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19才  作者: mame
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ライバルの存在

あれからマサシとは会っていない。

たまにメールがきていたが内容もたわいもないものだったし、特に誘われたりもしなかった。

ナオコにはマサシのことについて言及しなかった。

もうなんならこのまま自然消滅という形で終わりになってもいいと思っていたからだ。


ナオコに話をするとまた色々と深く掘り下げられそうで何となく嫌だった。

また勝手に影で根回しなどされたら困る、そう警戒した。

あの一件以来、私のナオコに対する信頼は薄らいでいた。

人間的に嫌いとか、そういうわけじゃぁない。

でもこの子に自分の話はなるべくしないでおこう、そう思っていた。



「マキさーん、あれからマサシと会ったりしてんですかぁ??」



ある日の休憩室での出来事だった。



「え…??いや、会ってないし。」



何で今この場でこんなこと言うんだろう…。

わざとなのか、それとも素の状態なのか。



「あ、そうなんですか。あの日二人であれからどっか行ったんですか??」



「いや、そのまま店まで送ってもらって帰ったよ。」



「なーんだ。てっきりまたどっか行ったんだと思ってたのにー。」



本当にやめて欲しいと思った。

休憩室にはユウスケがいたからだ。

もちろん他の子もいたが、そんなのどうでもよかった。



「マサシとメールしたりするんですか??」



「いや、たまにくるけど…そんなしてない。」



「じゃぁあれから交換したんだー。メールしてんじゃんマキさん。」



ナオコが話をどう持っていきたいのかが分からなかった。

少なくとも彼の耳には聞こえるような大きさの声で話している。

ユウスケはいつもと変わらず携帯をいじっていた。



「あのさ、何で急にそんなこと聞くん??」



「いやーあれからどうなったかなーって思って。」



「どうもなってないよ。連絡だって数えるくらいしか取ってないし。

 ナオコさんに紹介された日以来何にも変わってないよ。」



この際何で嘘までついて私とマサシを引き合わせようとしたか聞いてやろうかと思った。

何だか色んなことをわざとらしく言っているように聞こえてきてムカついた。

でも自分の中でこの話は本当に終わりにしたかった。

ナオコがこんな言動を起こすたび、やっぱりナオコもユウスケが好きなんだと確信していった。



「私、マキさんとマサシはお似合いだと思うんだけどなー。」



「まーこの話はいいがん。多分この先もどうもなんないよ。」



「何でですか??せっかく仲良くなったのに。」



「仲良くなったっていきなり紹介されていきなり番号きかれて…って勝手に話進んでんだもん。

 こっちとしちゃ訳分かんないでしょ。」



何となく語尾を威圧的に言ってみた。

言い方とすればもっときつく言ってもよかったのかもしれない。

でもこんな話題でナオコともめるのさえ嫌だった。



「…そうですよね。まぁまたマサシにでも聞いてみよっかな。」



「うん、いいよ。好きにしてん。

 マサシさんも彼女と別れたばっかだって言ってたから今はそんな気ないと思うよ。

 紹介も乗り気じゃなかったって言ってたし。」



一瞬ナオコの顔が驚いたのを私は見逃さなかった。

ナオコは自分がやったことに私たちが全く気付いていないと思っていたようだ。



「なーんだ、結構二人話してんじゃないですか。」



ナオコはまだ食い込んでくるようだ。



「あの日の帰りにマサシさんから聞いたの。あの日もう断ろうと思ってたんだけど。

 まぁおごってもらったし、車も出してもらったことになるから。

 お友達にでもなりますかって感じだよ。」



「マキさん、マジメなんですね。」



ナオコは急にすねたような顔をして皮肉っぽくそう言った。



「マジメってか、ナオコさんの友達ってこともあるがん。

 あのまま愛想悪く帰っちゃうのも失礼でしょ。一応ナオコさん真ん中にいたんだし。」



少しだけナオコを持ち上げたみた。



「そんな風に考えてたんですか??私、マキさんに違うこと言ってたんですよ。」



