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19才  作者: mame
11/27

同僚との関係

あれから案の定、ミカやアユミ達はここぞとばかりアキコのことを色んな人に話していた。

ウワサというものは本当に広がるのが早い。

気付けば関係ないランチタイムのオバサン達にまで広がっていた。

人の恋ネタは話の種になる。

それが同じ空間の中での出来事となればなおさらだ。

みんなヒソヒソとウワサ話をしていた。

何だか嫌な空気だ。


そんな中で当のアキコはこのことに気付いているのかいないのか。

常にいつもと変わらない様子だ。

本当にただ鈍感なのか、それとも本当に強いのか。

私には分からない。


人の噂も○○日…というように、しばらくすればみんな飽きるだろう。

私自身はこのことには触れないようにしていた。

何にせよ、アキコとユウスケが何の関係もないと分かった以上、私には関係なかったからだ。

私にとってはそれだけだった。

そのことがずっと引っかかっていたから、今は不思議と強い気持ちが持てた。

アキコとは何も変わらずこのままの関係でいよう、そう思っていた。


しかしなかなか物事思ったようにはいかない。

自分の中で色んなことが落ち着こうとしていた矢先のことだった。



「ちょっと、いいか??」



シフトリーダーの萩岡が私に話しかけてきたのだ。



「はい、何ですか??」



「自分は石田とよう話してんの??」



「いや、そこまで深い話はしないですけど…何か??」



「最近みんな変なウワサしてんの自分も知ってるやろ??

