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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
エピローグ
168/177

 柏に帰ってきて、数日が過ぎた。

 数日の間に、いろいろわかってきたことがあった。スケールの大きいところだと、日本の紛争をはじめとする社会情勢とMiXについて。小さいところだと、その紛争に伴う生活への影響について。

 奏介と彼方が旅に出ている間、世界各地で紛争が激化していた。自らも被災した日本海沿岸の爆撃を始め、中東、中南米、東欧、アフリカ。至るところで火薬が火を噴き、硝煙をくすぶらせていた。その最大の引き金となったのが、オリンピックでの爆破テロだったらしい。これにより被害を受けた先進国が、テロ組織やテロ指定国家に大規模な軍事的制裁を加えた結果だそうだ。少なくとも表向きは。

 そんな世界の混乱に乗じるかのように、MiXは突然の無期限活動休止を発表した。公式サイトは『大事なお知らせ』だけを残して閉鎖。楽曲を発表していた音構は、それ以来全ての施設が封鎖され、沈黙を貫いているという。もちろん、あの河合が姿を見せることもない。かくして、この後は音楽シーンも世界情勢と足並みを揃えて混沌の時代へと突入していくことになるわけだが、それはまた別の話。

 そして、身の回りの影響として最もインパクトが大きかったのは、夏休みの延期だった。具体的な再開の日付はわからない。もしかしたら、平和の訪れとともに夏休みが終わるのかもしれない。

 他にも、近所のスーパーで品薄状態が続いていたり。自衛隊の飛行機が頻繁に上空を飛ぶようになっていたり。テレビが全て報道特番になっていたり。

 それもこれも全部、MiXが消えたせいなんだろう。

 どこか漠然とした焦燥感を抱えたまま、奏介は宿題の問題を解いている。あれからバンド結成の話も来ない。本当に梨音は待ち続けるつもりらしい。

 部屋の中は平和だ。地元企業で働く両親は、普通に今日から仕事を始めた。都内でテロが起きて、遠い海や山の向こうで戦争が続いているなんて、まるで信じられないような真夏日の昼下がり。全身に浴びるクーラーの清涼感。意外と捗る宿題。英単語の羅列と分詞構文の解説。どんなに英語の課題をこなしたところで、今の自分は世界から隔離されている。現状、使い道なんてどこにもないイングリッシュ。

 そこに、唐突になる呼び鈴。こんな時間に来るのは、自分の知り合いなら梨音くらいしか思いつかない。でも梨音ではない気がする。奏介の勘がそう告げていた。宅配便だろうか。

「……はーい」

 ドアの向こうまで聞こえなさそうな気だるい返事と共に部屋を出て、階段を下りる。

 そして、ふと強烈なデジャヴを感じた。

 あの日も、晴れた真夏日の昼下がりだった。家には誰もいなくて、自分はクーラーの効いた部屋に篭りっきりだった。そんな平穏を謳歌していたタイミングで、彼は唐突に現れたのだ。

 ドアを開ける。

「ハロー。久しぶりだな、奏介」

 突然、行方不明だった岸田ジェロムはやってきた。

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