「あーとうとう白状した。別に気にしてないよ。マサシさん悪い人じゃなさげだし。

 社員さんだからまた色んな事教えてもらおうと思って。いい知り合いができてよかったよ。」



そう言って話をまとめた。

ここまで自分の中で色んな感情がうずまいていた。

顔に出てなかっただろうか…。

そんな心配をしながら、でも常に私はユウスケの存在を気にしていた。



「なんか…すいません、マキさん。」



「なんでそう言ったんか分かんないけどもういいやーわざわざ聞くのも性格悪いしー。」



「マキさんって色んな意味で正直ですよね。」



「え??色んな意味??」



「そうですよ。色んな意味で。」



「まーいいや。今度は二人でゴハンにしようよ。」



「わーい、いいんですか?!」



「なに??あたし怒ってるとでも思った??」



「正直、このまま気まずくなるかと思ってました…。」



「もうこの話はやめよ。」



「ですね。店長の悪口でも言います??」



「だーめって。みんな聞いてんじゃん。」



そうやって一応わだかまりなくナオコとは話の決着がついた。

ただなぜナオコがあんな行動をとったかはあえて聞かなかった。

そしてナオコが私のことを色んな意味で正直だと言った意味も何となく理解していた。


あれから私の周りに変化はなかった。

学校にも行き、変わらずバイトにも行っている。

秋も深まり朝晩はすっかり寒くなってきた。


ナオコとも仲良くしている。

他にもアユミやミカ、ヒロコといった仲良しのバイト仲間もでき、よく遊びにも行った。


勤務時間も閉店まで入ることが多くなり、だんだんと色んな仕事を覚えていった。

深夜の時間帯は私の他にもう一人、アキコという1つ年上の大学生が入っていた。

仲の良いメンバーは1つ年下だったため、22時までしか働くことができなかった。

そこが高校生との違いだった。


アキコはユウスケと同じ大学の教育学部に通っていた。

県北から出てきて一人暮らしをしていた。

小柄で細身のカワイイお姉さんだ。


仕事もてきぱきとこなし、キッチンの人とも仲良くしていた。

深夜の時間帯はほとんどの従業員がバイトになる。

アキコは女一人だろうと関係なく輪の中に入って騒いでいた。


私はまだ深夜のメンバーの輪に入ることができずにいた。

既にできあがっている大学生の輪の中にどうしても自分から入る勇気がなかった。

そのメンバーには当然、テツジもいたしユウスケもいた。

でもなぜかディナータイムとは雰囲気が変わる。

そんな環境に慣れなかった。


アキコはそんな私によく声を掛けてくれた。

ナイトタイムの仕事は掃除や閉めの作業が増え、かつ接客もしなければならない。

暇になるかと思いきや、夜中の方が仕事が多かったりする。

アキコは私にできそうな仕事を割り振りしてくれたり、指示をしてくれた。

なかなか自分から話しかけることができない私にとっては救いだった。


そんなアキコはバイトの中でも一目置かれる存在で、店長も階級を1つ上げるつもりだと言っていた。

私たちバイトにも一応階級というものがある。

それは名札の色で表され、みんな最初はピンクのラインが入っている。

それから1つ上がるとゴールドのラインに変わる。

さらに上がると名札そのものを特注してシフトリーダーという肩書きになる。


アキコはいち早く、ゴールドラインになるとのことだ。

さすがだなと私はただ思うばかりだった。

アキコは大学での成績もいいそうで、同じ学部のジュンがいつも試験前になるとレポートを頼んでいた。

見た目もカワイイし頭もいいし、非の打ち所がないとはまさにこういう人なんだなと思った。


私はアキコと仕事の話はしていたものの、私生活について会話を交わすことはなかった。

というより、私にとってアキコは目上の存在で、自分から話ができるような雰囲気にならない。

アキコ自身も私をそんな存在として見てはいないんだろう。

本当にうわべだけの付き合いだった。


ディナータイムのメンバーはそんなアキコに興味があるらしく、私によく聞いてきた。



「ねーねーあのアキコって人、結構遊んでるっぽくない??」



「なんで??」



「だってさー知ってる?うちらが帰るとき更衣室で入れ違いじゃん?

