1-4 魔王『リッチ』
「到着した。」
到着したところは、様々な彫刻や柱があふれる神殿のようなところだった。
陰惨な気力が魔の中心であることを実感させてくれる。
「他の方々はどこに?」
オフィーリアの質問が終わる前に通路から轟音が鳴り響く。
2人とも無言ですぐに音がした方へ走っていく。
そこで重武装のミノタウロスたちとパーティ員たちが争っている。
「俺たちは俺たちの役割を果たしてみようか」
すぐにヒールを詠唱する。
……
……
………
……………
ここまで来るまでに、どれくらいかかっただろうか。
すでに俺が与えた強化剤の効果は終わって久しい。
神殿の内部はまさに迷宮。
最初に見たミノタウロスはもちろん、バハムートにドレイクの群れまで。
魔王がいる場所ということを実感できる強力なモンスターばかりだった。
でも、すべてのモンスターを突破して、やがて大きな門の前にたどり着いた。
その中から出る圧迫感は皆を圧倒している。
全員が感じている。この門の向こうに魔王がいる。
しかし、すぐには門を開けない。
この門の前まで来るための神殿の突破だけでを多くの時間が過ぎた。
再整備が必要だ。
幸い、問の向こうに動きの気配は感じられない。
安心して整備できそうだ。
「バフもギリギリだ。残ったの持って行って。」
残っていた強化剤を配り、一般の回復ポーションも残らず配る。
エリクサーを作る時に出たかすで作ったものだが、効果はある。
「どうせ魔王の攻撃の前には普通のポーションなんていないのと同じだ。ここで全部飲んでいこうぜ。」
もう手元に残ったポーションは自分の分け前のエリクサーだけ。
これから俺がすることはない。
仲間を信じるだけだ。
「お前ら、戦えるよな?」
ジェラードの質問に誰も口を開けないが、目が生きている。
ジェラードも黙って門を開ける。
門の向こうにあるのは非常に意外な光景だった。
門を開けて出てきた所はとてつもない大きさの遺蹟。
国の王都に近い大きさだ。
普通ならこんなところがあるということに驚くのが普通だ。
しかし、誰もその点には気にしない。
みんなの目は一カ所に集まる。
遠くにある中央の天井から月の光が下を照らし、
照らされる所にあるのは古いて高い祭壇。
その中央の祭壇に誰かがいる。
慎重に近づき、次第にシルエットがはっきりしていく。
「来たか。」
足が止まる。
そして立っていた誰かが後ろを振り向く。
そして見えるその姿は魔法使いが好んで着るローブに隠された骨だけが残った姿。
死神という異名で伝説としてのみ伝えられていた魔族。
『リッチ』
「来たのか。小僧どもめ。
待ちくたびれた。どうぞ楽しませてくれ。」
そしてその魔王が近づいてくる。
骨の顔の中の目がおれたちを見た瞬間、重圧感のせいか。
パーティー全員が向こう見ずにとびかかる。
『レニゲード・スピア』
そして瞬きをしてまた目を覚ました瞬間, 見えたのは倒れたパーティー員。
ある人は腕が切れ、ある人は腹を貫通され、一様に全部致命傷だ。
そしておれの足に痛みが押し寄せる。
貫通されたか。
『イモータル・クロニクル』
しかし、それを防御できた人がいる。
オフィーリアだけが防御を果たし、直ちに広域回復を図る。
嘘のように貫通の傷が癒え、他の人々も平気に立ち上がる。
「何の力なんですか。
最初から『インモータル・クロニクル』を使うようになるなんて。
本当に喧嘩したくありませんね。」
オフィーリアが飽きたように話す。
これを見ていた魔王が口を開く。
「見下しているようで自分なりに高位魔法を使ってみたが、さすが勇士と呼ぶに値するな。
とにかくよく分かっただろう。
全力で油断なく戦え。
さもなければ死ぬぞ。」
手に魔力を集中させるリッチ。
全員が凍りついたようにじっと見ている。
ジェラードを除いて。
『バイオレント・ピアス』
ジェラードの槍が魔王の胸を狙う。
しかし、やすく避けてすぐ魔法弾を飛ばす。
「油断するなと言ったはずだ。」
けど、ジェラードの攻撃に気が付いたほかのやつらも動く。
戦闘が始まった。
『アローストーム』
『ガトリング』
ジェラードの後ろから飛んできた矢と弾が魔法弾を撃つ。
『ダイヤスラッシュ』
『バースト・ストライク』
『スカムファーズ』
魔法弾の爆発衝撃を正面から受ける。
そして続くバフ咏唱。
『|プレッシング・オーバー《順風の足》』
『ピボット・ダーツ』
再びジェラードが飛びかかる。
さっきよりずっと猛烈にリッチに突っ込む。
轟音とともにリッチが押し出された。
ジェラードは皮肉な調子で話す。
「あんたこそ勇者パーティーを前にして余裕を出しすぎじゃないか?」
これを聞いてリッチが笑い出す。
何だか愉快な笑い声だ。
まるで子供が面白いおもちゃを見つけたような無邪気な笑い声。
「そうだな。その通りだ。
少し本気を出してみようか。かかってこい。」
すぐにレイナとジェラードが両方から飛びかかる。
しかし、武器が触れた瞬間にすぐにはじき出される。
エリーゼとデリックが矢と弾丸を撃つけど、魔王の目の前で壁に塞がれたように地面に落ちる。
