嫉妬
ある日のことだった。
いつものようにバイトを終えて帰ろうとしていた時、店の入口でアキコとユウスケが何やらこっそり話していた。
見ればアキコが何かユウスケに渡している。
他のみんなは話に夢中で誰も気付いていない。
アキコはそのままこっちに戻りみんなとの会話に混ざっていたが、ユウスケはそのまま帰ってしまった。
私は何を渡していたのか、何を話していたのか気になった。
「お前さっきユウスケと何ヒソヒソしよったん?」
ジュンがいきなりそう言った。
「あれ?!見てたん?やらしーなーもー。
何も怪しいことしてないじゃん。だた物渡しただけだって。」
「物って何なんよ?」
「たいしたもんじゃぁないってー。」
「怪しい…お前ら最近怪しくないか?」
「何言ってんの?!そうゆうジュンの方がよっぽど怪しくない?」
「確かにー。」
と他のみんなが口を揃えて言った。
その流れでその話題はは消えてしまった。
「実はー昨日までちょっと大阪まで遊びに行ってたんだー。」
そうアキコが切り出した。
「えー?!お土産は??」
みんなが口々に言った。
「ごめーん。妹が大阪にいるからちょっと行ってただけで観光はほとんどしてないんよ。」
「してないって土産くらい買えんだろーが。」
「だって言わなかったら誰も知らないじゃんかー。」
「そりゃそーだけど今お前大阪行きましたーて言ったし。」
「まぁまぁそう怒らんとってやー。」
そう言ってアキコは持ってきた紙袋の中から箱を取り出した。
「はーいこれ、みんなでね。」
「おー。まぁ一応あるんじゃないの。優しいね、アキコちゃん。」
「ほらそうやってすぐゴマする。見習ったらいけんよ、マキちゃんは。」
そう言ってアキコは取り出した大阪限定たこ焼き味のベビースターラーメンをみんなに配った。
それにしてもユウスケには何を渡してたんだろうか。
そればっかり気になってほとんど上の空だった。
あれからみんなで一緒に居る時間は増えたものの、ユウスケと二人で話す時間は減った気がする。
ディナータイムはアユミ達が先に休憩に行くからユウスケと前のように休憩室で一緒になることがなくなった。
同じように働いているのに休憩時間はずれるし、二人の時間なんて到底期待できなかった。
そのうちに、ナオコがどんどん彼との距離を縮めていくんじゃないかと不安になった。
私はどうしたらいいか考えるばかりでなかなか行動に移せなかった。
そもそも恋愛というものがどんなものなのか分からない。
19にもなるのにそんなことも知らないの?って誰かに言われる気がして話せなかった。
アユミ達は当然自分の彼氏や元彼の話で盛り上がる。
もちろん初Hだってとっくに済ませていた。
みんなで遊んでいるときは楽しい。
でも恋愛や女の子同士の下ネタ話になるとついていけなかった。
何とか話を合わせていたが、やっぱり疲れた。
自分がまだ未経験だということは話せなかった。
「ねーねーナオコ、最近どうなん??」
アユミが切り出した。
「えー?珍しくおとなしいんよ、最近は。」
「うそー?!やっとまともな恋愛する気になったん??」
「まーねー。もう不倫はこりごりだし。コンパも遊びって感じであんま行ってない。」
「マジー?!あたしなんてまた最近一夏のアバンチュールだよ。」
「何それ??」
「こないだ声掛けられた人がめっちゃカッコ良くて。
遊びだけどいい?って言われたけどあんまりタイプだったから受け入れちゃった。」
「は??マジで?!今は?」
「今はもう終わったよー。でも写真撮ったし。見る??」
そう言ってアユミはラブホのベッドで撮った写真を見せた。
上半身裸の男とベッタリくっついた笑顔のアユミ。
確かに遊んでそうな男だった。
「もーカッコよくない?ほんまタイプー。」
「あのさ、アユミちゃんと彼氏作ったら??」
「えー?ちゃんといるし。」
「は?!彼氏いんの??」
「そーだよ。同じ高校。同い年だよーん。」
「じゃぁその人は?」
「だってー彼氏お金ないってゆーて遊ぶのも家とかばっかだし。
たまには外でHもしたくない??それに車もないし。」
「あー分かる分かる。」
そうミカやナオコが言った。
私は内心あ然としたが、とりあえず相づちをうっていた。
「でもさーナオコ最近おとなしいって、彼氏できたん??」
「ううん。何となく好きな人がいるだけ。」
「え??誰?誰?」
「ナイショー。でも年上だよーん。」
「もー教えてよー。協力するからさー。」
「そのうちね。結構今回マジ入ってるからさ。もうちょっと経ったら報告するよ。」
「おぉーマジだー。ナオコがマジになったよー。」
みんなはそう騒いでいた。
でも私は気付いていた。
最近ナオコがタバコを控えていたこと。
あまり派手な服装をしなくなってきたこと。
きっとそれはユウスケの好みに合わせようとしているんだということ。
私は一体彼の何を知っているんだろう。
彼と何を話してきたんだろう。
彼にとって私はどんな存在なんだろう。
そう考えた。
きっとナオコは私がウジウジ色々と考えている間にも自分から彼に声を掛けているんだろう。
好きなタイプ・服装・趣味…色んな話をして彼の好みを知っているんだろう。
私は自分が少し情けなくなった。
考えるばかりでちっとも彼に近づけていない。
日に日に自分の中で彼への想いだけがふくらんで恐くなる。
まだ起こってもいないことに不安を感じ、おそれている。
どう行動していいものか、分からなかった。
本能のままに身体が動けばどんなに楽か、そう思った。
ナオコは彼と会う日、必ず自分から話しかけていた。
それはたわいもないことであったり、わざわざ話しに行ったり。
そんなナオコの行動を無意識に私は見ていた。
でもその空間を割って入ったり、それ以上のことをしたりすることはできなかった。
突っ走ることのできない自分がもどかしい。
でも自分の中できちんとした彼への想いがあれば、チャンスは来る、そう信じていた。
この頃にはすっかり、私は恋に墜ちていた。