21
日が暮れて、帰り道。
彼方は近くのバス停からバスで帰るという。梨音もそこまで見送ることにした。
日曜日の喧噪は、太陽の光と共に地平線の向こうまで連れ去られようとしている。人通りも少なくなった薄暗い街の空気に、寂しい風がすれ違っていく。
バス停にたどり着くと、ちょうどバスが出たばかりだったらしく、次のバスが来るまでまだ時間があった。
「先に帰っててもいいよ?」
「いやいや、ここまで来ちゃったらバス来るまで待つよ」
「ありがと」
2人は日曜午後6時の憂鬱に包まれた街を、ぼんやりと眺めた。
等間隔に灯り、時々点滅する街灯。アパートの脇、幽霊のように佇む自販機の発光。一番近くの交差点に、たった今青に変わった信号。
「梨音は」
「ん?」
「梨音は……私のことを正直すぎる、って言ってた」
「あー」
そんなこと、言ったような気がする。昔は彼方の正直すぎるところが苦手だったとか、確かそんな話。
「梨音には、私のことがそう見えたのかもしれない。だけどそれは、間違った話」
「そうなの? 彼方ほど嘘がつけなさそうな人、なかなかいないと思うけど?」
「いや……私は1つだけ、嘘をついてる。それはとっても、大きな嘘」
「彼方、それって……」
「ごめんなさい……今は、言えない」
要するに、彼方にはまだ話せない秘密があるという。でも梨音は、それを責めようとは思わなかった。むしろそれを話してくれたところに、梨音は彼方の誠実さを感じた。この場で告白することはそれなりの勇気が必要だったということくらい、梨音はわかっている。
「いいじゃない、別に」
だから梨音は、今は明かされない彼方の秘密を、受け入れた。彼方が梨音の隠れた一面を、受け入れてくれたように。
「そんなに焦らなくても、話せる時が来たら話せればいいと思う。そもそも、みんな何かしらの秘密は大なり小なり抱えてるわけだし」
「そんなものなの?」
「そりゃそうよ。あたしの部屋のことだってそうだし。それに何か大きな秘密を抱えてる人って、それだけでちょっと魅力が増す気がしない?」
「魅力が増す……」
すると、彼方は少し首をひねらせて。
「ごめん、よくわからない」
「わからないかー。でもそれでいいよ、彼方は」
そんな話をしているうちに、バスがお別れを連れてやってきた。眩しいヘッドライトに左ウインカーを点滅させて、バスまでも心なしか憂鬱そうに車体を寄せる。ドアが開く。
「それじゃあ、今日はありがとう」
「こちらこそ。また学校でね」
車内には空席が目立つ。それでも、彼方はドアが閉まって動き出すその瞬間まで、ドアの前に立っていた。梨音に向かって、小さく手を振り続けて。
「ありがと、彼方」
梨音の彼方に向けた感謝は、優しく包み込むような夜空に溶けて消えてしまった。
バスのテールライトが、赤い残像を残して遠くなっていく。




