表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19才  作者: mame
23/27

新鮮な感覚

部屋に戻ってきたものの、相変わらず動揺した気持ちは消えなかった。

とりあえず晩ご飯だ。

結局鶏肉を使って照り焼きを作ることにした。

彼は唐揚げと言っていたが、揚げ物用の油も鍋もない。

他にはほうれん草のソテーとポテトサラダを作る予定だ。


ユウスケは特に変わった様子も見せず、座椅子に座ってマンガを読み始めている。

何だかこの感じに違和感を感じた。

初めて彼の部屋に来たのにあまりにも普通過ぎる。

彼は一体今どんな気分なんだろうか。

あれこれ考えながら、とりあえず私は米をといで炊飯器にセットした。



「なぁマキ。何作るん??」



「唐揚げは出来んよ。揚げ油も鍋もないし。」



「そっか。そうやな。よー考えたらそうやわ。」



「だから照り焼きにするね。」



「おー。照り焼きとか久々やし。他は??」



「ポテトサラダとほうれん草炒めたヤツ。あと味噌汁。」



「そんなメニューあるん?!すごいな。」



「すぐ出来るよ。レンジフル活用。」



「オレここにおってもええの??」



「いいよ。スペースちっちゃいし。何かしてて。」



「何か楽しみなってきたわぁ。」



「あんま期待せんとってね。プレッシャー。」



「作ってくれることに意義があるんやて。何でも嬉しいわ。」



「ほんと?じゃあちょっと待ってて。」



小さな部屋に小さなキッチン。

二人で過ごすには少し狭い間取りだ。

しかしこうやって二人きりの時間を過ごせることが嬉しい。

そして何よりいつもと変わらない自然体のユウスケが私を安心させてくれた。

時間が経つうち、緊張していた私の気持ちも少しずつほぐれてきていた。


使い慣れないキッチンだったが、私なりに頑張ってみた。

時計はもうすぐ6時半を迎えようしている。

あとは肉を焼くだけだ。

換気扇を回して、フライパンを揺すった。



「なんかめっちゃええ匂いすんねんけど。」



ユウスケがのぞきにきた。

自分の顔のすぐ側に彼の顔がある。

ドキドキした。

一気に緊張してきた。



「もうできるから。」



「どうやって作ってんの??」



「砂糖としょうゆとみりんと…まぁ適当に…。」



「すごいな。腹減ってきたわ。」



「ごはんついでくれる??炊けてるから。」



「おー。しゃもじは??」



「え?!ないの??」



「いや…確かこの辺にしまった…あ、あったわ。」



「なーんだ。お米あるのにしゃもじないって何かビックリした。」



「一応一通りのもんは揃えてんねん。マキに聞いても分からんよな。そりゃ。」



「また見とくよ。ないものあったら100均で買えばいいし。」



「すんませんなぁ。料理とか数えるくらいしかしてないんやわ。」



「でもこれだけ揃ってるだけでも十分だと思う。」



「ほんまに?形だけでもそれなりにしといてよかったわ。」



「はーい。できたよ。食べよ。」



「やった。食おうで。」



できた料理を部屋の机に並べた。

小さな机の上は二人分のお皿で埋まった。

緊張しながらも何とか失敗だけは避けられた。

彼の嫌いなものはおそらくないだろうと思う。



「嫌いなの聞いてなかったから適当だよ。」



「オレ?オレ基本野菜あんま食わんねん。でもポテサラは好きやで。」



「野菜って幅広いね。他には??」



「生の魚?刺身か。あんま食べんと育ったわ。」



「うーん…まぁ追々勉強します…。」



「食ってもええ??」



「どーぞ。」



「ならいただきまーす。」



「私も食べよっと。」



「・・・・・うーん。旨い!!旨いでこれ。」



「ほんと??よかった…。」



「ほうれん草これバターで炒めてんの?」



「うん。マーガリンだけどね。」



「旨いわ。ほうれん草もあんま食わんのやけどいけるわ。」



「肉マジ旨いわ。ほんまに。」



「そんなに言ってもらえたら作った甲斐があるなぁ。」



「ポテサラも旨い旨い。外で食うより全然ええかもな。」



「確かに値段的には外食の一人分かかってないくらいかも。」



「ほんまに?!また作ってや。」



「うん。いいよ。今度はそれなりに考えてくるから。」



「こんなん初めてやけど、なかなかええな。」



「まともに人に作ったの初めて。緊張したし。」



「何で緊張すんの?オレ何でも食うで。」



「そうじゃなくて。色々初めてのことだから。」



「そうか。オレとおって緊張する??」



「ううん。こうしてると何ともない。」



「じゃあいつ緊張すんの??」



「ごはん何作るか考える時とか…部屋に入る時とか…。」



「オレはマキとおって楽しいで。色々気にせんでもええからな。」



「うん。ありがと。」



「そのまんまでええから。肩に力入ると疲れるで。」



「うん。大丈夫。いつも通りね。」



「何でも言うてや。付き合ってんやから。」



「そだね。そうするね。」



その時、部屋のベルが鳴った。

この時間だから宅配便だろうか。

ユウスケは口をモゴモゴさせながら玄関へ出た。



「マキ、そこ閉めて。」



「なんで?!誰か来たん??」



