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19才  作者: mame
22/27

彼の部屋

5日ぶりにユウスケと会った。

彼は言っていた通り、昼過ぎに戻ってきた。

晩ごはんを食べようということになっていたので、夕方待ち合わせをした。

待ち合わせと言っても集合場所は彼の家の前だ。

私は店に車を停め、いつも学校に行く時と同じように自転車に乗り換えて彼の家へ向かった。



「おー。迷わずこれたな。」



「だって近いじゃん。しかも前に通ったし。」



「裏道早いやろ?とりあえずここ置いたらええで。」



ユウスケはアパートの入口に出てきて待っていた。

いつもと変わらないラフな格好だった。

細身の身体を少し前かがみにしてポケットに手を突っ込んでいる。

遠くから見ても分かる彼の特徴の一つだ。



「久々やな。元気しとった??」



「うん。てか1週間も経ってないし。」



「いや。なんか長かったわ。それなりに色々やってたんやけどな。」



「楽しかった??」



「おー。久々に顔見たヤツもおったしな。楽しかったで。」



「そっか。それはよかった。」



「部屋ちょっと片付けたけど狭いで。」



「いいよ。気にしなくて。」



「4階の4番目。ええ数字やろ。」



「うーん…。まぁ覚えやすいかな。」



「しーは幸せのしーやで。ええ数字や。」



「そっか。そうゆう意味か。」



「なんや?縁起悪いこと考えとったんちゃうやろな。」



「いやいや。まぁ…ね。前向きなんだね。」



「何でもいいように考えた方がおもろいやろ??」



「そうだね。私も見習おっと。」



「はい、どーぞ。狭い部屋やけど。」



そう言ってユウスケは部屋のドアを開けて私を中に入れてくれた。

1Kの小さな部屋だった。

入ってすぐに小さなキッチン。

背中合わせにバスルーム、隣にトイレがある。

冷蔵庫の隣に洗濯機が置いてあった。

配置からして、ここしか置く場所がないんだろうと思った。


部屋は8畳。

小さなベランダもついているが、窓にはぴったりとベッドが横付けされていた。

どうやらベランダに出るにはこのベッドをまたがないといけないらしい。

小さな机に座椅子、テレビにノートパソコン、棚がある。

クローゼットは1つ。収納場所には少し狭い印象だ。


確かに少し片付けた雰囲気がしたが、思った以上に散らかっていた。

まずゴミだ。

ゴミ箱に捨てているゴミは既に満タンになっているし、玄関にもコンビニ袋が放置してある。

洗濯機の中には洗濯物が投げ込まれていた。

部屋の隅には大学の教材や資料等が積み上げられたままになっている。

棚にはバラバラに並んだマンガ本。

それから何より、ベッド下の衣装ケースだ。

とりあえず詰め込んだ下着や服がぐちゃぐちゃになって丸まって入っていた。

半透明のBOXからはその様子がよく見えていた。


彼はいつもしっかりとしたイメージがあった。

しかし部屋を見てその印象は一気にくつがえされた。

それでも彼なりに精一杯帰ってきてから私を招く準備をしてくれていたんだろう。

私にとってはかなり意外な展開だった。



「ちゃんとしてるイメージだったけどそうじゃないっぽいね。」



「オレいつ自分ちゃんとしてるってゆうたっけ??」



「だから、イメージだって。」



「そんな風に見えてたんか。また意外やわ。」



「意外なのはお互い様でしょ。」



「ま、座ってや。」



「とりあえず片付けよっか??」



「ほんまに?!結構キレイにしたんやけどなぁ。」



「ゴミだけでもまとめとこうよ。それから洗濯。」



「オレめんどくさいこと苦手やねんか。ゴミとかほんますぐ溜まるし。」



「じゃぁあたしやるよ。すぐ終わるから。」



「オレ何したらええん??」



「座ってたらいいよ。自分の家なんだし。」



「何か悪いな。」



「いいよ。キレイな方がいいでしょ。」



私はとりあえずゴミをまとめた。

それから散らばっていた本などをまとめて部屋の隅に置いた。

最後に机の上を簡単に片付けて一段落付いた。

本当ならもっとあれこれ手を出したいところだった。

しかし初めて彼の部屋に来ていきなり色々口出ししてもよくないと思い我慢した。


彼は想像以上にずぼらなようだ。

その意外さの余韻がまだ残っている。

男の人はだいたいこんなものなんだろうか。

そんなことを考えながらとりあえず彼の横に座った。



「悪いな。色々やってもろて。」



「全然。たいしたことしてないでしょ。」



「晩飯、どうする??食べ行くか?」



「そうしよっか。どっか近く行く?」



「それか…何か作ってくれへん??」



「えっっ?!作るの?!」



「いや。ダルかったらええんやけど。」



「材料ないよね??」



「目の前店あるやん。買いに行こ。」



「何が食べたいの??」



「いやなぁ…実家で和食ばっかやったからな。それ以外で。」



「うーん…とにかく買い物行かないと。」



「お供します。調味料系は意外とあるから安心して。」



「あ、ほんとだ。料理しないのに??」



「たまーに気が向いたらするねん。形だけ完璧。」



「なーに作ろっかな…。」



ユウスケがいきなり何か作ってくれと言い出したことで私は動揺した。

前もって分かっていればそれなりにレシピを考えてきたものの、急なことで何も思い浮かばない。

とりあえず彼のアパートから道を挟んですぐのスーパーに行くことにした。



「オレここ来るんいつぶりやろ。」



「総菜とか買いに来たりせんの??」



「めんどくさいやん。コンビニで済ますわ。」



「どっちも同じようなもんでしょ…。」



「鶏肉食べたいわ。肉や肉。」



「鶏肉かぁ…じゃぁもも肉1枚買お。それから…。」



「なぁマキって家でも作ってんやろ??嫌やないんか?」



「嫌ってか慣れてるから。小さい頃から作るの好きだったし。」



「好きなんならええか。オレとかバイトやからそれなりにするだけやし。」



「男の人ってたいがいみんなそんな感じじゃないの??」



「まぁな。でも知ってるヤツとかほぼ自炊してるで。」



「そうなんだ。色々なんね。何か他食べたいものある??」



「肉…肉…唐揚げ??」



「肉以外で。」



「他思いつかんわぁ。マキ適当にしてや。」



「分かった。じゃぁ他何か買うものあったら買っといてね。」



「飲みもんないわ。行ってくる。」



私たちは普通に買い物をし、普通にスーパーの袋を下げて歩いて帰った。

もっとドキドキするのかと思った。

あまりにも自然な流れで緊張する隙間もなかった。

もっとはしゃげばいいんだろうか…。

やっていることは新婚夫婦と同じようなものだ。

それなのに、驚くほど彼も私もいつもと変わらなかった。


何を作ろうか…。

そういえば彼の好き嫌いはまだあまり知らない。

作ったものが口に合わなかったらどうしよう…。

ここで急に色々な不安が私の中を駆けめぐり始めた。

今日は結局このまま彼の家で過ごすことになるんだろうか…。

一度にいろんなことが頭の中をよぎった。


隣には相変わらずポケットに片手を突っ込んだまま歩いている彼がいる。

何だか急に緊張してきたかもしれない。

一人で動揺していた。

何でユウスケはいつでも変わらないんだろう。

そんなことをあれこれ考えながら、私たちは再び彼の部屋へ戻った。


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