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ドイツ編

 むかしむかし、あるところに、村はずれに住む4人の家族がいました。


お父さんは猟師をしていましたが、森の奥に入って狼に襲われて死んでしまいました。


そこでお母さんは森の入口で薬草を摘んで、それを村や町で売ってお金に変えていました。


お兄さんのヘルマンは出かけるお母さんに代わり、食事の支度やお掃除をしていました。


妹のファウラはお母さんに習い、薬草の薬効を覚えたり、種類分けを手伝ったりしていました。





 今日は、昨日までに乾燥が終わった薬草を、お母さんが町に売りに行っています。


 「お兄ちゃん、ちょっと出かけてくるね。」


ファウラは編み籠を持って扉を開けました。


「どこへ行くの? ファウラ。」


ヘルマンの質問にファウラは


「お母さんの代わりに薬草を集めに行くのよ。」


と答えました。


「危ないからボクも行くよ。」


そこでファウラはお兄さんのヘルマンを伴って出掛けることにしました。





 2時間ほど、歩きながらあちこちにある薬草を摘んでいると少し開けた場所に出ました。


「ここで少し休もう。」


ヘルマンは大きく平らな石に、ファウラと2人で座ってリンゴを齧ります。





 「あたしたち以外の人も来ている場所なおかしら?」


よく見ると地面にはたくさんの足跡や、焚火の跡があります。


今座っている石には読むことが出来ない文字が、ぐるりと一周書かれています。


ヘルマンはここが集会所であることを悟りました。


悪魔を崇拝するような大人が集まる、悪い集会所です。





 「ファウラ、早いけれどそろそろ行こうか。」


石から飛び降りた時、ヘルマンは靴に何か違和感を感じました。


足の下には見覚えのあるものが落ちていました。


薄汚れ、割れていましたが、それは組み紐と木の実を使ってヘルマンが作り、お父さんに贈ったお守りだったのです。


背筋がすぅっと寒くなりました。


お父さんは狼に襲われたのではなく、何かの生贄にされてしまったことを悟ったのです。





 ヘルマンがお守りを手に取ると、不気味な唸りが森の奥から聞こえてきました。


「狼かしら…?」


ヘルマンは強張るファウラの手を取り、家に向かって走り出しました。


唸り声は2人を追いかけてくるようです。





 「お兄ちゃん、怖いよ。」


ファウラは半べそをかきながら、腕を引くヘルマンに必死についていきます。


(コイツは狼じゃないんだ…。お父さんを使って誰かが呼び出した悪魔に違いない…。)


必死に走っていないと恐怖で蹲ってしまいそうです。


ですがもう―。


「お兄ちゃん…もう…走れないよ…。」


ヘルマンは辺りを見回し、炭焼き小屋を見つけました。


荒い息をするファウラを小屋の中に押し込み、忠告します。


「ここに隠れて。絶対音を立てちゃ駄目だよ。」


ファウラはこくこくと頷きます。


「僕はお母さんに知らせて、猟師さんを呼んでくるから。」


ヘルマンは駆け出し、家に向かいます。


唸り声は更に近くなっていました。





ヘルマンが後ろを振り返って見たその姿は、細く白い腕のようなものだった。


とても長い手のようなものが兄妹を探して這い回り、木々を縫うように素早く移動していたのだ。





 ヘルマンは恐怖に駆られながら走り続け、家に入ってすぐ扉を閉めました。


お母さんは町から帰ってきていました。


「ヘルマン? どうしたの?」


息も切れ切れにヘルマンは訴えます。


「薬草を摘みに行ったんだけど、森から獣みたいなものに…お、追いかけられて…ファルマが走れないから…今、炭焼き小屋に…。」


その時、お母さんのこめかみあたりから血が流れていることに気付きました。


「お母さん、怪我しているの?」


お母さんは震える足取りでヘルマンに近付いてきます。


ヘルマンは恐ろしくなってきました。


「冷たい…頭の中が凍っているよう……ヘルマン? どうし、た。」


そして森で聞いた唸り声を上げたのです。


お母さんの眼はギョロギョロと素早く動き、口から血泡を吹いて倒れてしまいました。





またお母さんから唸り声がしたため、ヘルマンは心配しながらも近付くことが出来ません。





 こめかみの血があふれる部分から、ずるり と何かが這い出てきました。


ヘルマンは悲鳴を上げ、その場に崩れました。


見たこともない化け物と、お母さんを喪った悲しみとで、心が崩壊するには十分だったのです。





 数日後、行商人が通りかかり、村人が皆頭に穴を開けられ死んでいるのが発見されました。


行商人がこの村を統治する領主様に報告し、領主様は私兵を出して辺りを捜索しましたが、炭焼き小屋で衰弱している少女しか見つかりませんでした。


この村で何が起こったかを知る者はなく、少女は窓から化け物を見た と話したが荒唐無稽な話のため取沙汰されることもなく、ただ一つの村が消えた とだけ帳簿には起票されたのです。

参考作品:フランク・ベルナップ・ロング「食らうものども」

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