 ほんで店長にちょっと聞いてもらえんか頼まれてんけどな。ワシそういうん苦手なんやわ。」



萩岡と普通に会話をしたのは初めてかもしれない。

いつも仕事中の私語は禁止と言われていたし、閉店作業でみんなと会話する時間も少なかった。

私もアキコもよく叱られていたし、ただこの人は恐い、そんな印象だった。



「萩岡さんはアキコさんと普通に話されることはないんですか??」



「ワシ??こう見えて女の子が苦手やねん。」



こう見えてって言われなくてもきっとそうだろうと思っていた。

自分のことをワシと言う年齢でもないし、見た目はかなり老けている。

女っ気など微塵も感じない人だった。

もちろん本人の前でこんなこと言えるはずもなく、言葉を選んだ。



「私はまだ一緒に働き出して間もないですし。

 むしろキッチンのジュンさんやケンジさんの方がよく知ってるんじゃないかと。

 大学も同じですし、よく帰りも送ってもらうみたいですし。」



「え?!ジュンそんなことしてんの?!アシやんけ!!」



「まぁそうとも言えますけど…。」



「ほんまな、ワシそういう色恋ネタにうといねん。困ってんのや。

 ちょっと本人に聞いてみてくれんやろか??」



「あの…多分ウワサ通りだと思いますけど…。」



「何でなん?!何か聞いたんか??」



「いや…その…雰囲気というか空気というか…分かりません??」



私はこのことに巻き込まれたくなかった。

ウワサは本当のことなので、この際萩岡自身に気付けと促すことにした。

それに面倒臭いことだからと私に振ってくるやり方が気にくわない。

店長に頼まれて…というのは嘘だろうと思った。

なぜなら、つい昨日アキコの話を店長としたからだ。


店長は男と女が同じ空間にいれば恋の一つや二つあって当然だ、そう言っていた。

ウワサは大きくなるもんだから、しばらくそっとしておこうと言っていた。

きっと萩岡は自分の周りでそんな話が出ることが気に入らないんだろう。

自分は何も知らなかった、そう勝手に腹が立っているのかもしれない。

はたまたそんな恋ネタが逆にうらやましいのかもしれない。


何にしても、自分で聞くこともせず、一番手っ取り早い方法を考えたんだろう。

まず一番近い私に話を振ってきた。

何だか嫌味な人だ。



「ワシ職場で私生活混ぜるヤツ嫌いやねんな。それからそれネタにして盛り上がるんも嫌いなんや。

 空気乱してんの分かるやろ??」



「はい・・・・・。」



「しかも最近アイツ勝手に色々やりよるやろ?ワシの指示も聞かんと。」



「・・・・・はい。」



「自分もな、アイツに聞く前にワシんとこ来てや。そっから色々決めるし。」



「はい・・・・・。」



なぜか説教になっている。

何で私が説教されないといけないのか。

何だか腹が立ってきた。



「とりあえず、別のもんに聞いてみるわ。時間取らせて申し訳ない。」



「いや、お役に立てずにすいません。」



「あー気にせんとってな。ワシ性格こんなんやからあかんのやわ。

 自分でも分かっとんのやけどなぁ…。」



そう言って萩岡は自分の拳で自分の頭を叩いた。

この人は何だか性格で損をしているなと思った。

きっと根は正義感に溢れていて優しいはずだ。

マジメだし、気を抜かない。

だからこうやって状況を自分から悪化させてしまうんだろう。


色んな人がいる。

私もその中の一人だ。

そう思うと人とのつながりは結構スゴイもんだなと感じた。

私がそれまで思っていた萩岡の印象は今日の会話で少し崩れた。

きっと私たちと同じ、彼もイチ学生なんだと思った。



「マキちゃーん、こっちノーゲストになったから。ちょっと早いけど閉めてバキュームかけちゃお。」



「え??いいんですか??」



「いいよいいよ。お客さん来たら喫煙回せばいいし。」



「ちょっと萩岡さんに聞いてきます…。」



そう言った時だった。



「なぁ、自分何勝手に閉めてんの??」



「いや、もうよくないですか??こっちやりますから。」



「そうやないって。何で勝手に閉めてんのやって聞いてんねん。」



「・・・・・。」



「閉めるか閉めんかはワシが決めることや。最近自分勝手過ぎんで。」



「こっちはもうノーゲストになったんでバキュームだけと思ったんですけど。」



「だからそういう指示もワシが出すんやって。勝手に決めんでもらえる??」



「はい、分かりました。」



そう言ってアキコは禁煙席に置いたポールをガシャンと大きな音を立てて元の位置に戻した。

やばい、アキコは怒っている、そう感じた。



「ねー何さっきの言い方。こないだは何にも言わんかったのに今日は何で??