ブリンが背後から、ローレンが頭上を攻撃するが,届かない。
攻撃する。
届かない。
攻撃する。
届かない。
攻撃する。
届かない。
すべての攻撃を余裕をもって防ぐ魔王だが、異常なほど反撃をしていない。
単純に攻撃魔法を使う時間がないのでならいいけど…
「このままじゃきりがない。みんなちょっとさがれ。」
ジェラードの指示に退く。
「こうやって消耗戦にするには魔王のガードがしっかりしている。
詠唱技術も惜しみなく使うほうがいいぞ。」
すぐに魔王が魔力を集める体勢をとる。これに反射的に突撃する。
そしてみんなの詠唱が鳴った瞬間、魔王が笑った。
「大きなわざをそんなにむちゃにしちゃダメだぞ。」
攻撃が魔王のいるところに正確に突き刺さった。
しかし、そこには何もなかった。
その同時、最後方の俺とオフィーリアの後ろから声が聞こえる。
「こんなにすきがでてしまうじゃないか。」
魔王がおりのうしろに立っていた。
すぐに距離を開けようとするが、
『イグネーズ』
火炎が襲いかかる。
「ワープを無詠唱で使うとは思ってなかったみたいだな。」
そう言って、炎を見つめるリッチが感嘆する。
「それをこんなにうまく食い止まるなんて、これは予想外だな。」
俺とオフィーリアが火の前に立ちはだかった。
「素晴らしい。
強い魔法障壁なら作るのが遅れると思って、その瞬間に一般な魔法障壁を積み重ねて威力を落とすなんて。
しかし、それを実行するためには、とんでもない魔法の展開速度が必要なのに、見事にやったな。」
そして、火が消えた瞬間、俺も倒れた。
オフィーリアがすぐ駆けつけてくる。
「クリスさん、大丈夫ですか!?」
他の仲間が戻ってきて魔王をにらむが、魔王は不思議そうにうなずく。
「どういうことた?
君の症状は魔力枯渇と見えるが、君くらいの魔法使いが魔力枯渇だなんてありえない。」
「敵に素直に弱点を教えてあげるバカがいるか、バカ。」
今にも気絶しそうな顔と体から力強い声が出る。
おもしろそうに笑うリッチ。
「その通りだな。
しかし、それがばれたからといって戦況は大きく変わるとは思わないが。
君の魔法が魔王をしのぐ水準だと自信を持っているのか。」
そして再び魔力を集める。
俺をこのようにした魔法を使った直後とは思えない魔力量だ。
「もしそうなら、ぜひ見せてほしいな。」
無数の魔力弾が再びパーティーを狙う。
ひとまず全員が防御して戦列を整える。
「半分は攻撃し、半分はワープに備えておけ!」
ジェラードの指揮に合わせて応戦する。
しかし、それでは足りないとこの短い戦闘からも十分わかる。
途方もない攻撃力とキャスティング速度だ。
このままじゃ反撃を受け続け、敗北するだけ。
攻撃力が足りないわけではない。
魔王に勝つためには守備をしっかり固めておかないと。
さっきの挟み撃ちで魔王が押し出されたことから見ると、物理攻撃は成功すればダメージになる。
物理防御は魔法防御ほどではないようだ。
しかし、魔王級の魔法を防御するためには、同じ魔法の力が必ず必要だ。
今、防御はオフィーリアが専担している。
しかし、オフィーリア一人に任せるには魔王は強すぎる。
オフィーリアが防御だけに専念するなら話は違うだろうが、バフとヒールにも気を使わなければならない。
…博打をするしかないか。
博打は苦手だけど、どうせ魔王に殺されようがギャンブルに失敗して死のうがどうせ死ぬのなら、当然コインを投げるのが正しいだろ。
こんなに早く奥の手を使うとは思わなかった。
しかし、これを使わないと勝利を手にする可能性はゼロだ。
「お前たち、何でもいいから2分だけ時間稼いでくれ!
奥の手を準備するぞ!」
「無理な要求するな!1秒耐えるのも大変だ!」
「くだらないまねならお前から殺すぞ!」
「期待はするな!」
「オフィーリア、君がしっかり守ってあげなさいよ!」
言葉はそう言うが、さっきより気合が入ったのが感じられる。
すぐに姿勢を取って言霊を唱える。
20秒経過
『クレイグ・リーマ』
『ベノム・クロル』
「厳しいな。体が震える。」
45秒経過
「グランド・スリング」
『セドウインフィレイズ』
「そうだ、もっと…!」
70秒経過
『ジェネシスブレイド』
『アルマゲドンウエーブ』
「今回のは少し痛かったぞ。」
100秒経過
「これ以上見せてくれるものがないなら終わらせようか。」
『アビス・ストリーム』
「結局これくらいが限界か。」
110秒経過
「仲間が頼んだ2分まで残りわずかなのに倒れるのか」
「残念だが、これで終わりにしよう。」
115秒
「楽しかったぞ、 勇士一行よ」
120秒
「デシジョン・ガベル」
天井に光の円盤ができ、光を放つ。
125秒
「結局あの魔法使いは何がしたかったんだ…」
そして光の柱が降り注ぐ。
……
『ブラックホール』
くろい円ができ、光の柱が吸い込まれて消えてしまう。
攻撃が失敗したにもかかわらず、これを見た魔王は楽しそうに笑う。
「待っていたぞ!」
「これからはもう笑えないから今のうちに笑っておけ」




