「大丈夫。一息休めばすぐ回復するよ。」
言葉はそうしたが、すでに体の異常は無視できない。
傷はもちろん、口に血がたまり始める。
然りとて甘えるわけにはいかない
さっそく次の手を考え出さなければならない。
「真正面から戦っては絶対勝てない。
あの魔力なら魔法防御力じゃなくても魔法は通じない。むしろすきを見せて逆攻にやられるよ。」
「リス…」
「キャスティングの隙を狙おうにも無咏唱魔法が強すぎる。
すきをねらっては防御が遅れてしまう。」
「クリス·····」
「あの状態なら物理防御も強くなったかな。
なら少し防御を疎かにしても攻撃を…」
「クリス!!」
気がつくとジェラードが俺の前に立っている。
「もう十分だ。お前はもう休んでろ。」
「何を言ってるんだ。俺が抜けて勝つ相手ではない!」
「今その身で何かできると言うんだ?!」
「傷はどうだって?!俺はまだ…」
反論するために魔力を引き上げるとほんの一瞬だが意識が途絶えた。
目を覚ますと夜空が見えるだけだ。
これで確実になった。
生命の火種は、小さな風にも消えるほど衰えてきた。
「もう一度言ってみたらどうだ?お前を信じて突撃したのに、先に自滅してしまい、そのおかげで俺たちも全滅するのがお前の作戦か?!
最初から攻撃は通じないし、信じろと言った防御も結局破られたじゃないか。
ところでこのようになってしまったのにずっとお前を信じてみろと?
これからはどうするつもりだ? 言ってみろ!」
何も言えない。
口を開く気力さえ足りない。
「ジェラードさん、話しがひどすぎるんじゃないですか?!」
「黙ってろ、オフィーリア。
お前もこれ以上こいつをかばうのはやめろ。」
そして魔王が割り込む。
「遊びすぎているんじゃないか?
私も100%を公言した以上、これ以上いたずらで争うつもりはない。」
みんながもう一度俺に背を向けて魔王と向き合う。
オフィーリア以外はだれも俺に頼ろうとしない。
「お前は十分にやってくれた。」
しかし、その言葉に慰めの暖かさはない。
そして魔王に槍を向けて駆けつける。
「止まれ……」
悔しさに出てくる言葉ではない。
「止まれ……」
悲しくて出てくる言葉ではない。
「死にたくないなら止まれ…!」
そして魔王の魔法が炸裂し全員投げ出される。
「アホめ、勝てない!」
反射的に走り出てる。
そしてもう一度絶望と向き合う。
『パエトン』
魔王の手に小さい太陽が作れられた。
体の調子さえ忘れたまま防御壁を作ろうとするが、その前に、太陽の熱気がすべてを破壊する。
……
……
「あきらめるのか?」
魔王の言葉に誰も答えられないまま倒れている。
「立ち上がるのを待ってやろう。最後の力を振り絞ってみろ。」
『ベネ…ディクト…』
絞り出すようなオフィーリアの回復魔法詠唱。
それとともに再び立ち上がるが、誰も攻撃姿勢を取れずにいる。
「せっかく待ってあげたのに本当に終わりか?」
この言葉に皆が恐怖におびえる。
ブリンが叫び出す。
「黙れ! むかつく奴! 反則だろ、こんなこと!
俺たちの魔法は通じないのに、自分は思いきりにつかって!」
そしてエリクサーを取り出す。
あのばかが!?
あれを今飲んでどうするつもりだ?!
「どうせ死ぬなら一発食らわせた後に死ぬぞ!」
エリクサーをくわえたまま魔王に突進する。
「何?!」
魔王もあわてた様子だ。
すぐに魔法がブリンの体を粉々にする。
そして悲鳴とともに体のすぐ再生している。
「なめるな!クソやろ!」
『フェンリルケナイン』
ブリンの最強級スキルが魔王に直撃する。
そして直撃した骨にヒひびが入る!
な…に…?
驚いている最中、ブリンは激痛で倒れる。
「何だ、何が起きたんだ?!
魔王に触れたものでは足りず、確かにダメージを与えたじゃねか!」
「ブリンの必殺技だったじゃね? あれくらいの破壊力なら突き抜けることができるか?」
騒ぐ間、オフィーリアと一緒にブリンを移す。
「エリクサーのおかげで致命傷はないみたいです。
またエリクサーを使う必要はないと思います。私が回復させます。」
「いや、オフィーリア。俺がやるよ。
この程度なら俺にもできる。他の人たちを助けてあげろ。」
「…大丈夫ですか?」
「そう、そして先ほどブリンの攻撃が成功した理由について思い当たる点がいくつかある。
ちょっと考えたい。」
「かしこまりました。
じゃ、おまかせします。」
「信じてくれるのか…」
独り言以降、ブリンを回復させる。
回復とともにブリンが目覚める。
「何だよ、クリスか。 なら、死んではいないみたいだな。
そうでなければ地獄に来たのかな。」
「お前が勘違いするのは自由だけど、それは後でやれ。
お前が攻撃する時、魔王が防壁を全く立てなかった?
