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オーディションライブから、1週間が過ぎた。
その間にも淡々と日々は過ぎていく。いつも通りの学校。いつも通りの放課後。いつも通りの日常。
そんな中で、変わったことと言えば2つある。
まず1つ。奏介が髪を切った。
最初はすっきりし過ぎた視界に慣れない上、周囲もやたらと騒ぎ立てて落ち着かないものだった。でも、今ではもの誰も髪型についてあれこれ言う人はいない。それはそれでちょっと寂しいと思う奏介だった。
そして、2つ目の変化。
「奏介、梨音」
ホームルームが終わってざわつく教室の中、はっきりと聞き分けられる声で名前を呼ばれる。
「部活、行こう」
感情のこもらない、彼方の淡々とした声。これでも、最初に比べれば随分と柔らかくなった。そして、奏介と梨音の二人にとっても、その声はすっかり日常の一部になっていた。
「うす」と短く返事する奏介。
「はいよ、今準備するから待ってて!」と教科書やノートを片づけながら梨音。
日常の中で変わったことの2つ目。
それは、奏介はもちろん、あんなに気まずい雰囲気だった梨音と彼方の距離が、ぐっと縮まったこと。
「そういえば最近部室棟に幽霊が出るって噂、彼方は知ってる?」
「知らない」
「放課後の誰もいなくなった部室棟で、風船みたいにぱんぱんに膨らんだ頭の巨人がおいしそうな人間の魂を探して歩き回ってるらしいよ?」
「……その幽霊、会ってみたい」
「あはは、彼方も面白い冗談を言うようになったね……ってマジ?」
2人の間に何があったのか、奏介には結局何も知らされていない。でもどんな経緯であれ、2人の仲が親密になるのは素直に嬉しいことだった。
「なんかお前ら、最近やたらと仲ええよな~」
すると、奏介と同じことを思っていたらしい鈴木が3人の輪の中に入ってきた。
「この1週間の間に何があったん? もしかして遠野、渡部に弱みでもぐへっ!?」
「握ってないわ」
鈴木は梨音にノートでひっぱたかれていた。
「そもそもソウと鈴木は何で揃いも揃って最初にその結論に行き着くかな!? そんなにヤンキーかあたしは!?」
「あー……そういえば俺も似たようなこと言ったような気が」
「言った気が、じゃなくて言ってた! 間違いなくこの耳で聞いた!」
「だってしゃーないやん、渡部のキャラがキャラやし。そう言われたくなきゃ、もっとかわいさアピールをだな」
「梨音は、かわいいよ」
「お、ここで遠野が反論かー。よっしゃ聞こう、その心は?」
「梨音のメイドさんの格好、すごいかわいかった」
「メイド!? 渡部が!?」
「あれかー、しかし改めてそう言われると照れくさいね」
「確かにあれはいいもんだったが……」
奏介は思い出す。梨音のメイド姿と同時に、自らの黒歴史を。
「うっ、頭が……」
「どうした多田!? 急に頭を抱えだしたぞ!?」
我ながら、よくあの格好でステージに立てていたと思う。いくらステージが沸いたとはいえ、もうアレは絶対にやりたくない。
「実は、ソウも一緒にメイドの格好したのよ。その時の写真あるけど見る?」
「は!? いつの間に写真撮ってたの!?」
「何だそれ見せろや渡部!」
「私も見たいかも」
「ダメダメ彼方も鈴木も離れろ!」
梨音がスマホを取り出して、それを掴みにかかる2人と阻止する1人。4人で展開される不毛なわちゃわちゃ。
その弾みで、かしゃん、と床に何かが落ちる音がした。
一同の視線がそこに集まる。
それはMiXのCDだった。
明らかに、鈴木のバッグから落ちたものだった。
「ソウ」
「おう」
「それ、没収しなさい」
「承知」
「わー! 待った待った待った!」
と、奏介が動く前に鈴木がCDを回収。自分のバッグにしまい込んだ。
「鈴木、俺は悲しい。お前はこっち側の人間だと思ってたのに」
「まったくだ、あたしは失望した」
「おいおいひどくねアンチとはいえCD持ってただけでこの扱いひどくね!? なあ遠野、こいつらひどいとは思わん?」
「……がっかり、鈴木に」
それっきり、鈴木は動かなくなった。やはり普段大人しい印象の彼方に言われるとダメージは桁違いらしい。哀れ鈴木。
「しっかし、今回の新曲も売れてるんだな」
奏介は改めて、周囲の様子を見渡す。何人も、MiXのCDを貸し借りしている人がいる。ある人は手持ちのワイアレススピーカーからMiXの新曲を流し、そこに何人もの人が群がっている。音楽不況、CD不況と言われて久しい現在。それにもかかわらず、MiXの音楽だけがこれほど目に見える形で流通し、広まっているという状況。やっぱり異常だと、奏介は思う。そしてその異常なムードは、3人の居心地の悪さに直結する。彼方に至ってはそのせいか露骨にため息をついていた。珍しい。
「……部室行くか」
「そうね、さっさと行きましょ」
「うん」
まだ立ち直れなさそうな鈴木のことは適当に慰めつつそっとしておいて、部室へ向かおうとする3人。
すると、そのタイミングとほぼ同時に廊下から横切った巨大な影。もしや、と奏介は予感する。いや、それはもはや予感ではなく予言の域。スパーン! と教室の引き戸が開いて、室内の全ての視線がその一点へ。
「ジェロームズ! ハリアップ!」
言うまでもなく、岸田ジェロムの参上だった。何事か、と訊ねる前にジェロムが言う。
「もうすぐ結果が出るぞ! 大至急部室に集合だ!」
「あ」
ジェロム以外の3人が顔を見合わせる。
すっかり忘れていた。
今日はオーディションライブの結果発表の日だ。
返事をする前に、ジェロムも含めた4人は勢いよく教室から飛び出した。




