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19才  作者: mame
17/27

交わした約束

あの誕生日の夜以来、私たちはお互いを意識してか、あまり会話をしていない。

それどころか、いつも一緒になっていた休憩すらすれ違っていた。


私の決心は変わっていない。

今すぐにというほどではなかったが、それでもそろそろ誘うくらいはしないと…。

店で顔を合わせていても、結局それではただのバイト仲間に変わりないだろう。

彼がどんな部屋に住み、どんな生活をしているかなんて私は知らない。


いくら好きだと思っても、思うだけなら誰でも出来る。

今の私は、ただここでずっと足踏みをしているのと同じだ。

そんな自分が最近はもどかしくなっていた。


私はどうしたいんだろう。

自分に問いかけた。

ただユウスケの側にいたい…それだけなのか。

いつまで経っても変わらない状況だ。


そんなことを考えながら毎日を過ごしていた。

年末ということもあり、バイトの何人かは実家に帰省するらしい。

空いたシフトを埋めるのに、店長は頭を悩ませていた。



「マキちゃん、年末年始入れるよね?」



「はい、私は大丈夫ですけど。」



「みんな実家帰っちゃうからね…ダメとも言えないでしょ。」



「でも一番忙しい時期なんじゃないですか??」



「だからさ、マキちゃんランチからお願いできないかな?」



「ランチですか?!人いないんですか?」



「ランチマダムのみなさんは家の用事で忙しくなるでしょ…??」



「夜はどうするんですか?」



「まぁ何とかするよ。僕入るし。じゃあ12時−21時で3日間ね。」



「分かりました。」



「その代わり、大晦日は休みにしとくから。」



「え?!いいんですか??」



「いやいや、元旦から5連チャンだよ。ディナーナイトでよろしく。」



「はい、了解です。」




思いもしなかった休みだ。

大晦日に休みをもらえるなんて予想外だった。

さて、どうしようか…。

予定を入れなければせっかくの休みが無駄になる。


ユウスケは年末年始、実家に帰ってしまうんだろうか。

彼の実家は姫路だ。

そう遠くはないと言っても、やっぱりお正月くらいは実家に帰るんじゃないか。

大晦日、彼と一緒に過ごせないだろうか…。



3日後、久々にユウスケと休憩が一緒になった。

カレーをほおばりながら、携帯をいじっていた。



「もう今年も終わるな。早いわ。」



先に話し始めたのはユウスケだった。



「なぁ??こないだ暑い暑いゆうてた気がせえへん?」



「そんなような気もする…。」



「自分ランチから長い線引かれとったで。シフト見た??」



「あ、引かれる前に店長から言われたから…。」



「なんでオバハンまで休み取るんやろか。」



「家の用事とか何とかって。」



「そんな年末って忙しいんかな??」



「うーん…。おせちとか?大掃除とか?よく分かんない。」



「よー分からんわ。マジで。」



「そういえば、実家には帰らないんですか??」



「オレ?帰るけど。ゆうても10日過ぎてからかな。」



「年末年始は帰らず??」



「まぁそうやな。今年は友達がこっち来んねん。」



「そうなんですか。」



「友達いうても仲いい奴は一緒に大学来たし、まあ同窓会みたいなんかな。」



「へえ〜いいですね。」



「自分は実家近いいうても友達と集まったりせえへんの??」



「一応まだ未成年なんでたいがいランチで終わりますから。」



「そっか。じゃあ夜バイトでも問題ないんか。」



「まぁそんな感じです。」



「大晦日なんでこんな微妙なんやろか??」



「何がですか?」



「オレ10時で終わりやねん。チーフ気遣ってくれたんやろうけど…。」



「確かに微妙な時間…。」



「こんなんなら店で年越した方がまだマシやわ。2時間待つんもアホらしいし。」



「予定ないんですか??友達とかは?」



「まだ聞いてないわ。オレ多分バイトやっていうてもーたしな。」



「まあまだ半月ほどあるし。」



「やな。まあボチボチ考えるわ。」




そんな会話をかれこれ10分ほど交わした。

その場で誘ってみようかと思ったが勇気が出なかった。

きっと彼は大晦日、私が休みになっていることに気付いているはすだ。

そのことに何も触れなかったから余計に言い出しにくかった。


何の予定も入っていないと言っていたなら今がチャンスだ。

やっぱり誘ってみよう。

そうしないと何だか後悔するような気がする。

ここまできたらなるようになる、そう言い聞かせた。


次の日、バイトが休みだった私は彼にメールを打つことにした。

思い切って大晦日、どこかに行こうと誘うつもりだった。

学校からの帰り、どんな内容で送ろうかと考えた。

かれこれ30分以上は経っていたかもしれない。

なかなか思うように手が動かなかった。



♪♪♪〜♪♪♪♪♪〜♪〜



その時1件のメールを受信した。



  さっき駅前歩いとったやろ??



ユウスケだった。

どうやら見られていたらしい。



  全然気付きませんでした(T_T)



  Re:

  やろな。携帯見よったからな。

  今日は休みやろ??



  ちょうど帰ってるとこです。

  しかもちょうどメール打ってました〜



  Re:

  ん?オレに?

  何かあったん??



  こないだ年末の話して思ったんですけど。

  もしよかったらバイト終わってからどっか行きませんか?



  Re:

  自分他に予定ないん??

  オレは構わんけど。



  私もまさか休みだなんて思ってなかったから。 

  予定なんて考えてなかったんですよ(^_^;)



  Re:

  ええよ。どこ行く??



  せっかくだから初詣に行きませんか??



  Re:

  おーええで。

  オレバイト終わってからやから、11時くらいになるけど。



  いいですよ。

  私の車で行きましょ〜



  Re:

  何か悪いな。

  ほなまた決めよや。



  了解でーす☆



  Re:  

  今日は9時ラストやねん。

  メシ食ってちょっとゆっくりするわ。

  自分ものんびりしーや。ほな。




すんなり決まってしまった。

こんなんでよかったんだろうか。

あれほど考えていたのに、何だか時間の無駄だったかもしれない。

それくらい彼はあっさりとOKしてくれた。


いざそうなってみると、何だか現実味がなく、実感がなかった。

彼と二人で出掛けるのは当然初めてだ。

いつもは店で顔を合わせて、たまにメールをするくらいだ。

バイト以外で二人きりになることがまだ想像できない。


でもいつか、一緒にどこかに出掛けられるようになりたいと思っていた。

その願いが叶った今、宙に浮いているような気さえして、しばらく何も考えられなかった。

本当に嬉しい。それだけだ。

何を着ていこうか、どんな話をしようか、考えることはたくさんあった。

今日から大晦日までの2週間は、落ち着かないだろう。



彼と交わした初めての約束、これが私たちの始まりになった。



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