告白…始まり
帰りは比較的すんなりと戻ってこれた。
途中コンビニやどこのファミレスも人でごったがえしていた。
大丈夫かなと思いながら、彼の家の近くまで来た。
「ファミレスって今日あたりが一番稼ぎ時なんやろな。」
ユウスケが口を開いた。
「でもうちの店2時閉店でよかったかも。」
「ほんまやで。24時間やったら今頃さんざんな目におうとるわ。」
「席、空いてますかね…??」
「まぁとりあえず入ってみよや。」
ファミレスの駐車場はほぼ満車だった。
ユウスケは足早に店へ入り空いている席を店員に聞いていた。
運良く喫煙席のボックス席が1つ空いており、私たちはそこに座った。
「ラッキーやったな。端っこやし。壁側座りや。」
「あ、じゃあ。すいません。」
「喫煙でよかった??煙たかったらアッチもあるけど。」
「いいですいいです。どうぞ遠慮なく吸ってください。」
「ほんま。とりあえず適当につまむもん頼むか。」
「何かゴハン的なものでもいいですけど。」
「なんかめっちゃ腹減ってんねん。ならガッツリいくわ。」
「じゃぁあたしエビドリアにしよっと。」
「ほんなら…オレはチーズハンバーグのセットにしたろ。他は?」
「ドリンクバーあればいいです。」
「じゃぁ…このポテトとソーセージの盛り合わせ1コ頼も。」
「ピンポン押しましょうか??」
「おー。もうええで。」
お腹がすいていたのは私も同じだった。
緊張からかずっと肩に力が入りっぱなしで運転後も背中が少し痛かった。
「行き帰り運転悪かったな。疲れたやろ??」
「いえいえ…でも何か色々驚いたな…。」
「明日…てか今日ディナー入ってんやろ?大丈夫なん?」
「帰って寝るだけなんで。夕方まで寝ますよ。」
「オレ明日ランチからやで。相当やられそうや。」
「お正月は1組の人数が多いですもんね…。」
「ま、そん時になってから考えよ。」
私たちの会話はいつも店で交わしているものと何ら変わりなかった。
二人きりで居る感覚はあまりないような気がしていた。
無事に行って帰って来られたことに安心したのか、私自身少しずつ欲が沸いてきていた。
「あの…今日は…ありがとうございました。」
「なんや?急に。どしたん?」
「いや…自分から誘っといてあんまり段取りとかもよくなくて。」
「そんなん気にせんでええから。楽しかったで。」
「ほんとですか…??」
「おー。会話がたまに成り立たんのもおもろいし。」
「え??」
「ま、ええやんか。きたで、自分のドリア。」
タイミング良く注文した料理がきたのでそこで話は中断した。
食事中は彼が比較的色々と話をしてくれた。
大学のことや友達との話、地元のことなど様々だった。
おそらく私に気を遣ってくれていたんだろうと思った。
そんな風に彼に気を遣わせてしまっている自分がまたもどかしかった。
食べ終わってお皿を下げてもらうと、彼はタバコを吸い始めた。
テーブルの上にはポテトとソーセージの盛り合わせだけが少し残っていた。
「腹イッパイなったわ。これ食うてや。」
「え?あたしも満腹なんで…。」
「自分あんま食わんよな。」
「いや、ユウスケさんこそ細身なのに結構食べますよね。」
「オレ太らんねん。運動してなかったらガリガリやで多分。」
「太る悩みとかは無縁ですね。」
「ないな。筋肉つけることかな、今の目標は。」
「いいですね。スポーツは。」
「また今度どっか行くか。」
「え??」
「いや、今日運転してもろたし。次も頼むけど。」
「ほんとに??」
「何でそんなビックリしてんねん。」
「いや、まさかそんな風に思ってくれてたなんて…。」
「自分普段も変わらんとおもろいんやな。つくづく思ったわ。」
「いや…そんなことは…自分じゃ…全然…あぁ…。」
「何モゴモゴゆうてんの??」
「とにかくよかったです。ほんと。」
「いや…実はな、オッサンが最近よう自分の話振ってくんねん。」
「え??オッサン…??萩岡さん??」
「そうや。何かよう自分のことオレに話してくんねんけど。」
「任せときってゆってたのコレか…。」
「何やて?誰が任せるって?」
「いえいえ…萩岡さんてすんごいするどいんですよ。」
「いきなりなんなん?何か言われたんか?」
「人の考えてることとか分かるらしいです。」
「ほんで??」
「こないだワシに任せときって言ってた…。」
「ん??………。」
「何かあからさまだったらごめんなさい。」
「いや…それはないけど。」
「私が頼んでとかそんなんじゃないんで…。」
「分かってるって。オッサンの気遣いやろな。」
「いや…てか…何て言ったらいいか…。」
