自分の本音
気が付けば12月まであと少し。
私も19歳になる。
12月1日は私の誕生日だ。
何か変わるわけではない、でも今年の誕生日は少し違う。
これまで家で過ごしてきた誕生日だったが、初めて外で迎える誕生日だ。
シフトを見ると、閉店まで線が引かれていた。
アキコがいなくなってからは勤務時間が変わり、私もすっかりナイトの人間になっていた。
あれから結局、アキコは店を辞めてしまった。
一度も私たちと顔を合わせることはなかった。
昼の時間帯に店長と話をしに来たらしい。
店長いわく、みんなが心配するような様子ではなかったという。
淡々と、そしてあっさりと辞めていった。
もちろん、私に連絡が来ることもなかった。
ジュン達は大学で顔を合わせているらしいが、特に変わりはないとのことだ。
アキコにとっては、やはりただ腹の立つ出来事だっただけなのかもしれない。
前に話をした時、家庭教師のバイトも掛け持ちしていると聞いた。
おそらく収入に困ることはないんだろう。
アキコが辞めて、私たちの間にも変化はなかった。
仕事の負担が増えるんじゃないかと心配したが、思ったより変化はなかった。
店長もすぐにバイトの募集をかけ、二人ほど採用する予定があると聞いた。
そう思うと、いくら仕事が出来て重要視されている人でも、いなくなってしまえばそれまで。
状況はすぐに変わる。
いなくなったら困るという人なんて、そんなにいないんじゃないかと思った。
自分なりに頑張っていると思っていても、実際の評価はそうでもないのかもしれない。
働くということは、こういうことなんだろうか…アキコの一件でそう感じた。
私は労働時間の調整で、入り時間も遅くなることが多くなった。
ディナータイムのメンバーとも働く時間が少なくなり、少し寂しくなった。
アユミやナオコ達は相変わらず楽しくやっているようだ。
アキコが辞めた後、以前から一緒に働いていたヒロミという同い年の子がナイトタイムに入った。
居酒屋のバイトを掛け持ちしていたため、週に2日程度入るだけだったが、私にとっては嬉しい変化だった。
年が一緒ということ、また大学には行かずに働いていることで、キャンパスライフを知らない同士で親近感があったからだ。
やっぱり私の中で、どこかアキコとはやりづらさを感じていたことに改めて気付いた。
ヒロミと働き出してからは、不思議と作業もスムーズになり、以前のような違和感は全くなかった。
萩岡にとってもそれは同じなようだった。
私たちがいちいち何でも聞くことで、逆に頼りにされていると思ったらしい。
これまであれだけ叱られていたのに、最近はめっきり注意すらしなくなった。
人が一人変わるだけで、こんなにも雰囲気が変わるものなのかと少し驚いた。
裏を返せば、それだけアキコの存在は大きかったんだろう。
どっちにしても、やっぱりアキコはすごいと思った。
ヒロミとは自然と仲良くなった。
近くで一人暮らしをしているということで、帰りを送ったりもした。
しかし、最近彼氏が出来たとのことで、みんなと飲みに行ったりすることはなかった。
相変わらず、私の状況に変化はなかった。
次の週、久々に日曜の休みが入った。
私はアユミ達と久しぶりにゴハンを食べに行くことになった。
「マキ、久々すぎじゃね??」
「だよね。すっかりナイトの人間になっちゃった。」
「でもいいがん。姉さんもういないんだし。」
「それはそれで、結構大変なんよ。」
「うちらもナイト入りたーい。」
「だよね。みんなで入れたらまた楽しいのにな。」
「てか、うちらも飲み行きたいしー。」
「あーでもそんないっつも行ってないよ。」
「でも行きたいし。マキだけ行くなんてー。」
「女一人だよ。行っても肩身狭いだけだよ。2回くらいしか参加してないもん。」
「なんでー?!もったいないしー!!」
