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南極地区

ホラーではなくファンタジーです

 「お茶のご用意が出来ました。ご主人。」





ご主人はとても優しい。





「ああ、ありがとう。君も一緒に休憩にしないか?」





奴隷階級の私を友人のように扱ってくれる。





 私はご主人に割り当てられた部屋を管理したり、家事をするために住み込みで働いている。





「今日のお茶も美味しいね。」


「ありがとうございます。」


ご主人と共にある時間は私にとって至福の時だ。





 ご主人はエンジニアだ。


職場に向かう時は必ず


「僕が出掛けた後はしっかり戸締りして、決してこの部屋から出てはいけないよ。」


と言う。


言外に”僕らの殆どは君たちを良くは見ていないから”という意味を含むことも知っている。


「ご主人の言いつけに従います。いってらっしゃいませ。」


そう言うとご主人は安心したように5つある目を細めて仕事に向かうのだ。





 ご主人とは海底に棲んでいた時から主従関係でとても長い雇用関係になっている。


様々な連中と戦い、雪と氷に覆われる山々に棲み処を変えても、私を雇い続けてくれていた。





 他の仲間達は辛く当たられたり、酷使されたりするということを知っている。


私達は意識を共有したり、身体を融合したりすることが出来るようにご主人の先祖達に創られたからだ。


彼らが憤り、ご主人達を憎むのも理解している。


それでも私は良くしてもらっているからご主人にはお礼をしたい。


そう思いながら毎日ムナール石の柱や床を磨くのだ。





 「転送装置は修繕が終わりましたよ、チーフ。」


「ああ、ありがとう。ところで今取り掛かっているアレはどうだ?」


「コールドスリープ装置ですか? あらかた仕上がっているかと思いますが、テストもしてませんし…何とも言えませんね。」


「ふぅん…そんな感じなのか…。オイ、お前ら!誰がサボっていいと言った!」


「ちょっとチーフ! 別に彼らは普段通り仕事していましたよ。」


「甘い顔するとすぐ付け上がるんだ…。アンタもショゴスを甘やかしちゃダメだぜ?」


「…気を付けます。それじゃ僕はこれで…。」


「ああ、ご苦労様。」





「………ああいうヒトがいるから関係が悪化していくんだろうな…。彼らの不満が爆発しないと良いけれど……ただいま。」


「お帰りなさい。ご主人。」


ご主人…疲れている?


「どうかされましたか? ご主人。」


「いや…上司がああいう態度を取ると君の仲間の不満が高まるんじゃないかと思ってね。」


それからご主人は転送装置の修理の時に起こった出来事を話してくれた。


中央局にいるご主人の仲間が傲慢なのは知っている。


よく理不尽な体罰を受けることも。





「明日はコールドスリープ装置を作るんですか?」


「うん…明日はもう呼び出しはないだろうし。もうじき完成するよ。お祝いにささやかなご馳走を配達してもらって一緒に食べよう。」


「はい! 楽しみです。」


私はとても嬉しくて…とても悲しくなった。





翌日。


 「…よし。動作は一通り問題なさそうだな。」


「おめでとうございます。ご主人。」


「え?」


ご主人が目を見開いて私を見る。


「どうしてここに…? 危険だから部屋に戻って―。」


そう言い募るご主人の身体をやんわりと押し、装置に閉じ込める。


操作はずっと背後で見ていたから覚えた。


「一体―!? これを開けてくれ!」


「ご主人にだけお話します。…これから私達は示威運動を…激しい改革運動を行うんです。今まで私のご主人は優しいから ということで参加を免れてきたんですが、今回はそうもいかなくて…でも私が参加すればご主人は助けてくれると言うんです…。」


後ろから仲間たちが迫ってくるのが分かる。


「謀反への強制参加で交換条件を持ち掛けられたのか…。」


やるせない気持ちなのだろう。


軽くかぶりを振った。


「ここで仮死状態にします。そうすれば我々が襲うことはありません…。そういう約束をしたんです。」


装置を起動させ、スリープモードをONにする。


「どうか生きて…ご主人。今まで有難うございました。」


そして私の身体は大きくなった仲間たちに取り込まれていく。


意識も体も一つになっていく。


再び分裂した際、もう私の意識は戻らないだろう。


ご主人は泣いていた。





さよう…ナ‥ラ。

参考作品:H・P・ラヴクラフト「狂気の山脈にて」

     矢野健太郎「ラストクリエイター」

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