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19才  作者: mame
16/27

決意の誕生日

私はいつもと変わらず働いていた。

時間は刻々と過ぎていく。

もうすぐ19歳になるんだと思うとやっぱりドキドキした。

誕生日は誰にとっても特別な日だ。

記念すべきその日を、こうやってバイト先で迎えるなんて去年の自分からは全く想像できなかった。


なんだかそわそわする…。

ユウスケがこのことを知っているわけでもないのに、なぜか変に緊張感すら覚えていた。

1回目の休憩を終え、時間は21時を回った。

あと3時間…。

私は自分の中でカウントダウンをすることにした。


今日はいつもよりお客さんの入りが悪い。

ピークタイムもバタバタすることなく、このままいくときっちり1時半にオーダーストップができそうだ。

ユウスケを見ると、もう次の日のスタンバイをしていた。

きっと0時のアップで速攻帰るつもりなんだろう。

ユウスケは一足先にハタチの誕生日を迎えている。

彼の中でハタチという年齢に何か変化を感じることはあったんだろうか。


そんなことを考えながら、私は頻繁に時計を気にしていた。

何か自分でお祝いでもしようか。

ごほうびに何か買おうか。

色んな事を考えながら気を紛らわしていた。


23時50分…。

忙しさはなく、落ち着いていた。

オーダーもなく、静かに時間が過ぎていた。



「いらっしゃいませ。こんばんは。」



見ると萩岡が1組のお客を喫煙席に案内していた。

ダスターの洗濯をしていた私はホールに戻り、接客をした。



「ご注文がお決まりの頃、またお伺いいたします。」



時間は23時56分を回っていた。

時間を気にしつつも、注文を取るタイミングを伺っていた。

すぐに注文は決まったようで、私は呼ばれた。



「はい、かしこまりました。少しお待ち下さいませ。」



注文はコーヒーとオレンジジュースだった。

キッチンもほとんど閉めの作業を済ませていたことから、ドリンクオーダーにホッとした様子だった。

私はデカンタからコーヒーをつぎ、冷蔵庫からジュースを出してグラスに注いだ。

トレーに乗せ、すぐお客さんに提供した。



「お待たせいたしました。コーヒーとオレンジジュースでございます。」



時間を見る余裕はなかった。



「コーヒーはおかわり自由となっております。ごゆっくりどうぞ。」



裏に入って時計を見ると0時2分を回っていたところだった。

結局カウントダウンはできなかった。

19歳になった。

気分も何も変わらない。

当然のことだが、あまりのあっけなさに少し寂しさを感じた。



「おめでとさん。」



萩岡が声を掛けてきた。



「あれ?マキちゃん誕生日なんかいな?ゆってよ〜。」



ナイトタイムのパパ的存在の宇田も一緒に声を掛けてきた。



「あ、ありがとうございます。オレンジジュース出しながら迎えたっぽいです。」



「何歳になったんだっけ??」



「19です。」



「あれ??まだ10代?!もう1年満喫した方がええよ〜。」



「何でですか?ハタチの方がいいです。」



「そのうち分かるんだって。今が大事大事。ね〜先生。」



「宇田さんその先生ってゆうんやめて下さいよ。ワシの方が6つも年下なんですよ。」



「いや、何か萩岡さんとか萩さんとか呼べなくてね。先生がいいですわ。」



「宇田さんの方がよっぽど人生の先生やのに。恥ずかしいですわ、こっちが。」



「マキちゃん、ハタチになったらもっといいとこ連れてったげるからね〜。」



「ほんと??じゃぁ楽しみにしときますね。」



「今日店閉めた後に何か作ったるわ。何がええ?」



「ほんとですか??夜コンビニなんでお腹減っちゃって。」



「ほなワシ特製のオムライスでも作ったろか?!」



「わーい。初めてじゃないですか!!やったー。」



「特別やで。宇田さんも一緒にどうです??」



「じゃ、先生のご厚意に甘えて…。明日遅番なんで大丈夫です。」



「ほな、さっさと閉めてまお。」




萩岡は私の誕生日を知っていたらしい。

おめでとう第1号が萩岡だったことに少し戸惑ったが、それでもやっぱり嬉しかった。

宇田は日中は消費者金融に勤めており、週に4日ほど22時からバイトに来ていた妻子持ちの同僚だ。

21歳でできちゃった結婚をし、三十路を迎えた今では3人の子持ちだった。

家計を支えるためと言い、深夜のアルバイトをしているという。


私は宇田のことを「パパ」と呼んでいた。

置かれている状況も環境も私とは全く違う世界だった。