「ツレやツレ。3人顔見えるわ。とりあえず閉めて。」



「分かった。」



ドアと言っても部屋とキッチンを仕切る簡単なドアだ。

とにかく言われるままに閉めた。



「なに来てんねん。」



「めっちゃええ匂いやぁ。何食わしてもろてんの??」



「飯作ってもろたんやて。何で来んねん。」



「ちょっと挨拶だけでもなぁ。こんばんはー!!」



「やめろって。また今度連れてくし。邪魔や邪魔。」



「えーなー。な?今日………。」



何やら話しているようだったが詳しいことまでは聞こえなかった。

おそらく言っていた地元の友達だろう。

彼は今日私がここに来ることを話していたんだろうか。

聞き耳を立てるのも何だか嫌だ。

テレビの音量を少しだけ上げてみた。


それから2、3分経ったくらいだろうか。

玄関のドアを閉める音がした。

すぐにユウスケが戻ってきた。



「なんでアイツら来たんやろ。」



「何か言ってたんじゃないん??今日のこと。」



「何も言うてないわ。今日は用事あるからって遊ぶん断っただけやで。」



「今までそんなことあった??」



「・・・バイトん時くらいかも。」



「だから何かピンときたんじゃない??」



「やろか?マキのこと話したん先週や。アイツら…。」



「みんな仲いいんだね。挨拶だけでもすればよかったかな。」



「いいって。また今度ちゃんと紹介するから。気にせんとって。」



「そ??でも何か恥ずかしい。」



「恥ずかしいんはオレの方やわ。まぁまた近いうちにな。」



「ね?何か聞こえない??」



「お??・・・外や外。ちょっと待って。」



ユウスケはベッドに上がってカーテンを開けた。

すると下の方を見回してすぐに閉めた。



「何でもないわ。何もない。」



「ほんと??何か人の声聞こえたような…。」



「ったく…アイツら…。」



見るとユウスケの携帯が震えていた。

マナーモードになっていてしばらく気付かなかったようだ。



「携帯、鳴ってるよ。」



「ほんまや。いつから鳴らしてんねん。ちょっとええ?」



「うん。いいよ。」



「もしもし?!はよ帰れや。いつまでおんねん。」



「・・・・・メシ食ってんねん。お前らもどっか行けや。」



「・・・・・今日やなくてもええやろ。迷惑かかるから。」



「・・・・・窓??何で覗かなあかんねん。嫌や。」



「・・・・・また次ん時連れてくって。ええやろ??」



「・・・・・チャリやチャリ。車も乗ってる。…そうや。」



「・・・・・マキ。勝手に呼ぶなよ。」



と彼が言って間もなくだった。

窓の外から男の人が叫ぶ声が聞こえてきた。



「・・・ちゃーん。……ねー!!」



「何?!何か言ってるよ。外見ようか?」



「もう。下にアイツらおんねん。帰らんと覗くん待ってんねんか。」



「じゃあちょっとあたし…失礼します。」



「おい?!マキ??ええって。ちょっと。」



私はベッドに上ってカーテンを開けた。

そのままベランダに出て下を見た。

すると確かに3人、男の人がこっちを見ている。



「おぉー!!本人や!!こんばんはー初めまして!!」



「初めましてー。上からすいませーん。」



「そこの住人のツレやから。怪しいもんやないからねー。」



「またちゃんと挨拶しますんでー。」



「今度はオレらにもご飯作ってね。」



「はーい。」



「マキ、何言うてんねん?!」



「じゃぁ隠れてる人によろしくー。」



「はーい。また今度。」



「じゃあねー。おやすみマキちゃん!!バイバーイ!!」



暗くてよく見えなかったが確かに3人見えた。

一人は茶髪の今風な感じの人だった。

他の二人は比較的ユウスケと似たような背格好で同じような格好だ。

あまり大学生と関わる機会もない私にとっては新鮮な出会いだ。



「手振って帰ってったよ。顔はハッキリ見えんかったけど。」



「アイツら適当なことばっか言いやがって…。」



「いい人そうだったよ。」



「まぁな。昔っからつるんでるからな。」



「みんな同じ学部??」



「ちゃうで。同じなんは一人だけや。他二人は別。」



「そうなんだ。でも仲いい人が近くにいると心強いね。」



「確かにな。こっち来てから余計つるむようになったかも。」



「あの茶髪の人明るいね。めっちゃ飛び跳ねて帰ってったよ。」



「あー。一番チャラチャラしてんねん。悪いヤツやないねんけどな。」



「とりあえず挨拶もしたことだし。よかったよかった。」



「マキ、大胆やな。一瞬下りてくかと思ったわ。」



「そうしようかと思ったけどやめた。また今度ってさっき言ったし。」



「まぁとりあえず。アイツらも帰ったことやし。」



「ごはん中断しちゃったね。食べよ食べよ。」



「デザートあるで。さっきプリン買ってん。」



「ほんと?!やったー!!」



私にとってはすべての出来事が新鮮だ。

彼との時間も、会話も、見るもの聞くものすべてが刺激的だった。

彼と二人きりで過ごす夜、その時私は驚くほど落ち着いていた。

隣にいる彼の空気を感じながら、ただ温かい気持ちだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