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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
エピローグ
173/177

10

 奏介へ


 初めて、手紙というものを書きます。だから正直なところ、手紙の正しい書き方なんて私にはわかりません。だけど、なるべく丁寧に自分の気持ちが伝わるように書いてみようと思います。

 いつもはぶっきらぼうな態度や発言ばかりだったくせに(自覚はありました。しかし、実際それを直そうとするのはとても難しかったです)手紙を書くと丁寧語になってしまうのはおかしな話ですが、あまり気にしないでください。何故か丁寧語のほうが、文章ではすらすらと書けるのです。

 さて、もうこの手紙を奏介が読んでいる頃には伝わっていると思いますが、私は声を失いました。私がカッターナイフを自分の喉に突き立てた時、声帯を大きく傷つけてしまったそうです。ちなみに、その時の記憶は断片的です(そもそも、その数日前からの記憶もなんだか曖昧ですが)。何故自分があんな行動に及んだのか、はっきりとは覚えていません。ただ、当時の私にはああするしかなかったんだと思います。

 ケガについては幸い、命に関わるような急所は外していました。担当のお医者さんからは、もうかつての声を出すことは不可能に近いと言われました。つまり、私はもう自分の声で歌うことは二度となく、MiXが復活することもないということです。

 ここまで正直に書いていいものか、かなり悩みました。でも、奏介への手紙には、全て包み隠さず書いておきたかったのです。

 ここまで奏介が読んだら、きっとショックを受けるかもしれない。優しすぎる奏介のことだから、さらに自分を責めてしまうかもしれない。だけど、その必要はありません。なぜなら、私自身はこの結末に1ミリも後悔していないからです。

 私は声を失った代わりに、たくさんのものを奏介からもらいました。例えば、ジェロムズに出会えたこと。みんなで音楽をする楽しさを見つけたこと。初めてライブのステージに立てたこと。大切な友達ができたこと。ほかにもいっぱいあります。書ききれないくらいあるんです。それらは全部、声をなくしても十分お釣りが返ってくるくらいの喜びです。本当に自分なんかが、こんなたくさんの幸せをもらっちゃっていいのかなって。そんなことを考えて、思わず泣きたくなるくらい嬉しくなってしまう、私の宝物です。それは全部、奏介との出会いなしには巡り会えなかったものです。

 だから、その奏介がくれた宝物達を簡単に手放すつもりはありません。

 夏休みが終わったら、また私はみんなのいる柏陽高校に通う予定です。手続きは、すでにジェロムや足利を通じてお願いしています。もちろん、ジェロムズから離れるつもりもありません。また奏介と同じライブステージに立ちたいです。

 しかし、それには1つ問題があります。私はさっき書いた通り、もう歌うことができません。今のところ、ステージに上がったところで自分は何もできないのです。それでは、意味がありません。

 そこで、奏介にお願いです。また私にギターを教えてくれませんか? 合宿で初めてギターに触れた時のように。あるいは、北海道にいた頃のように。そうすれば、まだ私は大好きな音楽とつながっていられます。私は奏介と同じステージに胸を張って並び立つことができます。そして、今度はもっと自由に自分の好きな音楽と向き合っていきたいと思います。

 それから最後に、一番大事なことを言います。改めて言葉にするのは照れくさいですが、私が何より伝えたいことです。


 私は、多田奏介を愛しています。

 これからも、多田奏介を愛し続けます。


 遠野彼方より


 追伸

 いつか必ず、もう一度乙江に行きましょう。

 そこで、しっかり海渡とお別れしたいです。

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