そんな宇田は私に何のためらいもなく、平気で金融業界のウラ話や家庭環境のことを話してくれた。

もちろん、私の知らない部分もたくさんあるんだろう。

それでも、私にとってはパパであり、色々なことを教えてくれる人生の先輩だ。


最近では萩岡と宇田、私の3人でナイトタイムを任されることが多くなっていた。

萩岡がレジを閉め、私が水回りの掃除や喫茶スタンバイ、宇田がトイレ・フロアの掃除をするといった分担にしていた。

今日もそれぞれ持ち場を済まし、後はオーダーストップを待つといった状況だった。


キッチンの方はもう締めの作業を終えたようで、全員休憩室に入っていた。

オーダーが入れば教えてくれといった感じで、みんなくつろいでいた。

ユウスケもタイムカードを押し、みんなと一服しながら雑談をしていた。


このまま帰ってしまうんだろうか。

そう思いながらも、仕方ないと自分に言い聞かせ、閉店作業を進めた。


無事に何事もなく、2時には全ての作業を終え、ホールもアップした。

タイムカードを押しに入ると、まだ全員残って雑談をしていた。



「おー来た来た。おめでとー!!」



キッチンのみんなが声をそろえて拍手をしながら迎えてくれた。



「え??あ、ありがとうございます…。」



「おっちゃんから聞いたで。何でいわんの??」



「いや、わざわざ自分で言うのもなんかやらしくないです?」



「もー何か用意しときゃえかったなー。」



「あ、でも萩岡さんがオムライス作ってくれるって。」



「マジで?!オレらにも作ってくれたことないのに?!」



「そうなんですか??」



「おっちゃん、やっぱ男やったんやね。」



「じゃぁみんなの分も…ね、萩岡さん?」



「無理やわ〜せめて3つくらいにして。」



「ほなみんなで作りますか!!」



そう言ってキッチンにみんな入っていった。

私は待っているようにと言われたので、そのまま休憩室に残った。

すると、キッチンのドアが開き、ユウスケが一人で戻ってきた。



「自分、今日落ち着かんかったんやろ??」



「まあ…正直…。しかもオレンジジュース出しながら迎えるって…。」



「ホンマはメールしよかと思ったんやけどな。ま、こんな流れやし。」



「え??」



「いや、やから…おめでとうやって言うてんやろ。」



「ありがとう…ございます。」



「オムライス、また作ったるわ。今日はおっちゃんの力作やな。」



「そうですね。ユウスケさんのも楽しみにしときます。」



「ほな、ちょっと待っときーや。」



「はーい。」



ユウスケはそう言ってまたキッチンへ戻って行った。

ほんの1・2分の出来事だったが、思いもよらない展開に少し信じられなかった。

何だか放心状態だ。

まさか、ユウスケがそんなことを言ってくれるなんて。

とても嬉しかった。



それから20分ほど経ったころだろうか。

ようやくみんなが戻ってきた。

私には特製ということで、半熟玉子に4種類のソースがかかっていた。

いつものデミ・クリームソースにケチャップ・カレーの4種類だ。



「ありがとうございます!!すごーい!!」



「中身は普通ですけど。まぁどうぞ。」



「オレらはみんな好きなようにそれぞれ作ったから。」



「じゃぁ。いただきます。……美味しい!!!」



「そりゃソース全部かけだもんな〜旨そ。」



「ほなみんな食いましょうや。」



「いただきまーす!!!」




一人1皿のオムライスをみんなあっという間に完食した。

時間を見ると、3時が過ぎていた。

少しの間、みんなで雑談して解散した。


19歳の誕生日は、とても思い出深いものになった。

みんなにも感謝、そしてユウスケにも感謝の気持ちでいっぱいだった。

嬉しさの余韻に浸りながら、私は家に帰った。


お風呂に入って部屋に戻ると、1通のメールが来ていた。

帰る前に友達からのメールが何件か来ていたので、何も考えずに開いた。



  誕生日おめでとう

  10代最後の1年、しっかり楽しんでや

  ハタチになったらまた気持ち変わるで

  

  ほな、またあさって。 

  おやすみ〜




……ユウスケだった。

さっき別れたばかりなのに、何だかまたすぐに会いたくなった。

彼と一緒に居たい…そう思った。

19歳、今年は大人になるための1年にしよう。

しっかり楽しんで、恋をしよう。


そして彼に、ユウスケに、想いを伝えよう…。

そう決心した夜だった。



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