2
「それ、ヒント少なすぎでしょ」
目の前にいるショートカット女子は言った。
「小柄で、色白で、黒髪ロングで、歌が上手いって……そんな人、校内だけで探しても何十人単位でいると思うけど」
「ま、そうだよな」
その日の昼休み。奏介は自分の机で弁当をつつきながら、前の席にいるクラスメイトで部活仲間で幼なじみの渡部梨音に聞いてみた。今朝の出来事を話した上で、その特徴に当てはまる生徒を知らないか、と。
「何か他にないの、手がかりになりそうなものとか? あ、ウインナーいただき」
「おいちょっと待て」
「まあいいじゃない減るもんじゃないし。代わりにあたしのアスパラあげるから」
「普通に減ってるしアスパラじゃ等価交換にならないだろ、というわけで肉もらう」
「あー! それあたしのメインディッシュ!」
お互いの箸と箸が交わる激しい攻防。食い物の恨みはいつだって恐ろしいのである。すると、隣にいたクラスメイト・鈴木が茶々を入れ始める。
「おーおー、相変わらず多田夫妻は仲がええのー」
「誰が夫妻だ!」
結局、梨音の新たな標的となった鈴木は弁当の唐揚げを食い荒らされていた。そして奏介のウインナーは最小限の犠牲の上で守られた。鈴木ざまあ。
「で、話は戻るけど他に手がかりないの?」
梨音が奪った唐揚げをもぐもぐしながら改めて奏介に聞く。奏介は今朝の出来事をなるべく鮮明に思いだそうとして。
「あ、そういえば」
手がかりが一つあった。それをポケットから取り出す。
「これ、ピックじゃん。その子が持ってたの?」
「そう。それで俺に投げつけてきた」
「ソウってばいきなり嫌われてやがる、だっさー」
「やかましい」
軽口を叩きつつ梨音はそのピックを手に取り、割と真面目そうな顔で観察する。何の変哲もないフェンダーのピック。もしかして梨音は何か知ってたりするんだろうか。
「んー、わからん」
「心当たりあるんじゃないか、ってちょっとでも期待した俺がバカだったよ」
「おう、バカだったな」
否定しないのか、こいつは。
「でもさ、歌が上手くてピックを持ってたってことは、バンドとかやってる人かもしれないってことよね?」
「その可能性は、あるな」
「だったら、部長が何か知ってたりしないかな?」
「……可能性、あるな」
こうして、奏介は放課後に部長から聞いてみることにした。