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ワールズエンドの歌姫  作者: 染島ユースケ
6.ワールズエンドの歌姫
161/177

30

 朝に濡れた、孤独の小道を歩く。

 海がぐっと近くなった。生い茂っていた草花は海水の染み込む砂浜になった。そして、歩いてきた道も終点にたどり着く。

 空と海と大地。3つが全て交わる地平線の始まり。あるいは境界。

 至る所に朽ち果てた木々の成れの果てが転がっている。立ち枯れの木も数本、力なく佇んでいる。まるで砂浜で打ち上げられて捨てられた、花火の残骸のように。

 純度の高い寂しさに包まれた場所だった。しかし、その空気は優しくもあった。ここなら、誰も彼方の存在を責める者はいない。彼方の自由を奪う者もいない。

 ここが、世界の果てだ。

「彼方、1人で立てる?」

 奏介は彼方からそっと、自分の身体を離した。離れる間際で彼方の手に力が入ったが、どうにか1人で立ってくれた。2人分のギターケースは、砂浜の上に降ろす。

 ここで、2人の逃避行は終わる。手負いの足利も、そのつもりでここまで連れてきてくれたんだろう。覚悟を決めなければならない。奏介はそう悟っていた。

「だったら……最後に歌ってやる」

 たぶん、残された時間は少ない。ケースを解いて、ギターも自由の身に。丁寧なチューニングは飛ばし、だいたいの音が合った時点でじゃかじゃかと鳴らす。そのままイントロへ爽やかに駆け抜ける。

 徐々に広がる朝焼けを背にして、彼方と正面から向かい合う。

 奏でるのは、最後に海渡が残してくれた音楽。奏介がギリギリまで歌詞を書き続けた曲。タイトルは、一昨日仕上げた手書きの歌詞には『No title』とある。

 結局、奏介は最後まで書き上げることができなかった。1番の歌詞が、どうにか形になったところまで。

 でも、それでも歌うなら、今しかない。

 奏介は、未完成の歌を彼方に届ける。もちろん、彼方以外の聴き手はいない。それでいい。それがいい。

 歌い出しと同時に、周囲が明るくなる。



 君は鳥籠の中

 鍵を解いて空を見上げ

 広げた翼はまだ傷ついたまま


 青い鳥、夢の続き

 チョークで描く

 まぶしすぎる空と海がきらめいていた


 水平線混ざり合った

 僕ら見た夏色は

 離れ離れになった

 僕らの胸の中


 小さな手の内に

 握りしめた希望とともに

 見上げてた空の彼方


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