 そん時も常に携帯しっぱなしだし、すごい化粧品持ってるし。

 しかも、ブラがめっちゃ派手なんよー!!」



「なーんだ。そんなことで?」



「そんなことってあの清楚な見た目からしたら真逆よー。あー見えて絶対男関係は派手だって。」



「仕事ん時は普通よ。てかすごい仕事できるんよ。

 しかもみんなと仲イイし、女一人でもみんなと飲み行ったりしてるし。」



「ほらーやっぱりそーだってー。マキ、今度何か聞いとってよ。情報。」



「情報ってアキコさん何か話しかけにくいんよ。ちょっと謎だし。」



「そこを何とか。お願いマキちゃん。」



そうやってみんな私にアキコのことを聞いてきた。

アユミ達にしてみたら、アキコは男遊びがすごいとのことだ。

その理由は勘だと言うが、その勘は果たして合っているんだろうか。


正直なところ、私自身にもアユミ達と似たような勘があった。

アキコは閉店後必ずすぐには帰ろうとせず、休憩室でみんなと話している。

そしていつもジュンと一緒に自転車で同じ方向に帰って行った。

私の中では、アキコとジュンが付き合っているということになっていた。



「マキちゃんは彼氏とかいるの??」



数日後、アキコと一緒に閉店後更衣室で着替えていた時のことだった。

アキコから話しかけてきた。



「いや…今いません。」



今がチャンスだと思った。



「あのー、アキコさんはいらっしゃるんですか?彼氏さん…。」



「いやーそんな敬語ばっか使わんでよー。もう今日終わったんだし。

 彼氏ってか好きな人くらいはね。」



「そうなんですか。何かみんなと仲良くしてるからすごいなーと思って。

 私結構人見知りなんで…。」



「そうなんだー。だから飲みとかも一緒に行かないんだ。なーんだ早く言ってよー。

 誘ったのに。女一人じゃつまんないんよねー飲みも。」



「いや…アキコさん一人で行ってすごいなぁって思って。彼氏さんに怒られたりしないんですか?」



「あー彼氏もよく知ってるから全然。みんなで一緒に行くこともあるんよ。」



「彼氏さん、お店の人なんですか??」



「あれ?結構突っ込んでくるねー。」



「いや…正直ジュンさんと付き合ってんのかなぁって思って。」



「え?!ジュン?!まっさかー??アイツはただの友達だよー。学部一緒だし。

 帰りの方向が一緒だからいつも送ってーって言ってるだけ。」



「あ…すいません。てっきりそうなんかと思って黙ってました。」



「マキちゃん冗談キツイよー。勘弁してー。ジュン?!ありえんしー。」



「じゃぁ別の方なんですね。勘違いしてました、ごめんなさい。」



「そんなん全然いいよ。あ、この話は内緒ね。誰にも言ってないんよ。」



「え??誰も知らないんですか??」



「そうそう。マキちゃんは初めてのナイトタイムにきた後輩だからいずれ分かると思って。」



「えっっ?!じゃぁナイトの人ですか?!」



「まぁね。もうここまで言ったら分かるか。」



私の中でまさかユウスケと付き合ってるんじゃないかという不安がよぎった。

一気に冷や汗が出てくる気分になった。



「えっと…ジュンさんじゃなかったらケンジさん??」



「うーん、違うなぁ。」



「まさかテツジさん?!」



「まさかって何で??違う違う。」



「じゃぁ…ユウスケさん…??」



「ピンポーンって言いたいとこだけど、彼は違うよ。

 最近仲良くなってメールとかもしてんだけどね。相手にされないよ。」



最近仲良くなってメール…なんだか嫉妬してしまう。

相手にされないってことはユウスケにも彼女がいるんだろうか…。

余計な不安ごとが増えてしまった。



「えー?!他っていったらまさかリーダーの萩さん??」



「マキちゃん、怒るよー。仲良くないの知ってるでしょ。」



そう。ホールのシフトリーダーでかれこれ4年以上働いている大学院生の萩岡という男がいる。

仕事に厳しく店長よりも恐い。

私もアキコもよく注意され叱られている。

そんな萩岡も一応男だしバイト仲間だ。



「え?!他は…もうバイトでそれっぽい人いなくないです??」



「いるじゃーんもう一人いつも飲み行くヤツ。」



「・・・・・?!まさか?!」



「そうだってーもうマキちゃん鈍感すぎー。」



「えっっ?!まさか福さんですか??」



「そうだよー。よりによって最後まで出てこんとはさすがマキちゃんツワモノ。」



「福さんなんですか?!」



「マキちゃん驚き過ぎ。もうホント内緒だよ。」



「内緒もなんも、言えませんよ。社員さんじゃないですか?!」



「一応ね。社員っていっても契約社員だよ。しかももうすぐ辞めるとかって言ってるし。」



「マジですか?!キッチンのナイトどうすんですか??」



「さーねー。うちらバイトには関係ないっしょ。」



「いつからなんですか?全然気付きませんでした…。」



「そんな長くないかな。みんないつも一緒にいるのに誰も気付いてないんよ。おかしくない?」



「いやー気付きませんよ。全然そんな素振りないですし。すごいですね。」



「マキちゃんも早く彼氏できるといいね。

 ジュンでも紹介したげよっか??」



「いや…そこは遠慮させていただきます…。」



「あははーマキちゃんおもしろー。」



「何か今日はほんとビックリしました。ちゃんと黙っときますから。」



「ほんと約束ねー。マキちゃんしか知らないんだからー今んとこ。」



「ほんと、分かりました。」



「じゃぁ今日はマキちゃんもみんなと話して帰ろっか?」



「あ…じゃぁ…お願いします。」



ほんの10分程度のやりとりだったが何だかどっと疲れてしまった。

アキコがユウスケとメールをする仲だということにまず嫉妬。

そしてただ家に送って帰ってもらうだけのアシ的存在だったジュン。

さらに何よりあの寡黙な感じの福田という社員と付き合っているらしい。


一体いつ?どこで?どうやって?

そんな疑問がうずまいた。

やっぱりアキコはすごいと思った。


そしてその日から私もナイトタイムの輪の一員となった。

もちろんユウスケもいた。

またこれで彼との距離が縮まったと思い嬉しかった。

でもユウスケに彼女がいるのか、まだ聞けずにいた。

話の流れで誰か聞かないかなと期待した。


少しずつではあるけれど、ユウスケに近づけることに私は喜びを感じていた。

いつかメルアドを聞いて、私も彼とメールができるようになるぞと小さな目標を立てた。

そんな毎日が楽しくなっていった。


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