「・・・・・・・・・。」
私の中で話がこんな方向に展開するとは思ってもいなかった。
どうしたらいいか、何と彼に言っていいか、分からなくなった。
私たちの沈黙はどれくらい続いたんだろうか。
動揺を隠しきれなかった私はこの時間がものすごく長く感じられて仕方なかった。
実際にはほんの数分だったんだろう。
ユウスケは吸っていたタバコを灰皿に押しつけて火を消した。
「なあ??」
「……え??」
「思ったんやけど。」
「はい…。」
「付き合ったらええんちゃうん。」
「えっ?!」
「オレら。もうちょっと先でもええかなとは思ってたんやけど。」
「え?!」
「だから、自分の気持ちも分かったことやし、オレも同じやから。」
「いや、でも…ちゃんと…言ってないし…。」
「オッサンはオレに自分のことを意識さそうとしてたんやろ。」
「だと…思います。」
「でもそんなんされんでもオレちゃんと考えとったで。」
「あの…いつから…??」
「そうやな…ハッキリとは言えんけど、イカ焼きの時かな。」
「イカ焼き?!恥ずかしい…。」
「最初っからおもろい子やなって思ってた。まぁそれだけやないけど。」
「私…分かりやすかったですか…??」
「いや…それはない。オレ積極的やないし、自分からいうたりせんし。」
「あの…私も…好き…でした。」
「でしたってどういうことやねん。」
「あ、そうじゃなくて…今までもこれからも…私、私で大丈夫でしょうか?」
「大丈夫やなかったら付き合いたいて思わんわ。」
「あ、そうですか。それはよかったです。」
「もうそろそろですです言わんでもええで。年1コしか違わんのやし。」
「じゃあ…ちょっとずつ。普通にしてきます。」
「ほら、またや。ま、ええけどな。」
「あの…よろしくお願いします。ふつつか者ですが。」
「こちらこそ。何か一気に進んでもーたな。」
「何か実感が…。」
「これからな。とりあえず帰ろか。」
彼は伝票を持ってレジへ立った。
結局全額支払ってくれた。
半ば放心状態の私は彼の後ろをついて駐車場へ下りた。
ドキドキというより、ただ驚いていた。
「運転できるんか??」
「大丈夫です。眠くないし。」
「気付けて帰りや。いきなり事故とかありえんで。」
「はい、了解です。」
「オレんちの前までよろしく。」
「え??」
「道ゆうから。うちまた来たらええやん。」
「そ、そうだね。また。」
「コンビニの手前左折してすぐ右折な。」
「すぐ右折…ここ??」
「そうそう。狭いけど。そこ、オレんち。」
「ここ??コンビニ近!!すぐ裏…。」
「ここの4階やねん。駐車場取ってないんやけどな。」
「へー店も近いし。キレイな感じ。」
「ほなな。ほんま気付けや。帰ったら連絡してな。」
「あ、はい。分かった。」
「しどろもどろやな。ほなおやすみ。」
そう言ってユウスケは車を降りた。
私の車が曲がるまで見届けてくれていた。
放心状態のまま、何とか無事に家に帰った。
時間は7時を回ろうとしていた。
家族はもう起きていた。
朝帰りの私に何か言うかと思えばおかえり、の一言だった。
「今日バイトでしょ。寝なさいよ。」
「うーん。でも何か眠たくない…。」
「お風呂入って何か食べたら眠たくなるわ。」
「稲荷、人すごかったよ。」
「そりゃそうでしょ。毎年ニュースでしてるもん。」
「あんなんだとは思わんかった。」
「とにかく、夜からまた出るんだから、ちょっとでも寝ときよ。」
「はーい。」
母は私に何も聞かなかった。
こんな時間までどこで誰と何をしていたのか、気になっていないはずがない。
父の方もよっ、朝帰り。と言わんばかりに何も聞いてこない。
夢か現実か分からないような感覚のまま、とりあえず顔を洗った。
ユウスケにメールだ。
帰ったら連絡…と言われていた。
こんな感覚もいまだ信じられない。
帰ったよ。
みんな起きてた。
ちょっと寝るね〜
またメールするよ。
5分と経たないうちに返信が来た。
おかえり
色々あったけど楽しかった
それから嬉しかったよ
ひねくれもんやけど、よろしく
おやすみ
嬉しかった…ユウスケが私と同じ気持ちでいる…
信じられない気持ちと飛び上がりそうなくらい嬉しい気持ちでいっぱいだった。
彼にもらったココアの缶はもう冷たくなっていたが、大切に持っておこうと思った。
1月1日、私たちの記念日だ。
それまではもっとそれらしい始まりが理想だった。
しかし、今となってはそんなことはとうでもよかった。
彼と気持ちが通じ合えたことに幸せを感じた。
これから先、二人の時間が始まる。
ドキドキした。
19歳、初めての恋愛が始まった。