それとも物理防御力バフは?」
「何だ、急に。なかった。
殺して止めようとするのを見ただろ。
バフもいない。さっきと比べて大きくましな点がなかった。
結局一発食らわせてやったじゃないか。」
やはりおかしい。
魔王は確かに先ほどまでは防壁を積極的に使うながら防御していた。
そうでなければバフの可能性だが、ブリンの言葉どおりならバフでもない。
それに魔王は今まであまり被害を受けていなかった。
これまでの被害が積もってそうなったとも思えない。
圧倒的な魔力で攻撃するだけだったのに一体どこでダメージを受けたんだ?
これではまるで…
……
…………
……………!
さっき気づくべきだった。
それを知っているという点で可能性は十分だったのに。
魔王の方を見ると、さっきのダメージのせいか、魔王が大きく警戒しているようだ。
その姿に確信が持てる。
「お前ら、よく聞け! 魔王も俺と同じように『ディアブロズレンディング』を使ってるんだ!」
その声に魔王の表情がゆがむ。
「魔力の増幅、突然に受けたダメージもそうだし、魔法防壁で防御しないのも証拠だ。
魔法の防壁は相手の攻撃に合わせて必要なだけ展開するのが定石なのに、『ディアブロズレンディング』の状態では制御ができないから、余計に魔力を使ってしまうから使わないほうがいい。」
俺の場合は防御だけに気をつければよかったので魔法防壁を使ったが、魔王は違う。
攻撃魔法のためには魔力を惜しむ必要がある。
それとともに、圧倒的な魔法で最善の防御は攻撃であることを実現させたのだ。
魔王が初めて距離を開く。
魔法の詠唱のためとかではなく純粋な逃亡の意味として。
ブリンの攻撃一発であれぐらいなら、もうかなり生命力を失っているはずだ。
「よく気づいたな。」
魔王が舌打ちする。
「つまり魔王の体力が尽きるまで突っ張れば勝つの?」
エリーゼが言うが,それは間違った。
魔王が脅迫するように話を続ける。
「気づいたからといって私が弱くなるわけではないが。
果して私の生命力が尽きるのか、それともお前たちが先にほこりになるだろうか。」
これがその理由。
魔王が倒れる前に、俺たちを倒せば終わりだ。
「エリクサーって、思わぬ変数があった。
こんなことを今までよく隠したな。
…そうだったか。
魔法使いの魔法の枯渇は、このエリクサーの製作のためだったんだ。
もしかしたらついに…」
何か独り言を呟きながら飛び掛からない魔王。
本当に大事な時間ができた。
「俺たちが先に倒すしかない。ブリンが同じ方法で攻撃する。」
ジェラードがエリクサーを引っ張り出す。
「順番を決めてエリクサーを飲み魔王に必殺技を使う。
残りは突進するやつを徹底にサポートすることだけに集中する。」
「私が先に行くよ。」
レイナが先に出る。
かが止める間もなく、すぐ奥義のための鬪気を引き出す。
『エクアトラルブレード』
レイナの剣に剣気が集まる。
そして、レイナが飛びかかる。
あっという間に起こったことだった。
「二度やられるもんか!」
ブリンの時よりも強烈な魔法を詠唱し、氷の槍が飛んでくる。
しかし、他の5人の防御に大半は壊れる。
「なにっ?!」
間違ったと感じたのか、すぐに退いて詠唱魔法を使う。
『コクイトス·シックル』
たった今の氷の槍が全部合体した物より大きそうな氷の槍がレイナを狙う。
5人が氷の槍に攻撃をしかけるが、槍の勢いがくじけない。
「ウアアアアッ!」
槍がレイナのわき腹を突き破る。
でもすぐに再生している。
「食らえ!」
魔王が退くが、レイナの速度はそれを許さない。
びゅう。
風を切る音が聞こえる。
そして剣の軌跡に残された閃光が消え、魔王の骨でできた肉体が落ちる。
「私たちも攻撃に気を使わずに防御さえすればなかなかであよ?」
レイナは言葉が終わったとたんによろめく。
サポートといってもあくまでも魔王への道を開く役割で完璧に防御してくれる役割ではなかった。
気絶したレイナをオフィーリアが受ける。
「素敵でした、レイナさん。」
「よし, 次は俺が行こう。」
今度はデレクが自信のある顔で出る。
魔王もすぐに戦闘態勢を取る。
しかし、俺はすでに気がついている。
この戦略の弱点を。