「あたしだったら酒の力借りて、そのまま誰かんちお泊まりしちゃうかも。」
「誰かって誰なんかなぁ??」
「そりゃ一人暮らしの大学生のお兄さんに決まってんじゃん。」
「おぉー!!さすがナオコ。やっと本領発揮しだしたね。」
「あたしはチーフに甘えてお金もらう。」
「ミカ、お店違うよー。」
「あー最近あっちばっかだったから何か混ざるわ。」
「あっちって??」
「あ、マキまだ知らなかったっけ??」
「うん。他のバイトも始めたん??」
「そーなんよ。今の店の10倍は稼げるよん。」
「えっ?!何それ??」
「決まってんじゃーん、コンパニオンだよ。年サバ読んでも全然バレてないし。」
「うそ??マジでやってんの??」
「マジだってー。ほんと今の店で働くのバカらしくなるよ。」
「あたしも去年やってたけど、金銭感覚なくなるよね。女の子同士のイザコザめんどいし。」
「でもお金貯めるにはもってこい。」
「だから最近イイ服ばっか着てんだー。」
「へっへー分かった??今度二重にするんだ。」
「え?!整形すんの??」
「だって、アイプチめんどくさいんだもん。」
「ミカ、十分二重あるがん。」
「だーめなの!!これじゃぁダメなん。」
「ナオコは経験済みだもんね。」
「うーん、でも顔じゃないし。」
「え?!ナオコさんどこやってんの??」
「もー黙ってたのに。アユミほんと口軽いんだからさー。」
「みんな、コレうちらだけの秘密ね。」
「分かってますって…。」
「あたしは足だよ。吸引したん。脂肪吸引。」
「マジでー?!」
「うん、めっちゃお金貯めて頑張ったんよ。」
「じゃぁあの長期休暇は…??」
「もちろん整形休暇に決まってんじゃん。」
「でもなかなかあと元に戻んなくてさー困った困った。」
「でも今はこの通り。ね。」
「じゃぁ、イジる予定ないんはアユミとマキだけだ。」
「あたし親からもらったもんに傷付けたくない派なんでー。」
「そーそー。アユミそうゆうトコだけ硬派よね。」
「硬派で悪いかー??ピアスも一生あけないもんね。」
「あたしも…一生整形はしないかな。」
「マキはいいよ。細いし顔もキレイだし。」
「けどコンプレックスはあるよ。」
「だから何とかしてみんな頑張るんじゃん。」
「ミカはもうちょっとでお金貯まるから二重の日も近いよーん。」
「ねーねー、絶対ナイショだよ。約束だよ。」
私たちの会話は普通じゃないと思った。
もちろんいつものようにたわいもない話もたくさんしたが、ミカやナオコの感覚はやっぱり違うと感じた。
長期休暇が終わってなぜナオコは派手になったのか。
おそらく自分に自信がついたんだろう。
だからあんなミニスカートにミュールで自転車をこぎ、平気で出勤してきたんだろう。
ミカは確かに最近変わっていた。
1枚1万以上する服を何枚も買っていたし、同じように化粧品も高いものをそろえていた。
高校生にはとうていありえない格好だった。
私の感覚とはほど遠いものだ。
そんなミカ達と普通に会話をしている私もそれなりに変化したんだろうか…。
ナオコは確かに細くなった。
しかし、元がぽっちゃりとした体型だったので、ミニスカートから出ている足も決して細いとは言えなかった。
でもきっと、彼女の中で大きく何かが変わったんだろうと思う。
自信を付けた人間は強い。
それがどんな形であろうと、自分で自信を持つことは今の私にはできなかった。
どうやったら自信が持てるんだろう。
彼氏ができたら自信が付くのかな、大人になれば自然とそうなるのかな、考えた。
しかし答えはいつまで経っても出てこない。
そうしている間にも日々変化し続けようとするミカ達を見て、私は何だかうらやましかった。
私はいつになったら変われるんだろう。
それとももうこのまま、変わらずに大人になっていくんだろうか…。
もうすぐ19歳、変わりたい。