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今ではぎこちないのは、自分の心のほうだ。
4人での演奏を終えた梨音は、たった1曲弾いただけにもかかわらず、すっかり消耗しきっていた。一方の彼方は、完璧だった。見事に、奏介が創り上げた音楽をモノにしていた。
「何これ……」
梨音は俯き、誰にも聞こえない声でつぶやく。
梨音自身わかっていた。いつも通りの自分じゃないことに。それでも、梨音はいつも通り弾いていたつもりだった。思い出していた過去の日の自分よりも、演奏技術そのものは格段に上達しているはずだ。だけど、気持ちが伴っていなかった。
ベースは時にギター以上の細かな指の動きが要求される。だからこそ、指先の動きや力加減のわずかな差に、その時の精神状態がもろに反映される。そのほんのちょっとの違いで、コーヒーとミルクの関係が一転して水と油のそれになる。
そして、そういうところにいち早く気づくのは、他でもない一緒に音を合わせるバンドメンバーである。
「……梨音?」
4人での演奏を終え、奏介が心配そうに問いかける。
「梨音、やっぱり今日何か変だぞ?」
そんなことないよ、と梨音は笑い飛ばしてやりたかった。しかし、そうするだけの余裕が今の梨音にはない。そもそも、奏介の指摘は全くもってその通りなわけで。
「ごめん……あたし、今日はもう帰るわ」
「は?」
ぽかんとする奏介をよそに、梨音は力なく笑ってベースのシールドを引っこ抜いた。部室の端に立てかけておいたケースに歩み寄って手を伸ばす。
「ちょっと待て」
背後から重く太い声。
そして、それに反応して振り返った梨音は怖ろしいものを見た。




