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19才  作者: mame
10/27

私の後悔

数日後のことだった。

ミカたちが何やら騒いでいる。



「マキー!!ちょっとちょっと!!」



「なに?!どしたの??」



「やばいよーちょっと来て!!」



騒いでいたのは更衣室だった。

私はちょうど休憩時間に入ったのでミキたちの言われるがまま更衣室へ行った。



「ねーコレ、アキコさんのでしょ??」



「そうだけど…てか何で開いてんの?!」



「違うって!!このままこうやって置いてあったんだってー!!」



見ると更衣室の鏡の前にアキコの携帯が開かれたまま置いてある。

アキコはいつも時間ギリギリに入り、着替えてすぐにタイムカードを押す、という感じだった。

前にアユミたちが下着が派手だとか、化粧品がすごいとか言っていたが、その理由はここにある。

アキコは自分の荷物をきちんと置かず、脱いだものやポーチもそのまま放っていくことがしばしばあった。

もちろんナイトタイムになると女はアキコと私だけになるので気にする必要もなかった。


しかし今日はアユミやミカが22時まで、アキコが20時入りと時間が重なっていたのだ。

いつものことと思っていたが、今日は状況が違った。



「ねーねーまさか見たんじゃないの?!」



「まさかってこんなにして置いてんだもん、ねー??見てくださいって言ってんのと同じだって。」



「確かにこの置き方はないと思うけど…。見ない方がよくない??」



「てかもう見ちゃったもんねー。」



「もうヤバイって。やめとこうやぁ。」



「マキ、知ってた??アキコさんの彼氏。」



「知ってるってか彼氏いることくらいは…。」



「うちらの勘、やっぱ当たってたしー。」



「勘って??」



「男関係やっぱ派手だし。しかも店の人ばーっか。やるわーめっちゃヤリ手だよこの人。」



「もーさー知らん方がいいってこともイッパイあるがん??」



「いや、ここまできたら全部知らんとスッキリせんよな。」



私はダメだと言いながら、自分でもやめないとと思いながら、でも複雑だった。

ユウスケのことがあったからだ。

変なことを知ってしまえばそれだけで勝手に気まずくなると不安になった。



「ねーねーあたしアキコさんと一緒に働いてんだけど。気まずくない??」



「大丈夫だって。別にマキの彼氏に手出してましたーとかじゃないんだから。」



そう言ってミカたちはアキコの携帯を私に見せた。



「ね??すごくない??」



「ほんとだ…男しかいないじゃん…。」



アキコの着信履歴はジュンに始まり、彼氏だと聞いた福田・ケンジ・テツジと店の人が続いていた。

その間に知らない男の名前がいくつも入っている。



「ね?ね?やっぱすごいでしょ??次メール。」



「メールはさすがにヤバいって!!」



「なんでよー。もっとすごいから見てみて。」



ミカたちを止めることはできなかった。

そして私自身もダメだと分かりながら自分を止める事が出来なかった。



「・・・・・え?!」


「アキコさん、福田と付き合いながら他にも手出してんだってー。」



 今日何時から?



ユウスケのメールだった。

その次もユウスケのメールだった。



 お疲れさん。オレはもう寝ます。



何で??