 何かムカつくんですけど。マキちゃんもそう思わん??」



喫煙席でダスターを洗っていた私にアキコが寄ってきて言った。

やっぱりかなり怒っている。



「やっぱあの人苦手だわ。別に要領よくやればいいと思わん??」



「はい…まぁ…。」



「でしょ??何でいきなりあんな言い方されんといけんの??腹立つー。」



その時だった。



「今仕事中やで。表でペチャクチャ喋んなや。文句があるなら直接言えや。ほら裏入れや。」



「・・・・・。」



「裏入れって言うてんねん!!」



「入りません。」



「言いたいことあるんやろ?!裏来いや!!」



「嫌です。」



「ほなもーえーわ。帰れ。」



「・・・・・。」



「帰れ言うとんのや、帰れ!!」



萩岡がアキコに向かって大声で言った。

数人いたお客さんも驚いていたが、本人達には関係なかったようだ。

アキコと萩岡に私は挟まれてどうしようもない状況だった。


アキコはそのまま裏に入りタイムカードを押して出てきた。

そしてそれを萩岡に投げつけた。

萩岡はサインをし、アキコに渡した。


アキコは数分もしないうちに着替えてそのまま足早に帰って行った。

キッチンの人たちもその状況を見ていたようであ然としていた。

私はとりあえず客席にいた人にことわりを入れに行った。

幸い、どの人も苦情を言うことなくしばらくして帰って行った。


萩岡は私に少しの間頼むと言って事務室に入って行った。

おそらく店長に何らかの報告をしているんだろう。

今日に限って私たち3人。

ホールには私一人になってしまった。


平日だったこともあり、それからお客さんは数組来た程度だった。

ふと時計を見ると午前1時を回ろうとしていた。


すると入口から店長が入ってきた。



「今日は1時間早いけど1時で閉店や。」



「え??何でですか??」



「萩ちゃんから聞いたよ。大変なことになったな。」



「いや…私は特に大変じゃないんですが…。」



「悪いけど、閉め頼める??」



「分かりました。」



そう言って店長は中に入って行った。

その後お客さんも帰り、1時半には閉店作業を始めることが出来た。

とはいえ私一人。

ホール全体に掃除機をかけ、モップで拭き、テーブルの上を整え、水回りをきれいにする…。

たくさんの仕事が残っていた。

トイレ掃除もまだ終わっていない。

裏のアイスストッカーもまだ閉めきれていない。



「どうしよう…いつ終わるんだろ…。」



ふと独り言を言ってしまった。

でもやるしかなかった。

店の入口の鍵を閉め、店頭のライトを消した。



「よっしゃー!!」



そう意気込んでまずはたまったお皿のBOXから運んだ。

キッチンでは着々とそれぞれ作業を終え、みんなタイムカードを押しに入っていた。



「なぁ、手伝ったろか??」



ふと見るとユウスケがホールに出てきていた。



「あ、キッチンもう終わったんですね。お疲れ様でした。」



「なぁ、話聞いてないやろ??」



「え??何ですか??」



「これから一人でやるんか??」



「まぁ、やるしかないでしょ…。」



「他のヤツにも言うてきたるわ。掃除機くらいならで出来るで。」



「あ、ホント大丈夫なんで…。」



「ほんまか??」



「今日みたいな日は多分今日だけだと思うんで。何とかやります。」



「やろな。みんなビビっとったで。どっちもコワっ!!」



「二人に挟まれてた私はもっと恐かったですけど…。」



「挟まれてたん?!ほな自分の勝ちやわ。」



「シャレになりませんよ…ほんと恐かったんですよ。」



「多分アイツ、もう来んと思うわ。」



「このまま辞めちゃうんですか?!」



「多分な。オレはそう思う。」



「ナイトまた人いなくなるじゃないですか…。」



「だってあのオッサンやもん、難しいわ。」



「オッサン??」



「自分とこのリーダーやって。あのオッサンみたいにやっとったら疲れんで。」



「よく見てるんですね…。」



「自分も疲れ溜めんようにしーや。バイトがすべてやないんやで。」



「まぁ…そうですね。」



「多分これからオレらも何かしら話聞かれると思うねん。

 まだ帰れんし、何かあったら言うてや。手伝うで。」



「あ、ありがとうございます。」



「ほな入るわ。」



ユウスケは私を気遣ってくれていたんだろうか。

ただ一人、ホールで働いている私に声をかけてくれた。

店長と萩岡は事務室にいたが、しばらくしてキッチンのみんなが入ってきたのでホールに出てきた。



「ごめんね、ちょっと奥の席借ります。」



そう言って二人は禁煙席のテーブルに座って何やら話していた。

事務室と休憩室は同じ空間にあって狭い。

キッチンのみんなも今日のことを口々に言っていた。


私は一つずつ作業を進めた。

それでもまだまた終わる気配は見えてこない。


「マキちゃん、今日適当でいいからね。終わったらマキちゃんもちょっといいかな??」



店長にそう言われた。

今日私は家に帰れるんだろうか…そう思った。

とりあえず、明日開店しても差し支えのない程度にまではしておかなければならない。

空腹にも見舞われていたがやるしかなかった。


約1時間半後、何とか作業を終えてタイムカードを押しに入った。

時間は既に3時半を過ぎていた。



「お疲れさーん。」



みんなまだ残っていた。

もちろんユウスケもいた。



「オレらも話したんだけど、マキちゃんこれから??」



「はい…多分…。」



「とんだとばっちりだわーホンマ。な?!」



「いや…多分萩岡さんが一番困ってるんじゃないですか?」



「何かね…オジサン根はイイ人なのにマジメ過ぎるんよな。な??おっちゃーん?」



離れて座っていた萩岡がこっちを見てガッツポーズをした。

普段あまり見ない光景だった。

聞くと萩岡はよくみんなと飲みに行くらしい。

面倒見もよく、キッチンの人からは慕われていた。



「マキちゃんは見捨てんでやってな。おっちゃんのこと。」



「見捨てるってそんな立場でもないですよ。」



「正直お嬢にはみんな手焼いてたとこがあったからな…。」



「アキコさんもきっと色々思うことがあったんだと思います。」



「これからちょっと大変になるけど、ま、オレらも協力するから。」



「はい、何とかなりますよー。」



「おー頼もしい。おっちゃんもホンマは優しいんで。」



「何となく分かります。でもやっぱり厳しいですけど。」



「分かっとんなら大丈夫やわ。なー?」



そうキッチンの人たちはねぎらいの言葉をかけてくれた。

にしてもこの先の不安は変わらなかった。

これから年末で忙しくなるのに大丈夫だろうか…そう思うと気が重かった。




「バイトがすべてじゃない」

ユウスケはそう言っていた。

でも今の私にとってバイトはほぼ生活のすべてになりつつあった。

学校にいる時間よりも店にいる時間の方がずっと長かった。

仲のいい友達もバイトの友達の方が多かった。


それに何にしろ、ユウスケがいる。

彼がいなかったら私の毎日は全然違うものになっていただろう。

そう考えると、今の状況でもいい、そう思えたりさえした。


でも彼にとってのバイトは、私が思うのとは違うのかもしれない。

自分の時間が必要、と言っていた彼にとっては単なるお小遣い稼ぎの場なのかもしれない。

大学に行く、サークルに行く、友達と遊ぶ、地元に帰る、そして一人の時間を過ごす…。

私と彼を取り巻く環境はバイトを除けば全く違うものになる。

そう考えると、何だか少し寂しくなった。


ユウスケにとって、私という存在はどういう風に写っているんだろう…。

彼の心の中に私はどれくらいの大きさで存在しているんだろう。

まだまだユウスケの知らない部分がたくさんある。

もっと知りたい。

もっと話したい。

そしてもっと私を知って欲しい。

私の中で確実にユウスケの存在は大きくなっていった。


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