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「で、部長どうしたんですか、その格好にその持ち物」
奏介が指摘したかったことを先に梨音が言ってくれた。
一糸まとわぬ姿で露わになった色黒かつ筋骨隆々な上半身。
何故か右肩に担がれているスネアドラム。
そしてそのドラムにはぱっと見でもわかる大きな継ぎはぎの跡。
ツッコミ所満載である。
「ドラムを叩いていたらヒートアップしてきて服を脱いだんだが、それでも俺の熱くたぎるビートが抑えきれなくてだな。俺様渾身の乱打をかましていたら……スネアに穴が空いた」
「部長はバカなの!? これで何回目よドラムに穴開けたの!?」
「別にとりあえずは応急処置で直してきたんだから問題あるまい。まあいい、バカと天才は紙一重とはよく言ったものだし、今回のベリオンの言葉は褒め言葉として受け取っておこう」
「だーかーらー、あたしのことベリオンって呼ぶのやめてもらえます?」
「……エヴァンベリオン!」
「余計にひどい!」
いつも通りの楽しい会話が繰り広げられている。ジェロムが会話の主導権を握り、梨音が遠慮なくツッコミを入れ、奏介が一歩引いたところでそれを楽しく眺める、という構図。だけど、今日の奏介は珍しくその会話に割って入った。
「それで部長、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
盛り上がる会話の合間を縫って、奏介は今朝の出来事について部長に話してみた。
「ほう、そんな子が……」
部長がその太い眉をひそめる。心当たりがある、と言うわけではなさそうだ。
「残念ながら俺にはわからんが……新入部員候補として、興味はあるな」
現在、軽音部にはこの場にいる3人しか所属していない。このままでは来年には消滅の危機なので、部員は1人でも多く欲しいところだった。それで歌が上手くてギターが弾けて、美人な女子ならばなおのこと。
「我が軽音部にも、そういう華のある女子が欲しいものだ」
「ちょっとー、女子だったらここにいるんですけどー?」
「……はんっ」
ジェロムは露骨に鼻で笑った。
「こんのクソアフロっ!」
梨音が手に持っていたロッキンジャパンを丸めて部長に飛びかかる。
「ははははは、まだまだそんな攻撃俺には効かんぞベリオン君!」
部長の挑発を背中で聞きながら、奏介は部外者を装ってこそこそとギターのチューニングを始めた。