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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
エピローグ
172/177

 外の景色を望む、大きな窓があった。

 窓から差し込む西日に切り取られるようにして、1人の少女のシルエットが映った。

「彼方……」

 彼方は、ベッドの上にいた。

 奏介に向かって、何も言わず、しかし抑えきれない嬉しさを滲ませた表情で手を振った。

 感動の再会。しかし、素直に喜べない奏介がいる。

 色の白さが際立つ肌。首に巻かれた包帯と、そこから繋がるチューブ。ベッドを囲む医療機器。心なしか、元々小柄だった身体がさらに小さくなったような気もする。

 彼方に近づく、1歩、2歩と、慎重に。彼方は何も言わず、近づく奏介との、距離を見つめている。

 そして、彼方は奏介に向かって手を伸ばし、言った。

「————。————」

 その時、奏介は全てを把握した。

 まさかとは思っていた。しかし、ヒントは揃っていた。『後遺症』というキーワード。簡単に手を引いた音構。そして、出会ってすぐに言葉を発しなかった彼方。

 脳裏によぎる仮定を、信じたくはなかった。だが、もう受け入れるしかなかった。そのために決めた覚悟だ。

 彼方の伸ばした手に触れて、訊いた。

「彼方……声が、出せないんだな?」

 彼方は、無言でうなずいた。

「もう……彼方の歌は……」

 再び、うなずいた。その表情は嬉しさと切なさがないまぜになって。

 旅の終わり、最後の瞬間。断片的にではあるが、奏介は覚えている。

 彼方は自らの身にカッターを突き立てていた。

 自らの喉元に、突き立てていた。

 その瞬間、奇跡の歌声は失われてしまったのだ。

 彼方は、歌を愛していた。一度嫌いになっても、また歌うことの喜びを取り戻そうとしていた。それなのに。

 奏介の胸中に渦巻いたのは、怒りと失望。彼方を追い詰めるだけ追い詰めて、最後はいとも容易く切り捨てた音構の身勝手さに。そして、その音構から彼方を無事に救い出せなかった、自分の無力さに。

「彼方……ごめん……」

 奏介は彼方の片手を握ったまま、ベッドの前で跪いた。こんな安い言葉で、許されるはずはない。しかし、謝罪せずにはいられなかった。

 すると、彼方のもう片方の手が、奏介の前に。その中には、1通の白い封筒。8分音符のシールで封をされている。

「これは……彼方が書いた手紙?」

 彼方がうなずく。

「開けて、読んでいい?」

 再びうなずく。しかし、今度は少し照れくさそうに。

 奏介は慎重に封を解いた。中にあるのは、シンプルな横書きの白い便箋。そこに小さく控えめな文字で綴られている、彼方の言葉。

 奏介は深呼吸して、そのメッセージに目を通した。

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