よく分からなかった。

やっぱり見るんじゃなかった、バチが当たったんだ、そう思った。



「ユウスケさんにも送ってるよ。怪しくない??他は?」



みんなの興味はユウスケのメールに集中した。

私はもうその場から逃げたかった。



「あったあった、これこれ。ほらマキ!!」



もうどうにでもなれ、そう思った。



 お土産ありがとう。他のヤツにもあげたんか?みんなにイジられんの恥ずいから帰ったった。



あの日のことだ。

こっそり二人で何か話していたあの夜。

アキコがユウスケ渡していたのは大阪土産だった。



「ねーねー大阪土産だって。マキ知ってた?」



「何か妹がいて遊び行ったらしいよ。みんなにはベビースターくれたよ。」



「えー?!何なに?!じゃぁユウスケさんだけ特別??」



「知らないよ。何にも聞いてないし。」



「何マキ怒ってんの??」



「もうやめようよ。見てもいいことなんて出てこんよ。」



「違うって。本番はこれからなん!!」



そう言うとみんなは福田のメールを見てまた騒ぎ出した。



「マキー!!これ!!超赤ちゃん言葉じゃね!!」



「メールでエッチとかしてんじゃない?これ。」



「あーこないだ知ってた?アキコさんキスマーク隠してきたん見たよ。」



「じゃぁ福田とヤリまくった後ご出勤ですかー?!」



「もーヤバくなーい?!マジありえんし。」



ミカたちはこのまましばらく騒ぎ続けるだろうと思った。

私はそんなことどうでもよかった。

更衣室を出て休憩室の椅子に座った。


幸い誰もいない。

脱力感と罪悪感に襲われた。

人の携帯を盗み見たことを後悔した。

そんなことをしてまでも知りたかったことなんだろうか。

このまま何も知らずにユウスケと仲良くなった方が全然よかった。


自分を責めた。

弱い自分に負けてしまったことが情けなくて仕方なかった。

こんな自分がユウスケのことを好きだと言える資格があるんだろうか。

結局何の解決にもなっていない。


その時だった。



「なんかえらい騒いどんなー。」



ユウスケが入ってきた。

残り10分ほどあったが早く切り上げようかと思った。



「何か顔色悪いで。調子悪いん??」



ユウスケは当然何も知らない。

いつものユウスケだ。



「あ…なんかちょっと…身体は元気なんで。」



「どないしたん??何か疲れとんな。」



「あ…まぁ…そんな感じで。」



「それにしてもアイツらうるさいわ。何やっとんやろ。はよ帰れやな。」



「何か人の話で盛り上がってるみたいです。」



「人のことより自分のこと気にせーや。人のことネタにして何がおもろいんやろ。」



私はそんなこと言えるタチじゃない。

自分もさっきまで同じようにあの中にいたと思うと自分に腹が立った。



「今日は女の子多いでしょ。」



「おーそうやな。アイツも早いし。」



そう言ってユウスケはドア越しにアキコの方を見た。



「アキコさん、こないだ大阪行ったって言ってましたね。」



「おーそうや。土産くれたな。」



「あ、ベビースターでしょ。タコ焼き味のやつ。」



「え??ほんまか??オレお好み焼き味カールだったで。カールおじさんストラップ付き。」



「何か特別じゃないです?それ?」



「ちゃうって。こないだアイツにレポート見せてん。数学の。そのお礼やってゆうてくれたし。」



「そうなんですか。何かジュンさんとかが後で問い詰めてましたよ。」



「それでかー。最近ジュンとかによー聞かれんねん。アイツと何かあるんかー?!って。」



「そうなんですか?ジュンさん多分アキコさんのこと好きなんだと思います。」



「やろうな。オレもそう思う。叶わん恋やな。」



「なんでですか??」



「だってアイツ彼氏おるやろ??何で気付かんのんやろ、みんな。」



「あ…知ってたんですね。」



「なんや自分も知ってたん??ちゃんと黙っとんのや、エライな。」



「ユウスケさんは本人から??」



「いや、前二人でおるとこ見てん。それで。」



「そうだったんですか…。」



「多分自分は本人からちゃんと聞いてんやろ?オレ知らんことになってるから。」



「まぁ…でもバレるのも時間の問題かと…。」



「やろな。女の子の勘はするどいしな。」



「なんか複雑…。」



「何がや??別に何もやましいことないやろ??」



「まぁ…そうですけど。」



「正直オレよくメール無視ってんねん。たまに返すけど。

 めんどくさいんよ、しかも相手おる子やったらややこしいし。」



「なんか…難しいですよね。」



「何か今日はホンマ調子悪いみたいやな。早めに帰らしてもろたら??」



「いや、それは大丈夫です。もうちょっとなんで。」



「あんま無理すんなよ。てかまだ騒ぎよるんやな。すごいわ。」



「じゃぁあたし戻ります。」



「おーお疲れ。」



そうやって休憩は終わった。


アキコが休憩に入る前に隙を見てミカたちに知らせ、帰るように言った。

そして私はトイレに行くと言って更衣室に入り、元の状態に近づくよう必死で片付けた。


結局アキコは何も気付いていなかったようだ。

というより、意外とそういう所は無頓着なのかもしれない。

普通なら自分の私物をあんな風に置いたりしない。

もしそのことに気付いたんならすぐにでも元に戻すだろう。


何事もなかったように休憩を済ませ、その後も変わらない様子で働いていた。

まさか自分から携帯を開いておくような行動はしないだろう。

そんなことをしても何の得にもならないはずだ。

自分の秘密がバレて立場がなくなるだけだ。


それにしても、色んな人がいるもんだな、そう私は思っていた。

アキコは何も考えず、ただ素直に生きているだけなのかもしれない。

私のように何をするにしても考えて考えて…。

そんな行動はアキコの中には存在しないのかもしれないなと思った。


私も思ったように、思うがままに、何も考えずに行動できたら。

自分の気持ちだけ考えて突っ走ることが出来たらどんな風に世界が変わっていたんだろう。

そうまた考えていた。

きっとこうやって何もかも考えているうちは何も変わらないだろう。

人と自分を比べることもそろそろ辞めないといけない。


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