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ああもう、こんなことを言われてしまったら。
なるべく、平常心でいようと思っていた。だけど、奏介の心は脆かった。絶対に流すまいと思っていた涙が、彼方の前で、止めどなく溢れてくる。声の出せない彼方が自分の前であたふたしているのが奏介にはわかった。
「大丈夫だよ……そんなに慌てなくて。俺も……泣きたくなるくらい嬉しくなってるだけだから」
奏介は涙に濡れた顔で、鼻をすすりながら精一杯の笑顔を作る。
「なあ、彼方……本当に俺でいいのか?」
彼方は笑顔でうなずいた。
「音楽くらいしか取り柄がないんだ……そんな俺でも、好きでいてくれるのか?」
やっぱり彼方は笑顔でうなずいた。
「俺……こんなヘタレだぞ?」
すると、彼方はいーっとした顔で大きく首を横に振った。
「っ!」
彼方は、キリッとした目で訴える。奏介はヘタレなんかじゃない。そう表情が言っていた。声がない分、彼方の表情は随分と豊かになった気がする。
「……ありがとう、彼方」
涙を拭った奏介は、彼方の手を取る。その手は細く白く、だけど温かい。清々しい気持ちになっていた。涙と一緒に、背負っていた何かが落ちたみたいに。
「俺も……ずっと彼方を愛してる。愛し続ける。一緒にステージに立ちたいし、ギターだって教える。バンドから離れても……ずっと一緒に」
ずっと一緒に。
言葉にしただけで、彼方との関係性が変わったような気がした。繋いだ手が、そのまま境目もなくなって一生離れなくなってしまいそうな。でも、それもいい。
彼方の表情。幸福の笑顔。だけど、今にも涙がこぼれそう。彼方も今、きっと泣きたくなるくらい嬉しいんだ。
奏介はそっと彼方を引き寄せ、両の腕でその身を包み込んだ。もっと、彼方と1つになりたいと思った。
「俺も好きだ。ずっと一緒にいよう、彼方」
すると、彼方はその言葉に答えるように、奏介の身体をぎゅっと掴んだ。
2人はしばらくそのまま、2人分の鼓動を感じていた。
もう二度と、君を離さない。