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抜け殻になった梨音がいた。
もう今日の軽音部の活動は終わっている。だけど、まだ呪縛から解放されない梨音がそこにいた。
彼方を含め、メンバー全員はもう校舎の外に出ている。しかし、梨音は「ピックを忘れた」と無意味な嘘をついて、再び部室まで戻ってきた。梨音は、1人になりたかった。
黄昏時の夕日が差し込む。斜陽の光が梨音の抜け殻を照らす。
「なんなのよ、あれ……」
がらんとした空間に立つ、黒いマイクスタンドを梨音は見つめる。さっき、彼方が立って歌っていた場所。今でもその光景が目に焼き付いている。ここではない、遠いどこかを見つめて歌う彼方の残像。心がざわつく、フラッシュバック。
あんなモノを見せられてしまったら、もう認めるしかない。彼方をバンドメンバーとして迎え入れることを、止められない。
不意に、部屋に滞っていた空気が揺らぐのを梨音は肌で感じる。重い防音扉が開いている。そこに立つ、大きな影を背負ったジェロム。
「まだそんなところで打ちひしがれてたのか、ベリオンは」
「ベリオンって言わないでください。それに先に行ってって言ったのに、なんで来るんですか?」
「俺がそんな指示を聞くとでも?」
それはまあ、確かに。納得できてしまうのが悲しい。
「それに、放っといて先に帰るわけにもいかなくなった。今日、みんな揃ってカフェライナーにお呼ばれだ」
「え、てことは夏樹さん? 何事?」
「さあな、詳細は俺もよくわからん。まあそういうわけでこれから4人でカフェライナーに行くから、心のスタンバイができたらさっさと降りてくるように。以上!」
そう言って、梨音からの反論は聞かんとばかりに扉を閉めて去ってしまったジェロム。
いったいなんだって言うのさ、夏樹さんは。




